第5話 ルミナの反論
私のこれぞ名探偵というような名台詞に、ルース殿下もルミナ様もポカンとしている。まるで時が止まったかのようだった。
なんだろう? 定番の台詞だけど現実だと滅多に聞くことは無いし、感動しているのかしら。
が、ルース殿下が真面目な顔で片手を上げた。
「ちょっといいか、シルヴィア」
「はい、なんでしょうか殿下?」
「みなさんって誰だ? 俺は誰を集めたらよいのだろうか?」
私は一瞬、考え込んだ。
うーん、そうか。確かに誰を集めてもらおうかしらね。
周りで見ている貴族たちは、もうここにいらっしゃるわけだしねぇ……。
「国王陛下とかですかしら」
「父は公務で城にはいないぞ」
「では王妃陛下とか……」
「母も父について行っているので留守だ。というかこの夜会は俺が主催した若い貴族のための夜会だから、親世代は基本参加しないことになっているのだが……」
「仕方ないですわね。では簡易版ということで特別にこのままでいきましょうか」
というか関係者って、私、ルース殿下、ルミナ様の三人しかいないから、集めるも何もこの三人でいいのよね。冷静に考えたら。
……まあノリで言いたい台詞を言っただから。
そんな私に、ルミナ様も笑顔のままおずおずという感じで手を上げて聞いてくる。
「あのぅ、よろしいでしょうか、シルヴィア様?」
「はいルミナ様、なんでしょう?」
「謎は解けたって、どういうことですの?」
彼女は顔を若干強ばらせていた。笑顔の演技がおろそかになっているわよ――そりゃそうか。私の推理で計画が崩れるかもしれないんですものね。
「言葉通りの意味ですわ」
力強く、私は深く頷いた。
「私の疑惑を完璧に晴らすことができる、という意味です。あなたの傷の正体も、これで明らかになりましょう」
「「えぇっ!?」」
二人の驚愕が夜会会場に響き渡る。周囲の貴族たちが息を呑む音も連鎖して聞こえ、すべての視線が私に集中した。
うーん、この緊張感……たまらないわね。探偵冥利に尽きるわ!
「そんなバカなことがあってたまるか。犯人はお前に決まっているだろうが!」
「さて、それはどうでしょうか。証言を鑑みるに、それは無理だと思いますけれど」
「なにぃ……!」
「何故ならば」
口元に翳したままだった扇をおろす。ルミナ様の心を見透かすように、深緑の瞳を細めた。
「私はその日、この城に来てなどいないからです」
「そんなことって……!」
ルミナ様の顔に衝撃が走る。一瞬、彼女は口元を引きつらせ、怯えた表情になる。しかしすぐにまた例のニッコニコ笑顔に戻った。演技は続行するのね、なるほどなるほど。
「そんなはずないのですぁ! だってその日は王宮図書館の返却日ですもの。返すにしても延長処理をするにしても、シルヴィア様はちゃんと王宮図書館に来ないといけないンでしょ?」
「確かに、それが王宮図書館のルールですね」
「ですわよねぇ? 王宮図書館からお城までは近いから簡単に移動できるし。だから一週間前、シルヴィア様が図書館に来たついでにお城に立ち寄られてもおかしくはないのですわぁ!」
「しかしいくら同じ敷地内にある王宮図書館とはいえ、登城するのでしたら衛兵に面通ししないといけませんわ。私がルース殿下の婚約者であったとしてもそのルールは代わりません。ですからその日、私が来ていないことは衛兵が証言してくれるでしょう」
簡単な事よ。犯行現場には厳重なセキュリティがあったの。それが私を証明してくれるのよ。
だが、ルミナ様はふふんとせせら笑ったのだった。
「衛兵なんて問題になりませんの。簡単に買収できちゃいますもの!」
衛兵の買収が簡単とか言い切っちゃうのはどうなのよ。というかこんなに堂々と言い切っちゃうなんて、衛兵の買収をしたことがおありなのかしら。
でもまあ確かに、ルミナ様のいうとおりではある。
衛兵も人の子、お金を握らせれば嘘の証言をする人だっているだろう。
さて、困ったわね。ここからの反論、どうしようかしら? 肝心の衛兵の証言を崩されてしまったら、私が犯行現場にはいなかったって証明できなくなってしまうわ。
……なんてね。ルミナ様の証言には明らかな矛盾があるからそこを突くだけよ。
それにしても、ルミナ様はどうして『あの情報』
を知っているのかしらね?
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