第11話 成長とスキル

 勇者パーティーのお話はいかがだったでしょうか?

 今回からはまたモレッドのお話です。


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 モレッドはメキドを目指し、東へ東へと歩いていく。


「お昼までまだ時間があるし、もう少し進んでおこう。 魔物も弱めのやつがいれば戦っておきたいんだけど、、 」


 しばらく進んでみて、モレッドはパンパンに膨らんだリュックの重さをほとんど感じていないことに気づく。


 街で衛兵に攻撃された時も相手の動きがとてもゆっくりに見え、まったく攻撃があたる気がしなかった。


(ベティはぼくがかなり強くなったと言ってたけど、どのくらいのものなんだろう。その辺の魔物くらいは苦戦せずに倒せるといいんだけど、、、 )


 そんなことを考えながら歩いていると、街道沿いの草むらに3体のゴブリンを見つけた。


 エレナの地図には、このあたりのゴブリンは数が少ないが、群れによっては魔獣を飼っていることがあるので、戦う際は周囲にゴブリン以外の魔物がいないかの確認が必要と注意書きある。


 モレッドはエレナの警告に従い周辺を見渡すが、ゴブリンの他に魔物は見当たらない。


 また、ゴブリンの強さだが、道具を扱うことはあるものの力や耐久力は低く、モレッドのようにそれなりの経験があるものであれば、単体は問題なく討伐できる。


 ただ、群れとなると話は別で、ゴブリンはそれなりに知能が高いため、連携して攻撃されるとそれなりに厄介な相手だ。


 モレッドも過去に一度、サイオンに嵌められて単独でゴブリンの群れと戦ったことがある。


 その時はなんとか勝てたものの、それなりに傷を負い、エレナに無茶をしないでと泣かれた。


 モレッドは少し迷ったが、前日にゴブリンよりも数段強いはずの複数の衛兵を相手にした記憶が後押しして、3体のゴブリンの討伐を決める。


 風下から慎重に近づき、近くの茂みからゴブリンの様子を探る。


 ゴブリンは暑くもないのに額に汗をかきながら荒い息をしている。


 地面に落ちた荷物を漁っているようで、モレッドは戦闘の直後なのかなと推察する。


 だが、周りを警戒している様子はなく、正直、隙だらけに見える。


 モレッドは深く息を吸うと、明後日の方向に石を投げてゴブリンの注意を引く。


 ゴブリンの気が逸れたのを確認したモレッドは真ん中の個体に向かって手投げナイフを投げつけ、同時に駆け出して手前の個体を暁の短刀で斬りはらう。



 ザシュッッ!!



 暁の短刀の切れ味は凄まじく、手前にいたゴブリンは一撃で胴を両断される。


 真ん中の個体も手投げナイフが貫通しており、腹にぽっかりと穴を空けて倒れている。



 モレッドは自身の攻撃の威力に驚きつつ、残る一体を観察する。


 ゴブリンは慌てた様子で手に持ったこん棒を振り回すが、その動きはゆったりとしており、モレッドは難なく攻撃を回避する。


(こいつも動きが遅いな。 ぼくが早くなったのもあるけど、相手の動きも前より遅くなっている気がする。 もしかして、、、)


 モレッドは試しにゴブリンのこん棒を短刀で受け止めてみる。


 すると、ごつりと鈍い音がなっただけで、ほとんど力を感じず、簡単に弾き返すことができた。


(やっぱり。 このゴブリン、攻撃にほとんど力が入ってない。 じゃあ次は、、、)


 攻撃を弾いたモレッドはゴブリンに真正面から斬りかかる。


 なんの工夫もない正面からの縦切り、実力の近い相手なら簡単に防御されてしまう攻撃だったが、ゴブリンは不自然なほどにまったく反応せず、持っていたこん棒ごと真っ二つにされる。


 先ほどまで3体のゴブリンだったものが青い血を流して地面に転がる中、モレッドは驚いた表情で武器を握る自分の手を見つめている。


 以前はなんとか倒していたゴブリンの群れが問題にならないどころか、相手にすらなっていない。


「うん。 前とは比べ物にならないくらい強くなってる。 それに、スキルもしっかり相手に効いてる。 この感じだとたぶん相手を弱らせるスキルなんだろうな 」


 モレッドはそうつぶやくと、高揚した表情で両の手を握りしめる。


「よし、次はもう少し強い魔物と戦ってみようか。 この感じなら、魔狼やトロールだってなんとかなりそうだ 」


 うきうきした顔であたりを見渡すが、トロールのような大型の魔物はおろか、ゴブリンの1体も見当たらない。


 モレッドが仕方なく街道に戻りろうとすると、足元にゴブリンが漁っていたカバンが落ちていた。


 拾い上げてみると、「リッツの郵便屋」と書いてあり、中には届け物らしき手紙が残っている。



「郵便屋さんのカバンみたいだな。 ゴブリンにやられたのかな。 宛名を見るとメキドに向かうところだったみたいだし、ついでに持っていってあげよう 」


 カバンをリュックの側面に括り付け、もう一度ひょいと背負うと、モレッドは再びメキドに向かって歩き始める。



 途中、何度かゴブリンの群れに出会い、その都度問題なく蹴散らしながら、モレッドは順調に進んでいく。


 戦いながらスキルについても検証し、おおよその効果を把握する。


 モレッドのスキルは『弱体化』、相手のパワーやスピードを低下させ、相手との距離が近いほど効果が大きくなる。


 その効果は非常に強力で、ゴブリンのような弱い魔物だと、パワーやスピードの低下だけに留まらず、近づいだけで体力をも大幅に消耗させられる。


 お昼をはさみ、2時間ほど歩いたところでモレッドは現在位置を確認する。


「うん、かなり順調に進んでる。 もう全体の2割くらいの位置まで来ているし、このままいけば明後日にはメキドに、、、」




「わわわわー、やめてくださーい。 リッツは食べてもおいしくないですよー 」



 突然、少し先の方から子供の叫び声が聞こえてきた。


 モレッドは子供を助けようと、声の聞こえてきた岩場に向かって駆け出す。



 岩場に近づくと、緑色の髪をした子供が魔狼の群れに襲われている。


 モレッドは岩場に飛び込むと、子供と魔狼の群れの間に飛び込み、暁の短刀を構える。


 魔狼の数は10体を越えており、熟練のパーティーでも負傷者を覚悟する規模だ。


 数日前に魔狼に食われかけた時の記憶が蘇り、モレッドの身体に緊張が走る。



 恐怖で体が動かず、魔狼の群れとにらみ合ったまま固まっていると、先ほどの子供がモレッドの腕をつかみ、ボロボロ涙を流しながら懇願してくる。


「た、旅のお人、どうか助けてください。 こいつらリッツのこと食べようとしてて、、」


 モレッドは我に返り、一度深く息を吸ってから子供の懇願に応える。


「うん、もう大丈夫だよ。 こいつらを追い払うから下がってじっとしてて 」


 魔狼の群れはモレッドを警戒しているようで、離れたところを行ったり来たりしなが、モレッド達を包囲するように少しずつ動いている。


(あの子を守りながら長くは戦えない。 一気に数を減らして追い払わないと。 大丈夫、今のぼくならやれる! )



 モレッドは暁の短刀を強く握り、覚悟を決めた表情で魔狼の群れに向かって駆け出す。




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