第17話 壁外調査
「だから、リッツも調査に同行させてほしいって言ってるんです 」
「いや、しかし、私はモレッド殿を呼んで来るように言われていて、、、 」
「ラドムからメキドまでの道は全部見てきました。 モレッド一人よりもリッツがいた方が絶対に調査が捗ります! 」
リッツが朝から元気のいい声で衛兵を困らせている。
今朝、モレッドが起きてくると、リッツが準備万端といった様子で待っており、調査についていくと言い出したのだ。
10分ほどのやりとりの末、可愛そうな衛兵はリッツに押し切られ、とりあえず詰所までと言いながら、モレッドとリッツを連れてボルドーのところに向かう。
リッツの姿を見たボルドーはやっぱり来たかとため息をつき、モレッドとリッツを別々の部屋に通すよう兵に指示をする。
午前中の調査は聞き取りがメインで、モレッドとリッツはラドムからメキドまでの様子を事細かに説明する。
お昼は詰め所の隣にある食堂で食べ、午後に再び詰め所に顔を出すと、確かめたいことがあるといって現地調査に出ることになった。
モレッド達は衛兵に連れられて門をくぐり、城壁周辺の様子を確認する。
「やはり、魔物がいない。 キングリザードが暴れた当初はそれを避けた魔物が街の反対側に集まっていたが、今は街の周辺そのものを魔物が避けているようだ、、、 」
ボルドーはそう言うと、モレッド達に街へ来たルートを案内するように言った。
モレッド達が通った南から街に向かう街道にも魔物の姿はなく、草原にポツポツと背の低い木が生えており、一見するとのどかな光景だ。
そのまま街へ来たルートをたどって歩き続け、丘の麓まで来たところで、毒の沼の方からドタバタと走ってくるトロールの群れと出会う。
衛兵達が隊列を組んで迎撃体制に入るが、一体のトロールが錯乱したような様子でまっすぐモレッドにの方に向かって来る。
「モレッド殿!」
ボルドーの声にモレッドが「まかせて」と片手をあげる。
赤く輝く短刀をさやから抜いたモレッドは、トロールが振り上げたこん棒をなんなく避け、
脇腹から斜めに鋭く切り上げる。
赤い剣閃が走り、トロールは大量の青い血を吹き出しながらドサッと地面に倒れこむ。
モレッドは次に備えて迎撃体制を維持するが、他のトロールはこちらに脇目降らずにラドムの方面へと駆けていき、あたりにはモレッド達とピクリとも動かなくなったトロールの死骸だけが残された。
「どういうことだ、、、? 仲間がやられたというのに他のトロールが何もしてこないとは、、、 こちらを警戒しながら逃げるのならまだわかるが、今のトロール達はそれすらせずにひたすらに逃げていた。 それだけ差し迫った状況、もしやキングリザードが近くにいるということか? 」
困惑した表情のボルドーに、衛兵たちの警戒が一気に引きあがり、周囲の警戒を強める。
が、しばらくしても周辺に異常はなく、キングリザードどころか魔物の一体も見当たらない。
念のためと周囲を散策するが、結果は変わらず一体の魔物にも出会わないまま、時間だけが過ぎていった。
そうこうしていると、空が少しづつオレンジ色を帯び始め、モレッド達は街への帰途につく。
帰り道、街まであと少しのところで、最初に異変に気付いたのはリッツだった。
「あれ? ねえ、モレッド、行きは気づかなかったけど、昨日はあそこに大きな岩があったよね 」
モレッドがリッツの指さす方を見ると、そこには砕けた岩の残骸が転がっていた。
「確か、家くらいある大岩があったと思うんだけど、もしかして、、、」
リッツが青ざめた表情で辺りを見渡す。
「二番隊、周囲に魔物の痕跡がないかを確認しろ! 」
ボルドーが指示すると、衛兵たちは砕けた岩を一つ一つ調べ始め、いくつかの岩にキングリザードのものらしき大きな爪痕を見つけた。
ボルドーは深刻そうな表情でその爪痕を眺め、ぽつぽつと話し出す。
「これはキングリザードが縄張りを示すためにとる行動だ。 ここ最近、キングリザードの行動範囲が広がってきているとは思っていたが、これほど街の近くまで来ているとは、、、 」
ボルドー達はキングリザードの痕跡を調べながら、口々に対策を話し合っていた。
やがて、街に戻って本部に報告し、対策を練る必要があると、爪痕が残った岩をいくつかバックに詰め込み、ボルドーの指示に従って街への帰路につく。
途中、ショートカットのために浅い森をとおるルートを選んだが、やはり魔物には一度も出会わず、辺り一帯から魔物が消えているようだった。
10分ほど森を抜け、視界が開ける。
その瞬間、モレッドの前にいたリッツが驚きの声を上げる。
「えっ、、こ、これって、、」
リッツの視線の先にあるのはメキドの街とその誇るべき城門だったもの。
その誇らしい姿はすでになく、門には大きな爪痕が残され、下半分が完全に破られていた。
見ると、前を歩いていた衛兵達も、あるものはポカンと口を開け、あるものは恐怖にガタガタと震えながら、変わり果てた門を見つめている。
誰かが城門に向かって歩き出そうとしたその瞬間、突然、あたりにキングリザードの巨大な咆哮が響く。
「グウオオオオーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
あまりの音量に周囲の空間が大きく揺れたような状態になり、リッツが後ずさりしながら崩れ落ちようとするが、モレッドが後ろからしっかりと支える。
恐る恐る咆哮が聞こえた方を振り返ると、夕日に照らされたキングリザードがこちらを見ている。
その場にいたモレッド以外の全員が蛇に睨まれた蛙のように動きを止め、ただただ呆然とキングリザードを眺めていた。
モレッドが暁の短刀を握り締めたその時、キングリザードは踵を返す。
金縛りにあったかのようにその場に硬直するリッツの瞳には、赤く燃えるような背びれを掲げ、ゆっくりと毒沼の方へ帰っていくキングリザードの姿が映っていた。
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