第28話 父と母
翌朝、まだ太陽が山々を照らす前、モレッド達を乗せたキングリザードは目的地である岩山のほこらにたどり着く。
「リッツ、着いたよ。 起きて 」
むにゃむにゃと寝ぼけているリッツを揺さぶって起こしてみるが、昨日の出来事を思い出したモレッドはリッツの顔をまともに見れず、1人で顔を赤くする。
キングリザードの背に設置された籠から降り、身体を動かしてみると、昨日の負傷が嘘のように快調だった。
焼け焦げていた左腕もほとんど元通りになっており、なぜか泥だらけだったはずの衣服も綺麗にされていた。
モレッドはキングリザードの首に乗って機嫌良さげにしているドリアードにお礼を言う。
「ドリアード、きれいに怪我を治してくれてありがとう。 おかげでもう動けそうだよ 」
「それはよかった。 でも、見た目は大丈夫そうでも魔力によるダメージは体の中に残ってるから無理はしないでね 」
「うん、そうするよ。 あの、ところで、昨日、ぼくに久しぶりって言ってたとのって、、、 」
「その話は後でしようか。 リッツも起きてきたし、先に話しておきたいことがあるんだ 」
見ると寝ぼけた様子のリッツが籠から降りてきており、キョロキョロしながら目をこすっている。
「あー、モレッド、おはよう。 ドリアードとルージュもおはよう。 」
「あ、リッツ、おはよう、、、 」
(ん、ルージュ? )
モレッドが不思議そうな顔でキョロキョロしていると、ドリアードがキングリザードの方を手のひらで指して教えてくれた。
「ああ、彼女の名前は『ルージュ』っていうんだ。 そういえばモレッドには挨拶がまだだったね。 おいで、ルージュ 」
ドリアードが呼び掛けるとルージュはモレッドの前に来て頭を降ろし、目を閉じて鼻先を近付けてくる。
モレッドが戸惑っていると、ドリアードが大丈夫だよと声をかけてくる。
「昨日はごめんね、だってさ。 よかったら鼻先を撫でてあげてくれないかな、それが仲直りの印になるから 」
それでもモレッドがどうしようか迷っていると、リッツが隣にやって来る。
「モレッド、ルージュはね、私達で言うとまだ三歳くらいの小さな女の子なんだって。 昨日は魔石を探していたら、突然攻撃されて、びっくりして暴れちゃったんだけど、たくさんの人に怪我をさせてごめんなさいって言ってるよ 」
突然、ルージュの気持ちを伝え始めたリッツにモレッドは驚き、目が点になる。
「あ、えっとね、私、昨日から少しずつルージュの言葉がわかるようになったんだ。 それで、昨日の夜、ルージュとドリアードとたくさんお話したの 」
「そうだったんだ。 あ、でも、お父さんのことは、、、 」
リッツはちらっとドリアードの方を見て、今度は真っ直ぐモレッドの方に向き直る。
真正面から向き合って、モレッドは始めてリッツの目が赤く腫れていることに気がつく。
「えっとね、まだ整理がついてないところもあるんだけど、昨日話をして、ルージュと自分は同じだったってわかったの。 少し長くなるけど聞いてくれる? 」
モレッドがこくりと頷くと、リッツとドリアードは代わる代わる14年前の出来事について話し始めた。
ルージュの母は精霊ドリアードに仕える大地の守り手だった。
彼女は千年に渡って岩山のほこらの魔石を守り、ドリアードが張り巡らせた木の根を通して魔石の力を大地に行き渡らせることで、この地に暮らす人々の暮らしを豊かにしてきた。
14年前のある寒い朝、近くルージュが産まれて来ることを悟った母は、岩山のほこらにこもり準備を整える。
か弱く小さな身体で産まれてくる我が子を傷付けないように魔力を極限まで抑え、鋭い爪をまるめ、固い皮膚を柔らかくするのだ。
そして、ドリアードは新たな守り手をこの世に産み出すため、魔石の中に戻る。
彼は大地の全てに魔力が行き渡っていることを確認した後、今度は自身のすべての魔力を産まれてくる子に注ぐ。
そして、力を使い果たしたドリアードは魔石の中で一時の深い深い眠りにつく。
もうすぐだ、あと数日もせずにこの子は産まれてくる。
母がそう思ったその時、突然領主の私兵達が岩山のほこらに現れた。
どこからか守り手が動けなくなっていることを知った欲深い領主は、今のうちに魔石を奪おうと考えたのだ。
彼らは魔石への道を塞ぐルージュの母に3日3晩攻撃を加え続けた。
魔法を浴びせ、槍で突き、代わる代わる休むまも間もなしに。
だが、その大きな身体を傷付けることは叶わず、私兵達はほこらの奥へと進むことができない。
そこで、彼らは街から若い衛兵に猛毒の薬を持ってこさせた。
何も知らず、正義感に溢れた若い衛兵は、人々を脅かす凶悪な魔物がいると聞かされ、一晩中眠らずに走り続けてやってきた。
若い衛兵は息を切らせながら猛毒の入った袋を差し出す。
衛兵の名はカール。
もうすぐ彼に娘が産まれる。
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