第41話 勇者の墓標と竜の子の力
Sランクダンジョン『勇者の墓標』は、聖都の地下に張り巡らされた地下道が長い年月をかけてダンジョン化したものだ。
最下層には聖域と呼ばれる魔物の寄り付かない階層があるため、教会は表向きは神から与えられた神聖なるダンジョンだと言っている。
だが、実態は本部の下にダンジョンがあるなどたまったものではないらしく、年に数回程度、高ランクの冒険者を受け入れて教会の支援のもとで攻略にあたらせている。
かれこれ20年近く冒険者を受け入れ続けており、その回数は100を越えているが、未だに踏破者は出ていない。
「ガウェンさん、ガウェンさんの相棒って冒険者の方なんですか? 」
ダンジョンの一層を進みながらモレッドが尋ねる。
「ん、昔は冒険者をしていたこともあったが今は違うぞ。 今のあいつは聖域の守護者をやってるんだ 」
「あ、なるほど! 冒険者の人達を補助する方なんですね。 呪いを祓えるってことは職業は僧侶ですか? 」
「あ、いや、そういうわけじゃなくてな、、 って、おっと! 」
通路の奥に見える曲がり角から突然青い大型犬のような魔物が現れ、するどい牙を剥き出しにしてこちらへ飛びかかってくるが、ガウェンはいとも簡単に手斧で魔物を両断する。
「ちっ、ブルーウルフか。 1階層からこいつに出くわすとはついてないな。 モレッド、リッツ、前方を警戒しろ! すぐに群れが来るぞ! 」
ガウェンの声にモレッドとリッツは姿勢を低くし、曲がり角の奥をじっと見つめる。
すると、青い塊が曲がり角から一斉に飛び出し、こちらに向かって一直線に駆け寄ってくる。
「リッツ! 出鼻を挫くよ! 」
「わかった! 『ウインドカッター!!』 」
リッツが呪文を唱えると、緑色をした風の刃が唸りを上げてブルーウルフの群れに向かって飛んでいき、前にいた2体の身体を切り裂く。
リッツはすぐさま2撃目、3撃目を放ち、風の刃が次々とブルーウルフの群れを引き裂いていく。
「やるな、リッツ! モレッド、リッツのカバーを頼むぞ! 」
そう言うとガウェンは背中に背負っていた黒い長斧を握りしめ、ブルーウルフの群れに向かって駆け出す。
「ふんっ! はっ!」
ガウェンが長斧を振るうと周囲のブルーウルフが弾けたように吹き飛ぶ。
「なるほど、こいつはすごいな。 狼どもの速度が半分以下だ 」
ガウェンがモレッドの弱体化スキルの効果に感嘆の声をあげる。
ブルーウルフ達は矢継ぎ早にガウェンに飛びかかっていくが、その度に黒い一閃が走り、青い群れはその数を減らしていく。
しばらくすると、ガウェンを取り囲むブルーウルフ達とは別の塊が通路の脇を走り抜け、モレッドとリッツの方に向かってくる。
「モレッド、リッツ、行ったぞ! 」
ガウェンの声より早く、リッツは迎撃のための魔法を展開する。
リッツの前方に緑に輝く魔力が集まりかけたその時、ククルがカバンから飛び出し、リッツの肩に乗って鳴き声をあげる。
「クルッ、クルーーー! 」
リッツの魔力が大きく膨れ上がり、多数の風の刃が同時に生成される。
「え、何これ!? まあいいや、いけっ、『ウインドカッター!!』」
リッツは一瞬戸惑いを見せたがすぐに切り替え、前方に展開された風の刃を機関銃の如く連続で射出する。
ズガガガガガッッッ!!
「わわわわっ!? 」
想定を上回る威力にリッツは驚きの声をあげ、リッツ達の方へと向かっていたブルーウルフの群れはあっという間に肉塊へと変わる。
「す、すごいね、リッツ、、、 」
モレッドが若干引き気味でリッツを誉めていると、すぐさま新手が出現し、リッツは再び風の刃を乱射する。
その後も何度か同じような戦闘を繰り返すと、ブルーウルフの群れがぴたっと出現しなくなり、ガウェンから戦闘終了が告げられた。
「モレッドのスキルは非常に便利だし、白竜の加護の効果も凄まじいものがあるな。 だが、あの溢れる魔力を制御して見せたリッツも大したもんだ。 実は高名な魔術師の弟子だったりするのか? 」
ガウェンが食い気味にリッツに尋ねる。
「い、いや、リッツはただの教会の子供ですよ。 魔法は少し神父様から習ってましたし、補助の魔道具もいただいてるんですけど、こんなのはさすがに、、、 」
「ほう、ならぶっつけ本番であれか。 素晴らしいな、諸々の用が片付いたらうちに欲しいくらいだ 」
そう言ってガウェンは腕組みをして何かを考え出すが、すぐにモレッドの方を向いて笑顔を見せる。
「おっと、違う違う、おまえの嫁さんを取ろうなんて気はないぞ。 凄まじい魔力だったから、ついつい口が滑っただけだ 」
(それは取ろうとしてるのでは? )
モレッドは心の中で呟くが口には出さず、隣で赤くなっているリッツを見ないようにして、何事もなかったかのように受け答えをする。
「ガウェンさんも変わりませんね。 前に来たときは勇者パーティー全員を教会の兵団に引き入れようとしていたし 」
「ガハハッ、そんなこともあったか。 まあ、よくある話だろう、優秀な若者が引き抜かれるなんてことは 」
「いや、勇者を引き抜くとか聞いたことありませんよ 」
呆れた顔のリッツに突っ込まれ、ガウェンはまたガハハと笑いながらダンジョンの奥へと
歩き始めた。
何度か戦闘を繰り返しながら2時間程進むと下の階層へと降りる階段が現れ、モレッド達は中層へと歩を進める。
教会や聖都の街並みとよく似た石造りの回廊だった上層から一転、中層は暗い洞窟のような景色が続いている。
しばらく進むと奥の方からガシャガシャと何かが擦れ会うような音が聞こえてくる。
警戒するモレッド達の前に、ダンジョンの暗がりから現れたのは剣や鎧を身に付けたガイコツの群れだった。
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