魔王を倒しに行かない勇者にパーティーを追放されたので、隠されていたチートスキルで制裁しようと思います

鈴木となり

第1話

 魔族の街ラドーム、魔王城を見上げる広場で、人族の勇者サイオンが金色の髪をかき分けながら怒鳴り声をあげる。


「おい、モレッド、昨日から歩きづめだが、宿の手配はできてるんだろうな」


 遊び人兼雑用のモレッドは、サイオンの高圧的な態度に対しても笑顔を崩さずに答える。


「あ、宿の手配ですね。この街だと、酒場の並びにあったはずなんですぐに手配してきます。」


 よいしょ、と身体よりも大きな荷物を抱え、宿屋に向かって走り出そうとしたモレッドを、サイオンは再び罵倒する。


「はあっ!? まだ手配できてないだと!  散々歩かせた挙げ句、オレを待たせる気か!? 」


 モレッドを殴ろうと身を乗り出したところを聖女エレナに止められ、ぶつくさ文句を言っているサイオンを尻目に、モレッドは赤い髪を揺らしながら宿屋に駆けていく。


 幸い宿にすぐに入ることができ、ほっとしたのもつかの間、サイオンが飯は酒はどうしたとどなり始めた。


 モレッドは、「はい、いますぐ」にとサイオン達の部屋に一声かけ、酒場に席の確保に行こうとしたが追いかけてきたサイオンに捕まってしまい、今度はタンクのブロムも加わって、準備が遅いと殴る蹴るの暴行を受ける。


(あー、またか、早く終わらないかな。。)


「ちょっと!何やってるの!」


 モレッドがじっと耐えていると青い髪を振り乱してエレナが飛び込んでくる。


 サイオンの蹴りがエレナの脇腹にあたり、うっと小さなうめき声をあげながらも、エレナはモレッドを庇うように立ちふさがる。


 「やめなさい!!仲間に手を出すなんて恥を知りなさい!食事はもう手配してあります。宿を出て隣の酒場に行ってください! 」


 「ああっ!?こいつが働かねえから、教育してやってんだろうが!てめえは黙ってろ! 」


 サイオンは勢いのままにエレナに掴みかかろうとしたが、宿屋の給仕らしい子供が怯えた顔でこちらを見ながら固まっているのに気付き、ちっと舌打ちをして踵を返す。


 「はっ、飯の手配ができてるなら勘弁してやる。おい、ブロム、行くぞ 」


 ブロムを連れて出ていくサイオンを睨み付けながら、エレナはモレッドに謝りながら回復魔法をかける。


「ごめんね、私が目を離した間に連れて行かれたんだよね。ああ、もう、首のところまた傷になってる。他にも痛いところはない? 」


「気にしないで。エレナが食事を手配してくれてたから、これくらいで済んだんだ。エレナもお腹蹴られたでしょ、大丈夫?? 」


 エレナは困ったような顔で、


「私は大丈夫だよ、たいしたことはされないから。 それより、モレッドだよ。 ほら、傷を見せて 」


 と言い、心配そうな顔でモレッドの傷を治していく。



 モレッドには勇者パーティーに入る前の記憶がない。気がつくとギルドの酒場で酔っぱらい相手に芸をしていたのだが、すぐに城の兵士に連れていかれ、天命があったので勇者パーティーに入れと言われたのだ。


 その天命はモレッドの隠れたスキルが勇者を守護し魔王を打ち倒すというものだったのだか、なんせ隠れたスキルなので、スキル名も効果もわからない。


 それでも最初の頃はサイオンも天命を気にして、表立った嫌がらせはしてこなかったのたが、3ヶ月も立つ頃には今とそう変わらない状態になっていた。


 エレナはモレッドよりも1年遅く、欠員を補充する形でパーティーに入った。聖女という勇者と双璧をなす職業と持ち前の頭脳や美しさもあって、サイオンもエレナの意見はある程度尊重するようにしていた。


