14 ボランティア(3)セクハラ

「お前は、中学生のボランティアだって言ったな」

「そうです」

「ということは、HPCか」

「…はい」


 ニヤリと、左の口角が上がる。


 嫌な予感。


「そうか。HPCか。なら今ここで、その着ているジャージを脱げ」

「は」


 予感的中。気味の悪い、舐めるような視線が全身をはう。

 背筋がゾッとする。


「お断りします」


 臆せず、毅然と対応。


「なんだと。お前たちは、わしら国民の税金で生きておるんじゃろ。ご主人さまの命令には、素直に従え」

「できません」


 この、変態ジジイめ。


 でも、大丈夫。こういった状況の対処方法は、ちゃんと心得ている。


 HPCは血の通った親きょうだいを持たない、ある種天涯孤独の身。強く生きて行かなくてはならない。そのため常日頃から、同年代の子どもたちが知りもしないさまざまなシチュエーションを想定した先手教育が、HPの両親によって行われている。


 HPCの女子が、男性の性的欲求を満たす対象になりやすいことも、想定済み。


「今の私の指示者は、ヘルパーさんです。ヘルパーさんの指示以外、聞く義務はありません」

「何を生意気なことを、言っておる。いいから、さっさと脱げ。お前が本当に人間かどうか、確かめてやる」


 手が伸びて来る。病気持ちの高齢男性とは思えない、野獣のようにギラギラした目つき。

 火がつくのに、年齢は関係ない。まったく、教わった通りだ。


 腕をつかまれ、ジャージの前ファスナーが下ろされる。中に着ていたTシャツが、捲り上げられる。


「やめてください」


 さすがに、男性の力は強い。高齢者だと思って油断すると、動きを封じ込まれてしまう。


 怖い。


 でも、大丈夫。落ち着いて。


「私に触らないでください」


 持っていた衣類を、男性目掛けてぶちまける。そのまま右肩と右足を引いて、視界を失った男性の腕を取る。肩関節が外れない程度に少しひねり、痛みで怯んだ隙に、体重をかけて畳の上に落とす。


 やった。


 初めて試みたけれど、上手くいった。力の弱い女性でもできる、護身術。


「くそっ。お前…、いたいけな老人を殺す気か」


 そう言いつつも、ちゃんと受け身の姿勢を取った。


「こんなことをしやがって、本部に通報してやるからな」


 自身の行為を棚に上げて、本当に見苦しい。


「本部には当然、起こったありのままを、報告させていただきます」


 本部がどちらの言い分を信じるかは、一目瞭然だ。


 その時、買い物へ行っていたヘルパーさんが戻って来た。

 玄関の扉が開く。


「まあ、一体何があったの」


 買い物袋を下げたまま、目に映った光景に困惑の表情。畳の上に転がる男性と、こちらの顔を交互に見る。


「ジャージを脱げと言われたので、できませんと言いました」

「ええっ!」


 即座に、男性をギロッと睨む。男性は目を逸らし、体裁が悪そうに頭をかく。


「そしたら上着のファスナーを下ろされて、Tシャツを捲り上げられて」

「黙れ。奴隷。お前たちに、人権などない」


 側にあった衣類を手に取り、投げつける。畳んだばかりの衣類は、すっかりぐちゃぐちゃ。

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