第2話
月明かりに照らされた荒野でサイオンとモレッドが向かい合う。
サイオンは剣を鞘に収めた状態でモレッドを見下ろし、モレッドは血に染まったまま地面に手をつき、サイオンを見上げている。
焼けるような痛みの中、モレッドはなんとか言葉を絞り出す。
「クビって、、、いや、いきなり何するんですか、、なんでこんなことするんだ、、 」
サイオンは痛みで頭が回らない様子のモレッドをけり飛ばし、ゲラゲラと笑いながら話しだす。
「クハハッ、なんだ、クビの意味もわからないのか? おまえは使えないからパーティーにいらないって言ってるんだよ! 」
「使えない、、、 そうかもだけど、、 なんで斬られなきゃ、、 」
「ハッ、まあ、わかんねーよな、おまえの足りない頭じゃ。 いいぜ、冥土の土産に教えてやるよ。」
サイオンはゆっくりとモレッドに近づいてその髪を掴み、乱暴に引き上げる。
苦悶の表情を浮かべるモレッドを、サイオンはニヤついた顔で覗き込む。
「おー、痛そうだな。 よしよし、よーく考えろよ。 おまえ、前の仲間のことは覚えてるか? 」
「前の仲間? ビスタとミリーのこと? 」
「そうそう、そいつらだ。 さて、問題だ。ビスタとミリーはどうやって死んだんだと思う? 」
「どうって、魔物に殺されたってサイオンが、、、 」
はっとした表情でサイオンを見るモレッド。
「まさか、、 まさか、、 サイオン、なんで、、 」
「くくっ、なんでときたか。 何でも聞かなきゃわかんねーんだな。 あいつらが死んだ後、俺たちはどうした? 」
そう言われたモレッドはもう一度サイオンを見上げる。
月明かりに照らされサイオンを包む勇者の鎧が幻想的に輝く。
だが、サイオンはとても勇者とは思えない邪悪な笑みを浮かべている。
答えにたどり着いたモレッドは苦々しい表情で言葉を発する。
「王国に、戻るため、、 仲間が死ねば戦力補充のために王国に戻れるから、、そのために殺したのか 」
「かかかっ、やっと気付いたか。 そうだ、あいつらはオレが殺した。 早く魔王を倒さないとだのなんだの面倒なことばかり言ってきやがったからな。 おまえと同じで丸腰で連れ出して『ズドン!』だ 」
「何を、いったい何を言ってるんだ? 僕たちの目的は魔王を倒すことじゃ、なかったのか? 」
「はあ? 魔王を倒しちまったら、勇者の名前で好き勝手できなくなるだろーが。 勇者である限り、物を奪おうが、人を傷つけようがなんの罰も受けねえ。 金は好きなだけ国からもらえて、女だっていくらでも寄ってくる。 こんな待遇を自分から手放すなんて、バカでしかないと思わないか? 」
「あんなバカ共の命も、オレが勇者を楽しむために活用してやったんだ。 おまえ、あの世であいつらに感謝しろって伝えとけ 」
サイオンは高笑いしながら勝手の仲間を侮辱し、自身の快楽のためにその命すらも奪ったという。
二人との思い出が脳裏に浮かび、ビスタの目の前が真っ赤に染まる。
先ほどまで動かなかった体が嘘のように、赤い髪を振り乱し、口から血を吐きながら、モレッドはサイオンに殴りかかる。
「ふざ、けるな!! ビスタは、ミリーは、そんな理由で死んでいいような人じゃなかった! 」
「があぁぁぁっーーーー!! 」
これまでサイオンにどんな仕打ちをされても、モレッドはじっと耐えてきた。
そんなモレッドが初めて怒りを爆発させた全力の拳は、、
いとも簡単にサイオンに受け止められ、そのまま地面に投げ飛ばされる。
サイオンは無表情のまま、倒れこんだモレッドを何度も踏みつけ、モレッドが動かなくなるとふぅと息をつき、また笑い始めた。
「くはっ、弱いなー、ほんとに弱い。 まあ、少し天命に出てきただけの名前も効果もわからないくそスキルじゃ、こんなもんだろ。 エレナもこんな雑魚に肩入れしてバカな女だ。 おまえが死んだってわかったら、どんな顔をするのか楽しみだ 」
ニヤけた表情で倒れたモレッドを見下ろしながら、サイオンはブツブツと話し続ける。
「あー、いや、それだと前と同じだな。まあ、人族の領地にさえ辿りつけば、エレナも用済みだ。最後ってことで少し遊んでみるか 」
モレッドはかろうじて意識を残していたが、全身に力が入らず呼吸すらままならない。
ピクリとも動かないモレッドを見て、サイオンは冷たく言い放つ。
「ん、ああ、そろそろ死んだか 」
そう言うとサイオンはモレッドの胸元から、勇者パーティーの証である首飾りをむしりとる。
ふと、もう一つ、小さな盾のような首飾り、魔力の込められた守りの魔道具の存在に気付き、また醜悪な表情で笑う。
「くーっ、エレナめ、こんなもんまで持たせてやがッたか。オレさまの勇者の剣で斬られて真っ二つにならねーなんて可笑しいと思ったぜ。まあ、結局死んでりゃ意味もないけどな。」
そう言って魔道具もむしりとろうとした瞬間、サイオンの手にバチッと電撃が走る。
「ちっ、奪われないように加護までかけてやがる。まあ、そろそろ魔物も集まってくる頃だ。さっさと街に戻るか。」
サイオンはだめ押しとばかりにモレッドの道具袋を剥ぎ取った後、すっと立ち上がり、パンパンと身体についた汚れをはらう。
「ああ、聞こえてないだろうが最後に一つ訂正だ。ビスタとミリーを殺したのはオレじゃない、魔物だ。今のおまえみたいにあいつらを瀕死にして、魔物に食わせたんだ。こうやってな。」
そう言うとサイオンは、横たわるモレッドに魔物寄せの魔道具を投げつけ、反対に自身は魔物避けの魔道具を装備してその場を立ち去る。
月が雲に隠れ、あたりは暗闇に包まれる。
サイオンはそのままモレッドの方を振り返ることもなく、悠然とした足取りで闇に消えていった。
魔王を倒しに行かない勇者にパーティーを追放されたので、隠されていたチートスキルで制裁しようと思います 鈴木となり @tonari373
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