24 死亡した少女

それは、一年ほど前。


 同じ団地に住む、一つ年下の小学六年生だった女の子に、起こった悲劇。


 少女はある日突然難しい病気を発症し、区内の病院に入院した。間もなくすると治療のため、遠く離れた地方の医療機関へ移ることになった。

 その際、HPの両親とは完全に引き離された。


 そしてそのわずか二週間後、何の予告もなく、容体の急変によりこの世を去ったのである。


 前日までSNSでみんなとやり取りを楽しんでいたため、本当に信じられないくらい、突然の死だった。


 当時は何の疑いもなく、誰もがその悲劇を受け入れていた。


 けれどもし南朋の話が事実だとすれば、もしかすると彼女は、不要になったために殺処分されたのではないかという、疑念が湧く。


 不良HPCの、殺処分。


「…いいえ、いないわ。聞いたこともない」

「…そう」


 南朋は怪訝そうに、眉をひそめる。


「ねえ。言っておくけど、私だってこの話を完全に信じているわけではないのよ。まだ証拠は、何一つ出て来ていないし。それに、そんな恐ろしいことが今の日本で行われているなんて、信じたくもないしね。だから…って…、あっ、キャー、ヤバい」


 突如大きな瞳を、さらに大きく見開く。

 同時に、甲高い叫び声を上げる。

 腕に嵌めた有名ブランドの高級腕時計へ目をやると、大きくジャンプする。


「ゴメンなさい、私もう行かなくっちゃ。今日はこれから、スタジオで雑誌の撮影があるの」


 どうやら話に夢中になり過ぎて、仕事の時間を忘れてしまっていたようである。


 フワリと身を翻すと、側で待たせてあったタクシーに、勢いよく飛び乗る。


「それじゃあ、そういうことだから、この件に関して何かわかったことがあれば、必ず私に知らせてね。楢野君経由でいいから」


 ドアが閉まる直前にそう言うと、左目でウインクする。タクシーは、ただちに発進。

 南朋が中からずっと手を振り続けるので、一応振り返す。手はもはや、惰性だけで動いていた。


 見送りながら、今はまだ、亡くなったHPCの件については黙っておこうと心に誓う。

 本当に殺処分されたと、決まったわけではない。マスコミにスキャンダラスに報じられでもしたら、亡くなった彼女が気の毒だ。


 それに、今を生きる他のHPCにも、余計な不安を与えかねない。どのような真実が裏にあるにせよ、個人的にも、そっとしておいて欲しいというのが本音である。


 まるで台風の目のような南朋が去った後には、ほんのり甘い、フレグランスの香りだけが残った。


 タクシーが完全に見えなくなると、それを見計らったように、コンビニ脇から一人の男子生徒が姿を現す。


「楢野君…、そこにいたんだ。いつからいたの」

「遅くなって、ゴメン」


 問い掛けには応じず、無表情のまま歩き始める。

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