第35話 スキルと昔話
今回からまたモレッド達のお話です。
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メキドの街に戻ったモレッドとリッツは街を守った英雄として歓迎された。
街は防衛のために残った一部の貴族が運営しており、多少の混乱はあったようだが、人々の生活はほとんど変わらずに営まれていた。
二人は戻ったその日に衛兵達に岩山のほこらで見聞きしたことを伝えた。
これからはキングリザードのルージュと共に土地を豊かにしていくべきだと話したところ、貴族も衛兵も困惑していたが、それでも熱心に話を聞き、今後どうしていくべきかを議論してくれた。
その日、モレッドがリッツを教会まで送っていくと、二人の無事を喜んだ神父と子供達に捕まり、そのままささやかな宴が開かれる。
結局その日、モレッドは子供達に離してもらえずに教会に泊まり、ドリアードが街に来るまでの10日間、そのまま教会で寝泊まりを続けたのだった。
その間、モレッドはリッツの郵便配達を手伝う形で街の外に出て魔物と戦ったり、攻撃魔法が使えるトリス神父に手伝ってもらう形で自身のスキルを検証する。
結果、一つ目のスキルである『弱体化』は、モレッドが敵と認識している相手にだけ発動し、距離が近づく程その効果が強まることがわかった。
近距離での効果はなかなかに凶悪で、ゴブリンのように弱い魔物はほとんど身動きが出来なくなるほどだった。
二つ目のスキルの『打消し』は、モレッドの左手で触れたスキルや魔法の効果を打ち消すものだった。
これもまた凶悪なスキルで、左手で触れさえすれば、身体を強化する魔法だろうが、魔物のブレスだろうがなんで打ち消すことができる。
トリス神父が言うにはその対象は魔力を帯びた攻撃の全てらしく、竜であるルージュのブレスすら火傷を負いながらも打ち消してしまったことから、対魔力攻撃という点では最強の防御と言える。
モレッド達が街に戻った10日後の朝早く、モレッドが子供達と寝ていた部屋にリッツが寝巻きのままで飛び込んでくる。
「モレッド、起きて! さっき急にドリアードの声が聞こえたんだけど、もうすぐ街に着くから迎えに来て欲しいだって! 」
モレッドは眠い目をこすりながら、ベッドから起き上がる。
見るとリッツはところどころ綺麗な緑の髪が跳ねており、彼女も正に今起きたばかりといった様子だ。
「ドリアード、、、 あ、ドリアードが来たんだね! よし、急いで迎えに行こう! 」
モレッドとリッツは慌てて支度を整え、子供達を起こしにやってきたトリス神父に事情を説明すると、大急ぎで城門へと向かう。
二人が城門に到着すると、衛兵があたりを忙しく走り回っており、上から見張りの兵が大声で何かを叫んでいる。
「せ、赤竜だーーー! 赤竜が襲来ぃぃーーー!! 」
城門から外を覗くと、遠くに真っ赤な大型の竜が見え、その肩には緑色をした小さな子供が乗っている。
ふと、近くに視線をやると門から出てすぐのところでボルドーが部隊を率いて、冷汗をかきながら赤竜を睨み付けている。
モレッドはボルドーの元に駆け寄り、普段通りの口調で話しかけた。
「ボルドーさん、おはようございます 」
「む、、、 ん、おお! モレッド殿! いいところに来てくれた。 ついこのあいだキングリザードと戦ったばかりだと言うのに、今度は赤竜だ! これも領主の阿呆が魔石を奪っていたせいなのか!? くそっ! 」
捲し立てるボルドーだったが、モレッドは落ち着いた口調で返事を返す。
「ボルドーさん、心配しなくてもあの竜は街を襲いません。 あの竜の名はルージュ、そしてその肩に乗っている小さな子供がドリアードといって、二人共、この辺りの土地を納める守り神なんです 」
「は、え? あの赤竜が守り神? ああ、言われてみれば先日戦ったキングリザードとよく似ている、、、 」
話していると、ドリアードがこちらを見つけたようでルージュの肩から手を振ってくる。
モレッドとリッツは手を振り返し、駆け足でルージュの足元までやってくる。
「ルージュ! すごい、とっても綺麗な赤色になってる! 」
リッツが嬉しそうにルージュに駆け寄って鼻先を撫でると、ルージュはリッツの胸に鼻先を優しく擦り付ける。
