42 サークル

「一級の受験会場に中学生がいたから、珍しかったみたい。終了後に、話し掛けてくれてさ。すっげえ美人で気さくで、優しい人なんだよね。俺が帰国子女でなければ、海外留学経験もないことを知ると、驚いてたよ。HPCだって話したら、さらに興味津々で、連絡先を交換して欲しいって言われてさ」

「ふうん…」


 珍しく、瞳が輝いている。鼻の下まで伸ばして、何だかいやらしい。

 女子大生だったら、少なくとも五つくらいは年上。

 年上の女性が、好みなのだろうか。


「それで、ヒロトに何の用なの」

「実は、彼女は大学でサークルに所属しているんだけど、俺も入らないかって、誘われているんだよね。中学生でも、構わないからって」

「サークル。へえ。どういった活動を、しているの」

「何かよくわからないけど、自己啓発とか、催眠術とか、スピリチュアルな感じらしい」

「…そう」


 言いたくはないけど、何となく怪しい。

 変なカルト集団とかでなければ、いいけども…。


「他にも、HPプロジェクトの研究みたいな活動を、しているらしいよ。だからぜひ、HPCの俺に、参加して欲しいって」

「HPプロジェクトの…研究」


 それはまた、気になる題目。もはや、胸騒ぎしかしない。

 ヒロトは、何も感じないのだろうか。


「まさか、参加するつもりなの」

「まだ、返事はしていないよ。でも活動は日曜日だけだから、勉強にさほど影響もないし、前向きに考えてはいる。俺はお前たちと違って、大人の世界に興味があるからね。俺の頭脳を持ってすれば、対等に話もできるだろうし」


 上から目線で、前髪をかき上げながら得意げに言う。

 まったく。何を言っているんだか、聞いて呆れる。


「興味があるのは、美人で優しい女子大生の人たちの世界に、でしょ」

「変な言い方をするなよ。サークルは、女性ばかりじゃないんだぞ」


 ヒロトは他人と接する機会が少ないので、外部の人たちとの付き合いにも慣れていない。

 彼のHPの両親もおそらく、指導の大半は、学力向上に費やしているのだろう。

 頭はいいけど、警戒心が足りないというか、世間知らずなところがある。


「…ねえ、ヒロト」

「ん」


 返信を打っている最中に声を掛けたため、ややウザったそうに顎だけを向ける。


「イントルーダーっていうのが、いてね。連中は優秀な人間の頭に張り付いて、頭の中の情報を、すべて盗み取るそうよ」

「は。何、何の話」


 スマホ画面を見ながら、眉をしかめる。


「そして最終的に、その人物を、亡き者にするんですって」

「お前、何言ってんの。漫画か何か。悪いけど俺、そういうの興味ないんだよね」

「別に。それじゃあ、また明日」


 自宅のある、団地に到着する。

 ヒロトとは同じ、HPファミリー専用の住宅団地に住んでいる。

 うちは手前の一号棟で、ヒロトのところは奥の三号棟。


 忠告はしておいた。

 後は本人が、自分で決めること。

 自滅しないことだけを、祈っておくとしよう。

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