第18話 月夜の神父
その日、メキドの街では夜通しで城門の補修が行われた。
分厚く硬い木の板を何重にも重ね合わせ、その上から更に鋼鉄の格子を取り付ける。
予備の部品がしっかりと備蓄されていたこともあり、翌朝には城門はほとんど元通りになっていた。
調査から戻ったモレッド達は教会に帰り、衛兵から支給された大きなハムを子供達と分け合って食べた。
教会の畑でとれた野菜は今日はサラダの形で食卓に並び、昨日と同じように子供達とワイワイ話をしながら夕食の時間を過ごす。
子供達にも門が破られた話は伝わっており、不安もあるはずだったが、この夕食の時間、子供達は努めて楽しく過ごそうとしているように見えた。
子供達が寝静まった後、一人眠れなかったモレッドがベッドを抜け出し、教会のホールでステンドグラスを眺めていると、トリス神父が明かりを消しに来た。
「おや、モレッドさん。どうかされましたか? 」
「あ、ごめんなさい。 ちょっと眠れなくて考え事をしていただけなので、すぐにベッドに戻ります 」
モレッドが慌ててその場を離れようとすると、トリス神父はにっこりと笑って引き留める。
「このままここにいて大丈夫ですよ。 よかったら少し話をしませんか 」
「あ、はい。えーっと、、、」
「ははっ、そんなに身構えないないでください。 ちょっとお礼が言いたいだけなんです。
あなたが来てくださってこの2日間、子供たちはとても楽しそうだ 」
モレッドはどうしようかと考えたが、トリスは構わずにどんどん話を続ける。
「ここのところ、キングリザードのこともあって街全体の空気が暗くなっていました。 子供達もどことなくその雰囲気を感じ取って、落ち込んでしまっていたんです 」
「リッツの命を救ってくださったばかりか、子供達の面倒も見てもらい、そのうえ、元勇者パーティーというだけで衛兵たちの調査にも快く協力してくださっている。 本当にありがとうございます 」
「あ、いや、キングリザードを怒らせてしまったのは勇者パーティーですし、以前に追い払ったときは僕もパーティーにいたので、ぼくにも責任はあると思うんです 」
「そうですか、、、 これは、衛兵たちも一部しか知らない情報ですが、今回のキングリザードの襲来は、必ずしも勇者パーティーのせいというわけではないんです 」
「どういうことですか? 」
「少し昔の話になりますが、メキドの領主はキングリザードの活動範囲の拡大していると認めており、ほとんどの領民がそのことを知っていました。」
「あ、それって秘密というわけではなかったんですね 」
「ええ、このこと自体は秘密でもなんでもありません。 ただ、領主が言ってきたことはもう一つありました。 『キングリザードは岩山と草原に暮らす魔物で街には近づかない』 領民達に言い聞かせてきたのです。」
「実際、昔のキングリザードは街に近づきませんでした。 今、毒沼になっている辺りの少し北にある岩山に暮らし、草原での目撃例もほとんどなかったのです 」
「また、昔のキングリザードは今と姿が違って性格も大人しく、老人の世代では土地の守り神と言うこともありました。 ただ、あることをきっかけにキングリザードは凶暴化し、何かを探しているかのように草原を徘徊しながら、往来する魔族や魔物を襲い始めたのです 」
「その、あることとは?」
トリスはにっこりと笑うとモレッドの質問には答えず、逆にモレッドに対して問いかける。
「ところで、モレッドさん、この街に入るときに上空に張り巡らされた巨大な結界を見られましたか? 」
「え、ええ、すごい結界が張られていますよね。 以前、仲間の一人が、人族の王城の結界に勝るとも劣らないと言っていました 」
「ほお、人族の王城にもこれほどの結界があるのですね。それは一度見てみたいものです。
話を戻しますが、実はキングリザードの探し物というのが、この結界の核に使われている魔石なのです 」
「当時、岩山の調査にいった領主の私兵が愚かにもキングリザードが守っていた魔石を持ち帰りました。 魔石にはこの土地に住む精霊の力が長い年月をかけて蓄積されており、膨大な魔力を内包していました。 これを結界の核として組み込むことで、メキドは最強の結界を手に入れたのです 」
「しかし、その引き換えにキングリザードの活動範囲拡大が始まりました。 そして、それに気づいた一部の者たちが、対策を取らなければキングリザードがいずれ街を襲撃すると領主に進言したのです 」
「うん、キングリザードが魔石を探しているならそうなりますよね 」
「ええ。 領主はもちろんキングリザードが魔石を取り戻しに来ると知っていました。ただ、魔王様を始め魔族領のそこかしこに自慢してまわった結界が、実はキングリザードから盗んだ魔石で成り立っており、キングリザードが暴れ出したので魔石を返しますと言うわけにもいかず、最悪の作戦を決行したのです、、、 」
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