第16話 帰る場所
モレッドがボルドーと明日の予定を確認して詰め所を出ると、リッツが駆け寄ってきて謝罪する。
「モレッド、さっきはごめんなさい。 その、ボルドーさんとはちゃんと話せた? 」
感情的になって出ていってしまったことを恥ずかしく思っているのか、リッツはモレッドの前にうつむき加減になっている。
「うん、調査の件は明日、詳しい話を聞くことになったんだ。 だからしばらくは街にいると思うよ 」
「そっか、よかった! そしたらさ、このまま私の家に招待しても迷惑じゃないかな? 」
「うん、もちろん! 」
リッツは嬉しそうに笑うと、モレッドの手をとり、こっちだよと教会への道を歩いていく。
「ボルドーさんから、私の両親の話は聞いた?」
笑顔で手を引くリッツからの思いがけない問いかけに、モレッドは思わず言葉を詰まらせる。
「えっと、うん、、、」
「あ、ごめんね。 変な意味じゃないんだ。 自分からだとなんだか言いづらかったからさ。 小さい頃から知ってるボルドーさんなら、もしかしてって思ったの 」
「私は小さい頃に両者を失くしてるから、今からモレッドを連れていく私の家はこの街の教会なんだ。 だからね、あんまり豪華な食事とかは出せないと思うんだけど、その分みんなで大歓迎するからね 」
「うん、楽しみにしてるね! 」
モレッドはわざと大袈裟な口調で返事をして、そのまま会話を続ける。
「リッツは教会のみんなのために郵便屋を始めたの? 」
「あ、ボルドーさんがそう言ってたんだね。 うーんとね、その理由だと実は半分なんだ。 もう半分は、いつか行ってみたいところがあるの。 お母さんが死んでからずーっと胸の中でもやもやしてる気持ちが、そこに行けば晴れると思って 」
「こないだみたいに危険な目に会うかもしれないのに? 」
「うん、それでもかな。 それにね、私、足には自信があるの。 ここまで来るときだって、モレッドのペースにちゃんと着いてこれたでしょう? 」
モレッドはそう言われて、はっとする。
勇者パーティーでは、自分が一番足が遅く着いていくのに必死だったが、今は職業が変わりレベルも上がったことで、格段に身体能力が上がっている。
おまけにリッツは年下の女の子だ。
特段、リッツの体力を気にすることなく、メキドまでガンガン進んで来たことをモレッドは激しく後悔する。
「ご、ごめん、リッツ。 ぼく、全然気を遣えなくて、、、 」
「あはは、気にしないで。 あれくらいならほんとに大丈夫なの。 だからさ、キャラバンとはぐれた時だって、いろんなものを見て、街まで走って帰ればいいかくらいに簡単に考えてたんだ 」
「実際、ゴブリンとかトロールなんかからは余裕で逃げ切れたんだよ。 でも魔狼の群れはダメだった。あいつら私より遅いのに、狩りがとてもうまくて、気づけば周りを囲まれてた。 それでも散々逃げ回って、もうダメかもって時にモレッドが来てくれたんだ 」
教会の前でリッツは緑の髪を夕日に照らされながら振り返る。
「モレッド、助けてくれて本当にありがとう。
ここが私の家、城塞都市メキドの西の教会です。 神父さんとみんなに紹介するからついてきて 」
リッツは教会の扉を開けると、モレッドの手を引きながら奥に向かって呼びかける。
「神父さまー、トリス神父さまー、リッツが帰りましたー 」
奥からドタドタとした足音が聞こえ、銀色の髪を後ろに束ね、これまた銀色の縁の眼鏡をかけた優しそうな男が顔をだす。
「リッツ! よく戻りましたね。少し前に衛兵が連絡に来て、何があったのかと心配したのですよ 」
「あはは、心配かけてごめんなさい。でも、本当に大丈夫だったんだよ。 魔物に襲われて少し危ない場面もあったけど、こちらにいるモレッドさんが助けてくれたんです 」
モレッドはぺこりと頭を下げ、「はじめまして」と簡単な自己紹介をする。
神父はほんの一瞬わずかに驚いたような顔をしたが、モレッド達は気付かない。
「そうですか。 モレッドさん、リッツを助けていただいてありがとうございました。 贅沢なものは出せませんが、よかったら夕食を食べていかれてください。 今日は畑の野菜が取れたので、これからスープを作るところだったんです 」
トリス神父は奥にある食堂の方へ手をやり、こちらへどうぞとモレッドに笑いかける。
「ありがとうございます。 じゃあ、お言葉に甘えさせてください 」
この日の夕食では、教会で預かっている他の子供達と一緒に食卓を囲んだ。
リッツは子供の中では一番年上で、まとめ役のお姉さんのような役割をしていた。
以前、エレナと交流があったこともあり、子供達は勇者一行や人族の話に興味深々で、モレッドは子供たちから延々と質問攻めにあうのだった。
おまけにエレナがモレッドのことをすごい手品師だと言っていたらしく、夕食の後にいくつかの手品を披露することになった。
夕食の時は一番年上だからと大人ぶっていたリッツも、手品の時は他の子供と一緒に身を乗り出し、歓声を上げていた。
結局、その夜は子供達が放してくれず、神父の厚意もあり、モレッドは教会に一泊することになった。
モレッド達が寝静まった後、トリスは教会のホールの明かりを順々に消していく。
そして、最後の明かりに手を伸ばしながら、ため息まじりに呟く。
「やれやれ、ベティが連絡をよこさなくなったと思ったら、そういうことですか、、、 勇者はまたしても撤退したと言うし、いい加減、彼の出番のはずですが、これではどうなることやら、、」
神父は深いため息をつきながら、最後の明かりを落とす。
教会を暗闇が包み、夜が更けていく。
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