「二人とも待たせて悪かったね。 でも、ルージュがとっても綺麗になっててびっくりしただろう? 呪いの毒を完全に取り除いたら、母親と同じ宝石のような赤い鱗が戻ったんだ 」
モレッドがルージュの鱗を誉めると、ルージュは嬉しそうに鼻を鳴らす。
「感動の再開を楽しみたいところだけど、僕もルージュも忙しいから早速本題だ 」
ドリアードがふわっとモレッドの前に降り立つ。
「モレッド、君の探していた聖女は今、教会の総本山である聖都にいる。 あそこはぼくの探知範囲外ではあるんだけど、エレナを運んでいた連中が教会の一部の人間だけが使える聖都への抜け道に入っていくのを確認したから、まず間違いない 」
「聖都、、、 その、エレナの状態はどうだった? 」
「ぼくが探知できた時点までだけど、彼女はいゃんと生きてはいる。 ただ、前に言ったおかしな状態っていうのは変わっていなくて、何かの呪いにでもやられたみたいだった 」
「呪いか、、、 わかった、ありがとう、ドリアード 」
モレッドはドリアードにお礼を言うと、今度はリッツの方を向く。
「リッツ、聖都への道を教えて。 今日、みんなに挨拶を済ませたら、ここを発つよ 」
「モレッド、聖都なら私が、、 」
リッツが言いかけたその時、ドリアードがモレッドの顔に飛び付いてくる。
「えーーーっ、もう行っちゃうのかい、モレッド。 せっかくはるばるルージュと会いにきたのにそれはないよ。 ベティのこととか、いろいろ話したかったのにさ! 」
突然ドリアードの口から出てきたベティの名前に、モレッドは驚いて質問を返す。
「え、ベティ? ドリアードはベティを知ってるの? 」
「ん、前に言ったじゃないか。 ぼくは君が小さい頃に会ったことがあるって。 当然、ベティにも会ってるよ、双子なんだから 」
突然知らされたベティが自分の双子の兄弟だと事実にモレッドは目が点になる。
「え、え、ベティがぼくと双子?? 」
「そう、双子のお姉ちゃんだよ。 って、君、そんなことまで忘れちゃってるの? 」
ドリアードは参ったなという様子で腕を組み、ルージュに視線を送る。
「クアァッ 」
「うーん、そうだね。 やっぱりそこは自分で思い出してもらわないとね。 でもさ、、、 」
ドリアードとルージュは身振り手振りを挟みながら、何やら深刻そうな顔で話し合っている。
「え、なに? なんて言ってるの? 」
モレッドはリッツの方を見る。
「えっとね、2人は昔のモレッドの話を自分達が勝手にしちゃっていいのかって話をしてるの。 ちゃんと自分で思い出して、どうするかを考えてほしいからって 」
「昔のぼくのこと、、、 」
モレッドが俯いて考え込んでいると、ルージュとの話を終えたドリアードが下から覗きこんでくる。
「モレッド、君の記憶っていつからないの? 」
「あ、えっと4年前かな。 勇者パーティーにはいる前のことは何も覚えてないんだ 」
「なるほど、それでか。 でも、ベティには会ったんだろ? 彼女は何か言ってなかった? 」
モレッドはベティとのやりとりを思い出すが、モレッドの記憶のことはおろか、二人が双子の姉弟であることすら彼女は口にしていなかった。
「ラドームの街で困ってた時に助けてくれたし、職業のことなんかも教えてくれたけど昔のことは何も。 自分が姉だってことも言ってなかったよ 」
「うーん、それだとますますぼくたちが話すわけにはいかないか、、、 ごめんね、モレッド。 いろいろと昔話をしたかったから、とっても残念だよ 」
ドリアードは申し訳なさそうにしていたが、モレッドは笑顔で返事を返す。
「大丈夫だよ、ドリアード。 エレナのこともベティのこともいろいろ教えてくれてありがとう。 じゃあ、ちょっとみんなにお別れをしえこようかな 」
そう言ったモレッドの背後にそっと忍び寄る影があった。
「モレッドさん、忘れ物がありますよ 」
耳元でそっと囁くその声にモレッドは思わず身震いする。
「もう! トリス神父、何やってるの? 」
リッツの呆れ声を聞いてモレッドが振り返ると、トリス神父がヒラヒラと手を振りながら立っていた。
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