第22話 守りたいもの


「調査隊から連絡が入った。キングリザードが街に向かっている。すぐに避難するように 」


 モレッドが子供達と朝食を食べていると、衛兵が慌てた様子でドアをたたき、避難指示をしてきた。



 トリス神父がすぐに子供たちに荷物をまとめる様に指示をする。


 ただ、リッツは朝からどこかに出かけており、モレッドが探しに行くことになった。


「たぶん詰め所かな? 昨日の夜はリッツと話せなかったし、見つけたらリッツがどうしたいのかも聞いてみよう 」




 詰め所は人でごったがえしていたが、すぐに奥の方でリッツがボルドーに大声で何かを言っているのを見つけることができた。


 モレッドは人込みをかき分けながら、二人に近づいていく。



「ボルドーさんのわからずや! 魔石を返してキングリザードが大人しくなるなら、結界なんてなくなってもいいじゃない! 」


「リッツ、何度も言っているが、結界はもうこの街になくてはならないものなんだ。結界がなくなれば、また上空からの魔物の侵入に怯えて暮らすことになってしまう 」



「キングリザードに街を滅ぼされるよりはいい! だいたい昔は衛兵の人たちが空の魔物から街を守ってくれていたんでしょう! 」 


「衛兵が守ってはいたが、それでも何十人、何百人が空の魔物の犠牲になってきた。 それに、そんなに心配しなくても今回は領主も街の全戦力で防衛にあたると言ってくれておるし、加えて今回は天命の子も街にいる。 力を合わせればきっとキングリザードを倒せる。 さあ、早く、教会に戻ってみんなと一緒に避難を、、、」



「ちがう! ちがうよ、ボルドーさん。 キングリザードと戦えば、また、たくさんの人が死んじゃうよ。 ほんとにキングリザードを倒せたとしたって、その代わりに大切な人がいなくなっちゃうんだったら、みんなそんなことは望んでない! 」


 核心をついたかのようなリッツの言葉にボルドーは思わず本音を漏らす。


「リッツ、頼む、わかってくれ。 わしはもうお前のような子供達が魔物におびえて暮らす姿は見たくないんじゃ、、、」


「わかるよ、リッツだってボルドーさんの気持ちはわかる。 でも、こんなやり方じゃ、また、、、」



言い争う二人に、副官とおぼしき衛兵が割って入る。


「ボルドー隊長、そろそろお時間です。 リッツも結界の話は兵の中でも一部のものしか知らない機密事項です。 決戦前に悪戯に兵を動揺させたくはありません。 これ以上は止めておきなさい 」



「・・・わかった。 リッツ、頼む。 教会に戻ってトリス神父達と一緒に避難していてくれ 」


 ボルドーは何かを飲み込んだような表情でリッツに懇願し、何も言えなくなったリッツを背に城門へと歩き出す。


 入口のところでモレッドを見つけると、すれ違い様に、


「モレッド殿、どうかリッツをお願いします 」


 そう言い残し、ボルドーは詰め所を出ていった。




 モレッドがリッツの傍に駆け寄ると、彼女は目に大粒の涙を溜めていた。



「モレッド、どうしよう、、、 このままだとボルドーさん達が、、、 」


 そこまで言ったところで、リッツの目から涙があふれ出す。


 モレッドはリッツの手を握り、真っすぐに問いかける。



「リッツはボルドーさん達に死んでほしくなくて、戦いを止めようとしてるんだね? 」


 リッツはボロボロと涙を流しながら、歯を食いしばって頷く。


「わかった。 それなら僕がボルドーさん達を守るよ。 僕のスキルならきっとそれができる 」


 そういってもう一度優しく手を握ると、リッツは少し落ち着き、今度は首を横に振る。


「モレッドも行っちゃダメ、、、 キングリザードと戦ったら殺されちゃう、、 」


「たぶんだけど、大丈夫だと思う。 まだ確証はないんだけど、ぼくのスキルは相手を弱体化させるみたいなんだ。 前にサイオン達とキングリザードを撃退できたのも、きっとこのスキルのおかげだったんだ。 今回もキングリザードを弱らせることができれば、、、 」



 バンッッ!!


 突然、詰め所のドアが乱暴に開かれ、衛兵が駆け込んでくる。


「た、大変だ、領主の兵たちが逃亡した。 領主の屋敷はもぬけの殻になっている。 あいつら、最初から俺たちを囮にして逃げるつもりだったんだ! 」


 詰所の中が途端にざわつき出す。


 「嘘をつくな!」と怒鳴り散らすもの、「もう終わりだ」と喚き散らすもの、先ほどまで漂っていた作戦前の緊張した雰囲気から打って変わって、その場を混沌とした空気が支配していく。


「落ち着かんか! 使える戦力を再報告しろ! 

 至急、作戦を練り直す! 」


 戻ってきたボルドーの一喝で、どうにかその場は収まったが、領主とその兵の逃亡により戦力は半減したと言っても過言ではない。


 正直、残った戦力ではキングリザードを倒すどころか、住民の避難が完了するまでキングリザードを押し留めることすら不可能といえるレベルだった。


 いても立ってもいられなくなったモレッドは、ボルドーに駆け寄る。


「ボルドーさん、僕も一緒に戦います! 」


 モレッドは、自身の弱体化スキルのことを説明し、みんなを守るために戦いに参加すると告げる。


「敵を弱体化させるスキル、、、 なるほど、トロールを一瞬で片づけたのはそのスキルの力だったのですな。 モレッド殿、心強い申し出に心より感謝いたします 」


 ボルドーはモレッドの手をがっしりと握り、深く頭を下げる。


「ですが、モレッド殿、あなたはこの街の人間ではなく、一時訪れただけの旅人。 決してご無理はなされませんよう。」


 モレッドの加入に現場の兵たちが沸き立つ。


 先日の調査でモレッドがトロールを瞬殺した噂が兵達の間で広まっており、兵たちの中でモレッドは相当な実力者として認識されていた。 


「お話し中にすみません、私からの一つ提案があるのですがいいですか? 」


 突然、トリス神父が現れて、ボルドーの耳元で囁く。


 驚いたボルドーが椅子から転げ落ち、衛兵達がどよめくが、トリスはニコニコと不敵な笑みを浮かべてその場に立っていた。

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