第26話 激戦の果て

 刃がキングリザードの腹を切り裂き、青い血が吹き出る。


 振り回される爪を躱し、モレッドは再びキングリザードから距離をとる。


 キングリザードの腹部、少し前に出来たであろう大きな傷跡の隣に、一回り小さな傷ができており、ダラダラと青い血が流れ落ちている。


 モレッドは少し距離を開けてキングリザードに相対する。 


 モレッドはたった1人でキングリザードの猛攻を凌ぎきり、その防御を破って一撃を与えた。


 勇者とて1人ではなし得ないであろう、その場にいる誰もが畏敬の念を抱くような凄まじい戦いをやってのけた。



 だが、代償は大きく、ブレスを受け止めた左腕は焼け焦げ、身体中に無数の傷が浮かんおり、満身創痍といっても差し支えない。


 一方のキングリザードは脇腹に傷をおってはいるものの、未だ充分な余力を保っており、どちらが優勢であるかは見た目にも明らかだった。


 だが、それでもキングリザードはモレッドを有象無象の羽虫ではなく、魔石を取り返すために倒すべき脅威と認識した。


 三度、キングリザードが咆哮し、モレッドに向かって上半身を大きく持ち上げて威嚇する。 


 そして、ゆっくりと前足を下ろしたかと思うと、先ほどまでの荒々しさから打って変わって、隙を窺うように慎重に距離を詰める。



「け、警戒している。。。 我々など歯牙にもかけなかったあのキングリザードが、モレッド殿の攻撃を恐れている 」


 ボルドー達は再び驚きの声をあげ、固唾を飲んで戦いの行く末を見守る。



 両者の距離はジリジリと狭まり、間合いに入った瞬間、キングリザードは魔力を纏った爪にを振り下ろす。


 モレッドは真横に飛び退き回避するが、キングリザードはすぐさま横なぎにその爪を振るって追撃する。


 その追撃を姿勢を低くして躱したモレッドは、そのままキングリザードの懐に潜り込んで魔力の壁をこじ開け、更なる一撃を見舞う。


 ザッッッ!!


 暁の短刀が先ほどより深くキングリザードの身体に食い込みその肉を抉る。


「ギャオオオオーー!! 」


 キングリザードが身体を一回転させ、限界まで接近していたモレッドにその巨大な尾が迫る。


(まずいっ! なんとか回避をっ )


 モレッドはキングリザードの身体を蹴って身体を捻りながら上に逃れて尾の直撃を避けるが、乱気流のような魔力に吹き飛ばされ、数十メートル先の地面に叩きつけられる。


「ぐっ、、、はっ、、、 」

 

 ボロボロになりながらもなんとか立ち上がるモレッドをキングリザードの巨大なブレスが襲う。


 先ほどよりも明らかに大きく、そして込められた魔力も強い。


 これで決める、そう言うかの如く放たれた渾身の一撃である。


 モレッドは再び左腕を突きだし、ブレスを相殺にかかる。


 スキルによって相殺された魔力が火花のように煌めき、モレッドの周囲で瞬く。


「があああーーーーーっ!!」


 モレッドの咆哮と共に光が弾け、その直後、辺りに轟音が鳴り響く。


 ボルドー達が固唾を飲んで見守る中、光の奥からモレッドが姿を表すが、息を荒ながらガクッと地面に片膝をついてしまう。


「はぁっ、はぁっ 」


(よしっ、なんとかもう一度ブレスを防げた。 たぶんこれは魔力を消し去るようなスキルだ。 これで正面からならキングリザードのブレスは防げる、けど、、、 )


 モレッドは焼け焦げた自身の左腕を眺める。


(左手はもう一度だけならなんとかブレスを防げるかな、、、 右腕は大丈夫だから剣は握れるけど、、、 )



 モレッドが思案している間、キングリザードからの追撃はない。


 キングリザードは全力のブレスを防がれたことで更に警戒を強めていた。


 それに加えて次はもっと強力な攻撃が来るのではという疑念が、キングリザードに攻撃をためらわせていたのだ。


 そして、2撃目の傷は内蔵にまで達しており、もはやキングリザードにも余裕はない。


 モレッドとキングリザードは距離をおいてにらみ会う。


( エレナが無事かもわからない、サイオンだって止めなきゃいけない。 ここで、こんなところで死ぬわけにはいかない。 でもぼくが戦わないとボルドーさん達もメキドの街もやられてしまう。 くそっ、どうする、、、)



 有効な打開策も見つからないまま、キングリザードはまた少しずつ距離を詰めてくる。


 あとほんの少しで間合いに入る。


 そう思った瞬間、キングリザードに魔法と矢が次々に降り注ぐ。


「モレッドを守れ! モレッドを死なせるなー! 」


 負傷者を退避させていた衛兵達が戻ってきて、ボルドーの指揮の元、再びキングリザードに攻撃を仕掛けたのだ。


 だが、そのどれもが魔力の壁に阻まれ、キングリザードの身体に届くことなく消え去り、地面に落ちていく。



 本来、キングリザードにとっては自ら対処するまでもない攻撃だが、今この瞬間は違う。


 目の前の強敵を全力で叩き潰すため、群がる羽虫は邪魔なのだ。


 キングリザードはモレッドの方を睨んだまま、突撃横を向き、ボルドー達に向かって炎の漏れ出す口を大きく開く。


「なっ!? ダメだ、避けてーーーっ 」


 モレッドはボルドー達の方に手を伸ばしながら叫ぶ。



 だが、間に合うはずもなく、無情にもキングリザードの口から赤黒いブレスが放たれる。


 猛毒の黒を纏った炎が全てを焼き付くさんとボルドー達に迫る。



 ボルドー達が死を悟り、彼らの視界を赤黒い炎が埋め尽くしたその時、鮮やかな緑色をした光の柱が彼らを包み込んだ。


 光の柱の中心で、美しい緑の髪をなびかせた少女が肩で息をしている。


「よかった、ギリギリだけど間に合った。 モレッド、ボルドーさん、待たせてごめんね 」


 そう言って汗ばんだ顔で微笑んだ後、少女は大事そうに抱えた鞄から魔石を取り出し、キングリザードに歩み寄る。 


「リッツ、危ない! 不用意に近寄ったら、、、 」


 モレッドが制止しようとすると、突然魔石が光を放った。


 すると、光の中から緑色の子どもが現れ、モレッドの顔に飛び付いて嬉しそうに頭を撫でてくる。


「モレッド久しぶり! 会いたかった! 」



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