 以来、ことあるごとにモレッドをいびるサイオンと、それを止めるエレナといった構図が3年近く続いていた。


 あらかたの傷を治し終えたところで、モレッドはすっと立ち上がり、


「では、お客さま、両手を前にお出しください 」


 と、エレナの手を引く。


 エレナは少し驚いた顔をしたが、さして抵抗することなく、にっこりと微笑んで両手を差し出す。


 モレッドがその手にハンカチをかけ、不思議な呪文を唱えると、ハンカチがふわっと浮き上がり、エレナの手のひらに小さな花束が現れた。


「いつもありがとう、エレナ」


 モレッドがにっこり笑ってお礼を言うと、エレナは涙目になりながら、


「ごめんね、後でサイオン達にきつく言っておくからね。お花ありがとう」


 と言って微笑んだ。



 その後、ここのところサイオン達がひどすぎると二人で話をしていると、ブロムが呼びにきたのでエレナは仕方なく酒場に向かう。


 去り際、ちゃんと言っておくから任せてと言わんばかりに、拳を突きだすエレナを見て、モレッドもまた微笑む。



 エレナ達を見送った後、モレッドは宿屋の裏庭に出て、キョロキョロと周りを見渡す。


 石の作業台を見つけると、背中のバックから今日倒した魔物の肉と採集した野草、調理器具を取り出し、作業台に並べていく。


 ここ1年、モレッドは酒場や宿での食事をしていない。


 サイオンが戦いで役に立たないやつが食事に金を使う必要はないと言い出し、街に泊まる際も夜営の時のように食事を作っているのだ。


 最初はエレナがカンカンに怒って、モレッドの手を引いて酒場に連れていったのだが、その場でサイオンとエレナが怒鳴り合いになり、手が出かかったところで店から追い出された。


 何度か同じことを繰り返すうちに、モレッドは二人の喧嘩を見るのがおっくうになり、「自分は外で大丈夫」といって一人で食事をすることにした。


 端から見るとひどい仕打ちなのだが、土地土地の魔物の肉や野草は想像していたよりも美味しく、また見た目や味のバリエーションもあり、今ではなんだかんだとモレッドは食事の時間を楽しみにしている。



 エレナの作ってくれた魔道具で火を起こし、鉄鍋で肉と野菜を炒めていると、さっきの給仕の子供がパンを持ってきてくれた。


 朝の余りだと言っていたが、どう見ても焼きたてだったので、お返しに焼いた肉を野草でくるんだ料理を差し出すと、とても美味しそうに食べてくれた。



 食事を済ませたモレッドは、宿の作業場を借りてサイオンとブロムの装備の手入れをする。


 剣だけでなく、鎧や鞄の状態もよく見て、明日以降も問題なく使えるよう簡単な補修をしていく。


 しばらく作業に没頭していると、宿の入り口の方から大きな声が聞こえてきた。


 サイオン達が騒ぎながら帰ってきたのだ。


「うるさいなぁ、早く寝てくれないかな。。」


 ぼやきながら、装備の手入れを続けていると、だんだん声が近づいてきて、作業場のドアが乱暴に開けられる。



「モレッド、いねえと思ったらこんなとこで何やってやがるんだ! 」


 赤い顔をしたサイオンに大声で怒鳴られ、モレッドは顔をしかめながら答える。


「何って、装備の手入れですけど、、」 


「そんなことはどうでもいいんだよ! 話があるからちょっと着いてこい 」


 モレッドはいきなり胸ぐらを掴まれ、作業場から引きずり出される。


 サイオンが乱暴な手つきで作業台から剣と鎧を奪い取ると、台に並べていた装備が散らばり、ガラガラと音をたてながら床に落ちていく。


「待って待って、ちゃんと着いていくから、引きずらないでください 」


 サイオンの手をなんとか引き剥がしたモレッドは、嫌々ながらサイオンに着いていく。


 サイオンは広場の方に向かったかと思えば、止まることなく通り過ぎ、街を出て、魔王城の方へ歩いていく。


「ちょっとサイオン、どこまでいくんですか?あまり街から離れると危険ですよ。それに、エレナとブロムはどうしんですか? 」


「エレナは教会だろ、施しと祈りに行くって言ってたからしばらくかかると思うぞ。ブロムは知らん。いいから着いてこい 」



 30分ほど歩き、魔物の気配も強くなってきたところでサイオンは足を止める。


「まあ、これくらい離れれば十分だろ 」


 ボソッと呟いたかと思うと、いきなりモレッドへ斬りかかった。



 ザシュッ!!!



 突然のことにモレッドは反応できず、サイオンの斬撃をまともに受ける。


 肩口から腹部に駆けて衣服が血に染まり、モレッドは力なく膝をつく。


「えっ? サイオン? 」


 血に染まった衣服とサイオンを交互に見ながら、訳がわからないといった表情でモレッドはガタガタと震える。


 サイオンは震えるモレッドを見下ろしながら、ニヤついた顔で告げる。



「モレッド、てめーはクビだ。このままここでのたれ死んでいいぞ 」


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