第12話 旅の仲間
ダッと地面をける音が辺りに響いたかと思うと、次の瞬間、モレッドは一体の魔狼の側面に回り込んでおり、その体に向かって赤く光る短刀を振るう。
魔狼はAランクの非常に危険な魔物だ。
特に10体を超える群れになると熟練のパーティーとて苦戦を余儀なくされるため、大規模な討伐隊が組まれることも少なくない。
だが、それは一般的なパーティーにおける話で、勇者パーティーにとってはことさら危険な相手ということもなく、サイオンなどは一人で群れを殲滅してしまったこともあった。
そして、それは今のモレッドにとっても同じであった。
魔狼はモレッドの短刀によって難なく両断され、2つの肉塊へと変わる。
すぐさまモレッドが懐から手投げナイフを取り出し両脇から飛びかかろうとしていた2体の魔狼に投げつける。
すると、ナイフはいとも簡単に魔狼の身体を貫き、遥か後方まで飛んで行く。
モレッドは連続で飛びかかってくる魔狼の攻撃を躱し、1体、2体と切り捨てていくが、ふと子供の方に目をやると、離れた位置にいた魔狼から狙われている。
モレッドは再び地面を強く蹴ると、一瞬で魔狼の前に立ちはだかり、子供に嚙みつこうと大きく開いた口ごとその顔面を切り伏せる。
魔狼は衝撃で地面に叩きつけられ、ピクピクと数回痙攣した後に動かなくなった。
一瞬で魔狼を6体倒したモレッドを見て、リッツは感嘆の声をあげる。
「す、すごいです、旅の人! 魔狼をばっさばっさ倒して、まるで昔話の英雄みたいです! が、頑張ってくださーい! 」
さっきまでの泣き顔がうそのように、子供はニコニコしながら、いけいけと拳を突き上げてモレッドを応援している。
モレッドはこれまで歓声を浴びるようなことはなかった。
そういうものは勇者パーティーでは全てサイオンに向けられていたからだ。
子どもの無邪気な視線にモレッドは少し恥ずかしくなり、顔を赤面させる。
魔狼はモレッドの攻撃を警戒して、遠巻きに旋回しながら様子をうかがっており、しばらくにらみ合いの状態が続く。
だが、しばらくして群れのボスらしき個体が首を振ったかと思うとに、群れは一目散にモレッド達から逃げ出し、あっという間に視界から消えていった。
モレッドは大きく息を吐くと、緊張を解き、助けた子供の方へ向き直る。
「よし、もう大丈夫。 怪我はない? ぼくはモレッド、ラドムの街からメキドへ向かってるところなんだけど、君は? 」
「た、助けてもらってありがとうございました。わ、私はリッツっていって、メキドの街で郵便屋の仕事をしてます 」
リッツは深く被った帽子をとり、深々と頭を下げる。
束ねて帽子にしまわれていた明るい緑色の髪がさらっと地面に向かって垂れる。
(あ、女の子だったのか )
モレッドは心の中でごめんねと呟き、リッツの深い緑の瞳を見ながら言葉を続ける。
「大きな怪我もなさそうでよかった。 野営の道具なんかは持ってなさそうだけど、リッツは誰かと旅をしていたの? 」
「はい。 昨日までは街の商人さんと一緒に行動してたんですけど、夜中に不思議な声がして、気がついたら北の岩場のほこらで寝てたんです 」
「えっ、岩場のほこらに1人で!? 大丈夫だったの!? 」
「あ、はい。 なぜかほこらには魔物がいなかったんです。 でも、帰ろうとしてほこらから出たところをゴブリンに襲われちゃって、、 」
そこまで言って、リッツは真ん丸な青い瞳でじーっとアルの荷物を見つめ、あっと声をあげる。
「あ、あの、そのカバンって、、」
アルはリュックにくくりつけたリッツの郵便屋と書かれたカバンを差し出す。
「このカバン、ここに来る途中でゴブリン達から取り返したんだけど、もしかして君のだった? 」
はいっとカバンを渡してやると、リッツの顔がぱあっと明るくなり、また深々と頭を下げる。
「命を助けてもらったうえに大事な荷物まで取り戻していただいて、ほんとうにありがとうございました。 お礼をしたいので、よかったら街まで一緒に来てもらえないですか? 」
せっかくだけど、、、 先を急ぐモレッドはそう答えかけたが、念のためにとリッツの街の名前を聞く。
「あ、リッツはメキドに戻るところだったんです。 モレッドさんは人族みたいですし、もし人族の領地に向かってるなら、ちょうど通り道じゃないかなって 」
行き先が同じなら断る理由もないかと思い、早くもひとり旅が寂しくなってきていたモレッドはリッツの申し出を受けることにする。
「ありがとう。 そしたら、メキドの街まで短い期間だけどよろしくね 」
勇者パーティーを追放されて数日が経った。
モレッドに新しい旅の仲間ができた。
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