第15話 勇者の罪
街から出さないというボルドーに、モレッドは怪訝な表情で問い返す。
「さっき言っていた、勇者パーティーが原因という話ですか? 」
険しい表情で道を塞ぐボルドーはゆっくりと口を開く。
「ああ、昨夜、衛兵に密告があったのだ。 キングリザードが暴れたのは、勇者パーティーが攻撃を仕掛けたからだと 」
「なっ、、、いや、そんなはずは、、サイオンとブロムはともかく、エレナがいてそんなことを許すはずがありません 」
「わしも聡明な聖女殿はむやみやたらに未知の魔物に攻撃をしかけるような方ではないと思っておる。 ただな、勇者パーティーのメンバーは最終的には勇者であるサイオン殿には逆らえないのではないか 」
「それは、、、」
「そして、勇者は傲慢で、時に無謀な行動をとる人間だったとも聞いておる 」
「それに加えて、あなた方が一度、キングリザードを撃退したとの噂もある。 にわかには信じられんが、もし事実なら、一度撃退した相手にということで聖女殿と言えども危険度を低く見積もってもおかしくはない 」
「いや、でも、、、」
そう言いかけてモレッドは口を紡ぐ。
エレナが無謀なことをする人間ではないことには強い確信があったが、その一方、勇者パーティーでは最終的な決定はサイオンがするルールだった。
サイオンが譲らなければ、エレナは妥協案を出さざるを得ないのだ。
「確かに、絶対にないとまでは言いきれません、、、 でも、ぼくにこの街に留まってどうしろと? 」
「追い詰めるような言い方になってすまない。ただ、今のままだと、無謀な攻撃で街を危険に晒した勇者パーティーに魔族として重い処罰を下さざるを得ない。 そうなれば、行方不明のタンク殿や教会に保護された聖女殿も例外ではない。 」
「重い処分って? 」
「Sランクモンスターを唆したとなれば、死刑は免れん 」
ボルドーの重い言葉にモレッドは思わず絶句する。
その横から、我慢仕切れなくなったリッツが話に割って入る。
「おかしいですよ! 聖女様が自分から進んで危険な魔物に手を出すはずがありません 」
「いや、避難してきた者達から情報提供があったのだ。 聖女が勇者とタンクに補助魔法をかけていたと。 それに、街に逃げ込んだ際、勇者に強力な補助魔法がかけられていたことも衛兵が確認している。 モレッド殿が来たことで一旦動きが止まっているが、そうでなければ午後にも勇者と聖女に追手が差し向けられる予定だったのだ 」
「そんな、、、で、でも、街に被害が出たわけでもないのに捕まえて死刑にするなんておかしいよ! 」
涙を浮かべながら訴えるリッツに、ボルドーは困ったような悲しいような表情をする。
「それに、モレッドだって、キングリザードのことには何にも関係ないじゃないですか! 」
「リッツ、落ち着きなさい。 わしとていたずらに勇者達を死刑にしたいなどとは思っておらん。 だからこそ、モレッド殿の力を借りて、調査を進める必要がある。 それに、この状況では、勇者パーティーの誰かしらに事情を聞いている形にしないとみなが収まらないのだ 」
「だからって、こんな脅すようなやり方でモレッドに協力を迫るなんておかしいよ! だいたい、勇者パーティーだってキングリザードを倒そうとしてくれただけで、悪いことなんてしてないじゃない! 衛兵の人達なんてキングリザードから逃げてばかりで戦おうともしないのに、、、 」
「リッツ!!! 」
ボルドーが顔を赤くして怒鳴ると、リッツは涙をボロボロと流しながら、部屋から飛び出していく。
モレッドが追いかけようと席を立つと、ボルドーに引き留められる。
「慌てずとも、街の中は安全じゃ。 見苦しいところを見せてしまったが、もう少しだけ話を聞いてもらえないか 」
モレッドは少し考えてこくりと頷くと、ボルドーは一度頭を下げ、もう一度話し出す。
「リッツは魔族と人族のハーフなんじゃ。 父親は魔族の兵で、キングリザードに殺されている。 13年前、リッツが産まれて間もない頃に大討伐隊が組まれたのだが、その討伐は失敗し多くの兵が犠牲になった。 リッツの父親もその1人なのだ 」
「そうだったんですか。 じゃあ、リッツがキングリザードの撃退の話をした時に考え込んでいたのは、、」
「ああ、父親のことを考えていたのじゃろう。リッツは母親から父の思い出話を聞かされながら育ったからの 」
「じゃあ、リッツは今はお母さんと暮らしているんですか? 」
「いや、母親もリッツが5歳の時に疫病で亡くなっておる。 その時は運悪く疫病の流行がキングリザードの活動が活発化した時期と重なり、他の街からの救援がほとんど届かず、街の診療所や教会は感染者で溢れだしたのだ。 父親の死後、教会に身を寄せていた母親は運ばれてくる人の治療を手伝っていたのだが、自身も病に倒れ、幼いリッツを残して帰らぬ人になった 」
「そんなことが、、、」
「変わらず教会に住むことができていたとはいえ、幼い頃に両親を失ったリッツは多くの苦労をしてきておる。 だが、それでも、本当にいい子に育ってくれた。 郵便屋の仕事も、教会の金銭事情を知って少しでも助けになればと始めたものなのだ。 普段、極力危険がないように街と街を行き来するキャラバンについて仕事をしておっての、今回もそのはずだったのだが、いったいどうして、、」
「ボクが彼女を助けた以降はキャラバンの人達には会っていません。 リッツから聞いた話だと、夜中に不思議な声が聞こえてきて、気がつけば違う場所にいたそうで、それでキャラバンとはぐれてしまったみたいでしたけど、、、 」
「うーむ、それだけだと一体どういうことだかわからんな。 まあ、そこは明日にでもこちらから確認みよう 」
ボルドーは一息ついて話を戻す。
「さて、少し脇道にそれたが、お願いしたい調査協力は、詰所での聞取りと現地調査への同行じゃ。 もちろん現地では街の衛兵が護衛をするので、協力をお願いしたい 」
「わかりました。 調査に協力します。 それでエレナ達の疑いを晴らせばいいんですね? 」
「うむ、そうなるの 」
「わかりました。 そうしたら、まずは何をすればいいですか? 」
ボルドーはホッとした顔で返事を返す。
「いや、今日はここまでじゃ。 わしも領主に話を通さねばならんので、少し時間をもらいたい。 それに、そろそろ切り上げんと、リッツにまた泣かれてしまいそうだ 」
そう言って、ボルドーは窓の方を見る。
モレッドが窓から外を見渡すと、詰め所の脇の木陰に座り込みこちらを眺めているリッツと目が合った。
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