第37話 聖都へ

 メキドから半日ほど歩いた荒野、モレッドとリッツは岩影で火を起こし、夕食の準備をしている。

 その傍らには子犬ほどの小ささの白い竜がすやすやと眠っている。


 野草と魔物の肉のスープを火にかけながら、モレッドが口を開く。


「びっくりしたね、見送りの人達が見えなくなったと思ったら、いきなりリッツのカバンから飛び出てくるんだもの 」


「ほんとだよ。 いきなりカバンが動き出した時はトリス神父のくれた魔道具に何かあったのかと思ったけど、まさか子供の竜だなんて、、、 」




 時は少し遡り、メキドの街を出てまだ数十分ほどの頃、2人がリッツのカバンから飛び出た小さな白竜に驚いていると、白竜の背中からヒラヒラとドリアードの手紙が落ちてきた。


『モレッドとリッツへ』


『カバンの中は見たかな? ちょっと驚いたかもしれないけど、その子は2人に危害は加えないから安心していいよ。 魔石の力で産まれた子だから、たぶんリッツによく懐くと思う。 大事に育ててあげてね 』


 2人はどうしようと顔を見合わせるが、白竜の子供は嬉しそうに2人の周りを飛び回ると、ちょこんとリッツの肩に乗って頬擦りをする。


 気持ち良さそうに目を細めている姿がとても愛らしい。


「ねえ、リッツ。 かわいいね、この子 」 


「うん、リッツもそう思う 」


「まあ、せっかくドリアードが預けてくれたんだし、危ない竜じゃないのなら一緒に行こうか 」


「さんせーい。 そうしたら、今からは2人と1匹旅だね 」


「クルッ、クルッ! 」


 白竜の子供が嬉しそうに鳴き、また2人の周りを飛び回る。


「おいで、一緒にいこう 」


 リッツが優しく呼び掛けると、白竜の子はまたリッツの肩にちょこんととまり、2人と1匹は再び聖都への道を進み始めた。




 再び時刻は夜、モレッドは器に並々にもった熱々のスープをリッツに差し出す。


「はい、どうぞ。 今日はいい具合のプチボアが獲れたから、肉の旨みたっぷりのスープになってるよ 」


「ありがとう。 メキドに戻る時も思ってたんだけど、モレッドってほんとに料理が上手だよね! このスープもとっても美味しそう! 」


「え、あ、うん、ありがとう。 えーっと、そうだ! 白竜の子に名前をつけてあげない? 」


 リッツの真っ直ぐな褒め言葉に恥ずかしくなったモレッドは白竜の子の方を見ながら話題を変える。


「名前かー。 じゃあ、『クルル』なんてどうかな? 」


「クルル? あ、もしかしてこの子の鳴き声? 」


「そう、この子、「クルッ、クルッ」って鳴いてるから。 だから、『クルル』って。 変かな? 」


 リッツが首を傾けながらモレッドを見る。


 モレッドはその仕草に心の中でドキドキとしながらも顔には出さず、ただニッコリ笑って首を横に振る。


「全然変じゃないよ! とってもいい名前だと思う! よし、じゃあこの子の名前は『クルル』だ 」


 モレッドがそう言うとさっきまで寝ていたクルルが目を覚まし、のそのそとリッツの方へ歩いてくる。

 リッツは優しく微笑みながら、両手を拡げてそれを迎える。


「おいで、クルル 」


「クルッ? 」


 クルルはリッツに抱き抱えられながら、不思議そうな目でリッツを見ている。


「そう、あなたの名前はクルルだよ。 これからよろしくね、クルル 」


「クルッ、クルッ 」


 クルルは嬉しそうに鳴きながら、リッツの胸に頬を押し当てる。

 モレッドはその様子をお母さんと子供のようだと思い、ニコニコしながら見つめていた。




 翌朝、まだ日が昇る前に野営道具を片付け、モレッド達は聖都への道を歩き出す。

 リッツは地図を眺めながら、今日からの移動ルートをモレッドに示す。


「聖都まではかなり距離があるから、普通に歩くと2ヶ月半くらいかかりそうだね。 後半は山道になるから、天候次第じゃ進めない日も出てくるし、いくつか村を経由して食料を補充しながら進もう 」


 リッツの言葉にモレッドが深く頷き、まだ寝ぼけた様子のククルを肩に乗せたまま2人は街道を歩いていく。



 2時間程進んだところで、モレッド達は遠くにゴブリンの群れを発見する。

 いつも通り、2人で連携して討伐しようと考えたモレッドだったが、リッツがモレッドの動きを遮ってくる。


「待って、モレッド。 あの群れ、リッツ1人で討伐してもいいかな? トリス神父にもらった魔道具を実戦で試してみたいの 」


「あ、昨日言ってた魔道具だね。 もちろんいいよ。 でも、かなり大きな群れだし気をつけてね。 ぼくも近くで待機して、危なくなったら助けに入るから 」


 リッツはにっこり微笑むと、疾風のような速さでゴブリンの群れに向かって駆け出した。


 あっという間に自身の射程距離まで接近したリッツは走りなから呪文を唱える。


「いけっ! 『ウィンドカッター!』 」


 すると、リッツの前方から薄い緑色をした風の刃が高速で射出され、リッツの接近に気づいて狼狽えるゴブリン達に向かって飛んでいく。


 風の刃は手前の1体を真っ二つにしたかと思うと、そのまま後ろにいた2体のゴブリンにも直撃し、その体を大きく切り裂く。


 リッツはそのままゴブリンの群れの側面を走り抜け、すれ違い様にもう一度風の刃を放つ。


 再び風の刃がゴブリンを切り裂き、それに怒ったゴブリン達は雄叫びをあげ、一斉にリッツを狙って攻撃を開始する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る