第23話 老兵の切札
「ト、トリス!? おぬしいったいどこから湧いて出た!? 」
ボルドーは心底驚いた顔で床から立ち上がりながら、トリス神父を問い質す。
「おや、これは驚かせてしまって申し訳ない。
盛り上がっているところ悪いのですが、モレッドさんが入ったところで正面からキングリザードと戦えば全滅するだけです。 これはもう魔石をキングリザードに返してしまった方がいいかと思うのですが 」
「いや、待て。 わしはキングリザードと戦ったことがあるし、モレッド殿の戦いも見たが、そう易々とやられてしまうようには思えん。
わしを含め、残った兵たちの中にもキングリザードとの闘いに備えて鍛えた精鋭が何人もおる 」
「ええ、13年前のキングリザードなら、精鋭部隊にモレッドさんが加わればそれなりにいい勝負ができたでしょう。 だが、今のキングリザードは13年間で大きく成長し、その身に宿る魔力を格段に強めています。 先日のように、メキドが誇る鉄壁の城門すらいとも簡単に破壊してしまえるほどにね。 これと正面からやりあうのであれば、天命の子の力だけでは足りません。 」
「・・・それほどなのか。 いや、貴様が言うのであれば、間違いはないのだろうが、、、
だが、キングリザードに魔石を返してしまえば、街の結界は、、、 」
「その点は、街中の魔導士を総動員すれば、数日程度なら近いレベルの結界を張り続けられましょう。 その間に上空の魔物に対応する部隊を再編すればいいのです。 ボルドー殿、今、優先すべきは住民と兵の命を守ることです。 ご決断を 」
ボルドーはしばらく悩んだ後、副官と少し話をして立ち上がる。
「・・・わかった。」
「では、みなに作戦を伝える!
キングリザードにはモレッド殿とわしを含む精鋭の1番隊だけであたる。 目的は陽動、側面から奇襲をしかけ、できる限り街に近づく時間を遅らせるのだ 」
衛兵達から「はっ!」という威勢のいい返事が飛ぶ。
「2番隊は領主の屋敷を捜索し、結界の魔法陣を探せ。 魔石を入手し、キングリザードのところまで届けるのだ。 3番隊は住民の避難誘導だ、頼むぞ! 」
作戦が決まり兵たちから歓声が上がる。
ボルドーは兵たちにも聞こえるようにリッツに指示を出す。
「リッツは2番隊を手伝ってくれ。 魔石を見つけたら詰め所まで大急ぎで運ぶんだ。 郵便屋で鍛えた足をあてにさせてもらう 」
リッツは満面の笑みで頷き、
「わかりました! ボルドーさん達も気をつけて! モレッド、すぐに魔石を持っていくから、みんなをお願い! 」
と言って2番隊と一緒に詰め所を出ていった。
ほどなくして、斥候役の兵から、キングリザードが街から1km程の位置まで接近しているとの連絡が入る。
「1番隊、出るぞ!」
ボルドーの号令に従い、モレッドは1番隊に同行し、キングリザードに陽動を仕掛けるべく、城門を出る。
前日の調査で通った森を通り抜けながら、ボルドーから隊員に指示が飛ぶ。
「いいか、我々の目的はあくまで陽動だ。 街まで距離があるうちはキングリザードの進行方向を変えるか、速度を落とすことができればそれでいい。 決して深追いはせず、距離を取りながら攻撃するんだ 」
森を抜けると、少し先でキングリザードが街へ向かって進んでいる。
先日の夕方のように、その背びれは赤く染まり、全身からすさまじいまでの魔力が立ち昇っている。
だが、すでにモレッドの弱体化スキルの影響を受けているようで、その歩みはかなり鈍重なものとなっていた。
「ボルドーさん、僕の弱体化スキルが効いているようです。 これだけでも進行速度は落とせそうすが、しばらく様子を見ますか? 」
「いや、速度が落ちていると言っても、このままでは魔石が届く前にキングリザードが街に到達してしまう。 やはり攻撃を仕掛けて向きを変える必要があるな。」
ボルドーは振り替えると、兵達に向かって大声で叫ぶ。
「1番隊、右側面から行くぞ! 魔法兵と弓兵は援護しろ! 」
ボルドーの指示で兵たちが一斉に遠距離攻撃を仕掛ける。
魔法と弓矢が乱れ飛び、キングリザードの半身に降り注ぐが、立ち昇る魔力に阻まれ、その身体まで攻撃が届かない。
遠距離からの攻撃が止むと、今度はボルドー達が側面からキングリザードを切りつける。
だがやはり、ボルドー達の剣はキングリザードに魔力に弾かれ、擦り傷の一つすら与えることができていない。
キングリザードは鬱陶しそうにこちらを一瞥すると、攻撃をしてくることもなく再び街の方へ進み始めた。
「確かにスキルが効いて動きが鈍っているようだが、通常攻撃では全くと言っていいほどダメージが入らん。 これでは気を引くことすらできんか、、、 よし、一番隊、魔法剣を使うぞ! 」
「ええ!? いきなり切り札ですか!? 」
副官が驚いて問い返す。
「ああ、悔しいが通常の攻撃ではモレッド殿の弱体化があってすらダメージが通らん。 出し惜しみしとる場合でない! 」
ボルドーはそう言いながらキングリザードから距離を取る。
その様子を見ていたモレッドはボルドーに駆け寄る。
「ボルドーさん、ぼくも前に出ます! 」
「モレッド殿、我らはまだまだ負けてはおりませんぞ! もうしばし我慢くだされ 」
ボルドーは笑ってそう言うと部隊に指示を出し、自身を中心に両翼に二人ずつ剣士を配置した突撃形態をとる。
「弓兵、強化魔法だ!」
弓兵達がボルドー達剣士隊に向かって一斉に教会魔法を使うと、ボルドーの身体とその手に持った剣が輝きを放つ。
「魔法隊、来い! 魔法剣を使う! 」
魔導師が剣士達に駆け寄り、数人がかりで剣に魔法をかけると、水流を纏う魔法の剣が出来上がる。
「ものども、続け! 」
ボルドーが掛け声と共に走り出すと、他の剣士達もそれに続き、一斉にキングリザードに飛びかかる。
「ぬおおーーーっ! 『水竜斬!!』 」
剣士達の剣が振り下ろされると、纏う水流が1つの巨大な激流となり、キングリザードの顔面目掛けて振り下ろされる。
ズガーーーンッ!!
轟音が鳴り響き、巨大な滝つぼのような水しぶきがあたりに飛び散る。
「すごい、、、」
モレッドは感嘆の声を上げ、水しぶきの向こうのキングリザードの状態を注視する。
ドガッ!
直後、鈍い音が鳴ったかと思うと、先ほど魔法剣を放った剣士の1人が片腕をグシャグシャにされた状態で吹き飛んでくる。
モレッドは飛び出し、地面に激突する前に剣士を受け止める。
「下がれー! 距離を取るのだ! 」
同時にボルドーの声がし、剣士達が全速力で退避してくる。
「化物め、、、 魔法剣ですら、、、 」
モレッドの脇まで下がってきたボルドーが苦々しい表情で呟く。
その視線の先には、先ほどと同様に傷1つ負わず、ただこちらを睨み付けるキングリザードの姿があった。
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