第14話 城壁の街

 丘を下り始めて数時間後、何度か街の方からやってきた魔物との戦闘を経て、二人はお昼過ぎにメキドの街にたどり着く。


 途中、リッツがいつも固くて倒せない魔物のが棒切れで叩いただけで簡単に倒せてしまったと言ったことで、モレッドは自分の弱体化スキルが相手の防御力も低下させているのだと気付く。



 2人は門の近くまで来たが、今日に限ってか昼間は開いているはずの城門が固く閉じられ、城壁の上からは物々しい大弓が顔を出している。


 リッツは困惑した様子で城門の通用口に駆け寄り、中にいる衛兵に呼びかける。


「衛兵さん、郵便屋のリッツです。 仕事から戻りました。 何かあったんですか? 」



 通用口に儲けられた窓が開き、浅黒い肌で髭を生やした初老の衛兵が顔を出す。



「おお、リッツか。よく戻ったな。 だが、キャラバンのやつらはどうした? ん、連れの赤髪は見ない顔だが人族か? 」



「あ、ボルドーさん、こんにちは! はい、モレッドさんは人族です。 そして、なんと元勇者パーティーの一員なんです。 北の街への街道で魔物に襲われていたところを助けてもらったので、お礼をしたくて街に寄ってとお願いしたんです 」


「リッツの命の恩人か。 それはきちんとお礼をしないとな。 ただ、今はな、人族なうえに、元勇者パーティーとなると、、、 」


「何かあったんですか?」


「ちょっとな。 悪いが、モレッド殿を今、街に入れるわけには、、、 いや、待てよ。 元勇者パーティーなのであればむしろ、、、 」


 ボルドーと呼ばれた衛兵は一人でぶつぶつ言いながら考え込んでいる。


 しばらくして、城門の通用口がガチャリと開かれ、ボルドーが2人を招き入れる。


「モレッド殿、リッツ、こちらへ。 本当は先にきちんと説明したいところだが、モレッド殿は目立つ故、他の帰還者もいる中でここに長居してもらうわけにもいかん 」


 そう言うとボルドーは今度はモレッドに向かって頭を下げる。


「モレッド殿、まずは恩人に対して礼を失した出迎えとなってしまうことをお詫びさせてくれ。 だが、この街は今、少々やっかいなことになっておってな、なんとか理解してほしい。 入ってすぐに衛兵の詰め所がある。 詳しい話はそこで 」



 詰め所に入ると、そこは入口から続く大部屋になっており、衛兵達が緊張した雰囲気でモレッドを見ている。


 内容は聞き取れないが、ひそひそと近くのもの同士で話をしており、中には敵意を込めた目でモレッドを睨みつけているものもいる。


 ボルドーは周囲の衛兵にも聞こえるように、わざと大きな声で状況を説明する。



「丘の上からとんでもない大きさの毒沼が見えただろう。 10数年ぶりにキングリザードが大暴れしたのだ。 今朝になってその原因が昨日ここを発った勇者らしいということがわかり、我々は今その調査に追われている 」


 衛兵達は変わらずモレッドの方をじーっと見ている。


 ボルドーは今度は衛兵達の方を向いて話し出す。


「モレッド殿は以前、勇者パーティーに所属していたそうだ。 あくまで過去の話で、先日のキングリザードとの戦闘時はパーティにいなかったそうだが、街の混乱を抑えるため、進んで調査に協力してくださっている。 おまえ達も丁重に扱うのだ。 」


 ざわつく大部屋を抜け、ボルドーはモレッド達を詰め所の一室に通すと、部屋にいた部下に飲み物を持ってくるように指示した。


「さて、先ほどの兵達の様子からわかったと思うが、今この街では、人族に対する敵意が強くなっておる。 順をおって説明すると、発端は4日前にキングリザードが大暴れした際、負傷した勇者が1人で街に逃げ込んできた時の出来事だ 」




「えっ、サイオンが1人でですか? あ、あの、聖女のエレナとタンクのブロムが一緒だったはずなんですが、、、 2人は、、、? 」


 モレッドは恐る恐るといった様子で、エレナとブロムの安否を尋ねる。



「元パーティーメンバーのモレッド殿には酷な話になるが、タンクのブロム殿は未だに行方不明だ。 聖女のエレナ殿は森で倒れているところを教会のものが発見したと聞いている 」


「な、エレナはどこにいるんですか!? 彼女に会わせてください 」


 席を立ち上がるモレッドを手で制止しながら、ボルドーは話を続ける。


「聖女殿はこの街にはおらぬ。 教会のもの達は発見した聖女殿を人族の領地の方へ馬車で連れ去ったらしいが、正確な行き先は掴めておらん。  心配だろうが、居合わせたものの話だと命は助かったようじゃし、教会であれば聖女殿に悪さはしまい 」


「それは、そうかもしれませんけど、、、 じゃあ、サイオンは? 勇者はどうしているんですか? 」


「勇者は昨日、護送馬車でこの街をたった。 目的地は人族領と魔族領の境界にあるリアハンという街だ 」



「 そんな、ブロムも見つかってないのに、、、 でも、それなら急いでサイオン達を追わないと! 」



 と、席を立とうとするモレッドを、再びボルドーが制止する。



「待たれよ。 元パーティーメンバーを想う気持ちはわかるが、モレッド殿をこのまま街から出すわけにはいかん 」


 リッツが驚いた表情でボルドーを見る。


 モレッドは困惑した表情で次の言葉を待ち、部屋には不穏な空気が満ちていく。


 

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