第7話 旅立ち

 次の日の朝、モレッドは旅の準備のため、ラドームの商店を回っていた。


 夕食のあと、ベティから話を聞いたモレッドは、まず、サイオンがエレナにまでその凶刃を向けていなかったことに安堵した。


 三日前の夜、モレッドを置き去りにして何食わぬ顔で街に戻ったサイオンは、宿に帰ったかと思うと、今度はブロムと共に大きな袋を持って裏路地に消えていった。


 そして、しばらくたった後、ブロムを連れて酒場に戻り、その後は酒場中の客にモレッドの悪評を言って回っていたそうだ。


 酒場が閉まった後、門に向かったサイオンは門番に金を握らせ、「モレッドもサイオンと一緒に街に戻ってきて、深夜に再度街を出た」という嘘の報告を作らせていた。


 翌朝、商店が開かないことを不審に思った客が衛兵に申し出て、店主が殺害されていたことが発覚したのだが、その現場に落ちていたのがモレッドのナイフだったというわけだ。



 ところが、昨日の夜になって事件現場にあったモレッドのナイフからサイオンの魔力が検出されたため、今度はサイオンが街のお尋ね物になっていた。 



 モレッドはというと、サイオンに殺されかけたうえ、罪をなすりつけられたことで街中から同情されており、何かと世話を焼きたがる魔族が多かった。 


 商店を回っていると、あれも持っていけ、これも持っていけと、どんどんアイテムを渡され、1時間ほどでモレッドのリュックはいっぱいになった。



 ベティはエレナの様子についても教えてくれた。


 エレナは、サイオンや衛兵が現場にモレッドのナイフがあったと話をしても、モレッドが人を殺すはずがないと譲らなかった。


 ただ、街を出てしまっているのなら、早く助けに行かないとと焦っており、結果、サイオンがモレッドを追跡すると言い出した話にのった形になったらしい。


 一通り話し終えると、ベティはエレナから預かったという手紙を渡してくれた。


 もし、モレッドがこの街に戻って来たら渡してほしいと頼まれていたらしい。


 手紙にはモレッドを信じているという言葉と、姿を消さざるを得ないような状況になってしまったことへの謝罪が、何度も何度も書いてあった。


 手紙はところどころインクが滲んでおり、泣きながら書いたように見えた。


 また、手紙には、これからエレナ達はモレッドを探しながらメキドの街に向かうと書いてあり、ラドムからメキド、そして人族の領地へのルートと注意点を描いた地図が同封されていた。


 地図には、地形や植生、魔物の分布と特性などが細かく書き込まれており、今回書いたものではなく、勇者パーティーの参謀役を兼ねていたエレナが、ラドムまで辿り着くまでの間にまとめていたもののようだった。



 旅の準備が終わり、モレッドはサイオン達を追いかけて街を出る。


 ベティが見送りに来てくれ、餞別だと言って、赤く光るナイフをくれた。


 火の力を宿した「暁の短刀」という特殊な武器で、サイオンくらいならこれで十分だそうだ。


「ありがとう。 でも、こんな強そうな武器、本当にもらっちゃっていいの? 」


「いい、気にしないで。それよりモレッド、最近レベルが上がったみたい。 前と職業も変わってるし、かなり強くなってる。 腕試しも兼ねてその武器で魔物と戦ってみるといいかもしれない 」


 「あ、やっぱり。 ぼく、遊び人じゃなくなったんだ。 ということは、ついに賢者になったのかな? あれ、でもベティはなんでそんなことがわかるの? 」


 「質問責め、、、 えーっと、ベティはスキルの関係で、相手のステータスが少し見える。 モレッドのレベルは20、職業は賢者じゃなくて、『ルーラー』になってる。 モレッドは賢者になりたかったの? 」


「うん、やっぱり遊び人といえば賢者だしね! あ、でも、賢者っていう職業がっていうよりは、魔法を使ってみたかったのが大きいかな 」


「なるほど。 そうしたら、魔法を唱えてみるといい 」


「あ、そうだね!」

「では、、、魔法といえばやっぱりこれでしょ。『ファイアボール!』」


 モレッドは喜びいさんで右手を前に突きだし、キメ顔まで作って呪文を唱える。


 しかし、魔法は発動せず、あたりは静寂に包まれる。


「うん、モレッドは魔法を使えないないみたい。 でも落ち込む必要はない。 魔法が使えない分、他に得意なことがあるはず 」 


 ガックリと肩を落としているモレッドの頭を優しく撫でながら、ベティが励ましの言葉をかける。


「『ルーラー』がどんなことが得意な職業かはこれから旅の中で見つけていくといい。 メキドなら大きな街だし、詳しい人もいるかもしれない 」


「うん、そうだよね。 どんなことができるのか旅をしながら試してみるよ。 ベティ、いろいろとありがとう 」


「お礼はいらない。 ベティはベティのしたいようにしただけ。 じゃあ、気を付けて 」


 ベティに見送られながら門を出たモレッドは東へと向かう。


 エレナの地図によると、サイオン達が最初に立ち寄るメキドは、ラドームから東に5日ほどいったところにある。


 モレッドはサイオンから3日遅れの旅立ちとなっており、メキドに到着する間に追いつける可能性は低い。


「いろいろあったけど、今度の帰り道はひとり旅かあ。 よーし、頑張るぞー 」


 モレッドはもと来た道を1人歩き出す。

何度目かの帰り道、勇者を追うモレッドの旅が始まる。


――――――――――――――――――

【★あとがき★】


 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 モレッドが旅立った今回でプロローグはおしまい、次回からは少し勇者サイオンサイドの「ざまあな話」を書いていきます。


 少しでも「続きが読みたい」「応援したい」と思っていただけましたら、フォローや星★、応援をいれていただけますと、作者のモチベーションが爆上がりします。


これからもよろしくお願いいたします


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