第11話 怪盗襲来
突然、煌びやかに灯っていた夜会場の明かりが全て消え、闇に包まれた。高いところにある窓から微かな星明かりが薄く差し込み、人々の影をぼんやりと浮かび上がらせている。
「なんだ!?」
ルース殿下が驚いてキョロキョロと辺りを見回すその前で、衛兵に後ろ手をとられているルミナ様がふんと鼻を鳴らすのが聞こえた。
「……なんだい、騒がしいね。人のことはいえないけどさ」
私はといえば、息を殺して周囲を警戒していた。
暗闇に乗じてなにか不測の事態が起こるのではないか、と身構えていたのだ。だって、明かりの消え方がかなり不自然だったから。
たとえば、盗賊団が大がかりな仕掛けをしてきたとか、そういうことが考えられるわ。
が、パーティー参加者たちは予想外にも落ち着いていた。
ここにいるのは、婚約破棄劇――から強引に移行した推理劇を面白がって観戦していた若き貴族たちである。
今度はなにが始まるのかと、興奮にざわめきすらしていた。
しかし。
次の瞬間、高らかな男の笑い声がホールに響いたのだった。
「はははははははは! やぁ皆さん、ごきげんよう! 今宵は実によい夜だ、新月の闇に紛れて真実を取り戻そうではないか!」
その声は低く艶やかで、遊び心のある響きがあった。
だがその声が響いた途端、緊張の糸がピンと張り詰め、はっと息を呑む音が暗闇に沈んだ会場のあちこちに広がった。
「何者だ!」
ルース殿下が力強く問いかけると、その声は暗闇と遊ぶように軽やかに返してきた。
「問われたからには答えよう、我が名は怪盗皇子ブラックスピネル。価値もわからぬ愚か者から我が宝石を取り返しにつかまつったっ!」
怪盗皇子? なにそれ。怪盗なのに皇子なの? なんだか妙ちくりんな名前ね。
しかもブラックスピネルって……確かブラックスピネルって光輝く黒い宝石よね? 闇に紛れそうで紛れない、目立ちたがり屋の名前だわね。
とそこまで考えてから、私はハッとした。
――ちょっと待って。怪盗? 怪盗ってあの怪盗? 怪盗が来たの!?
殺人未遂の濡れ衣を晴らしたと思ったら今度は怪盗のご登場だなんて。
今夜って、なんて……、なんて面白い夜なんでしょう!
感動に打ち震える私をよそに、パァン! パァン! パァン! と会場のあちこちから爆発音と閃光が立ち上がった。
暗闇のなかで、貴族たちの顔が光に切り取られる。
ポカンとした顔、恐怖に歪んだ顔、これもなにかの余興と思ったのか笑みを浮かべた楽しげな顔――みな実に様々な表情を浮かべていた。
だがそれも一瞬のこと。
一瞬ののち、混乱が一気に広がっていった。
「っきゃあああああ!」「な、なんだっ!?」
夜会の参加者たちは悲鳴ととも身をすくませた。
かと思うと、次の瞬間には来賓たちは動いていた。
我先に動いて会場から脱出しようとするもの、安全を確保しようとテーブルの下に隠れるもの、あわあわと無意味に動き回るもの、瞬きの間も惜しんで状況を見極めようとするもの――皆、様々な反応を見せはじめ、会場はあっという間にパニックに陥る。
私は人混みに流されないようにその場に踏ん張って立ちすくんで、大混乱のなか周囲の動きに目をこらしていた。
怪盗の次の一手に備えていたのだ。
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