二 ボランティア

12 ボランティア(1)訪問ヘルパー

「それじゃあアンタは、二階をよろしくね。もう一年以上誰も入っていないそうだから、ちょっと大変かも知れないけど、がんばって」

「はい」


 掃除用具を手に持ち、二階へ上がる。


 この家の住人は、身寄りのない九十歳の女性お一人。自立生活をされていてお元気だが、脚が悪く、普段は一階だけで生活されているそう。世話をしてくれる子や親族などはおらず、他人と接するのは、行政支援で週一回派遣される訪問ヘルパーくらいだそうだ。


 お気の毒な方である。


 一年以上誰も上がっていないという二階は、階段の部分からすでにほこりが溜まっている。ところどころには、クモが巣を張っている。なかなかやりがいのある現場。


 まずは階段から、掃除を開始。一台しかない掃除機はヘルパーさんが一階の掃除に使用しているため、ほうきと雑巾を使ってキレイにする。


 階段が済み、二階へ上がる。長期間誰も立ち入っていなかった二階の二部屋は、一部屋が洋室で、もう一部屋は和室。ザっと見たところ、どちらの部屋も、想像したほど荒れてはいないよう。窓やカーテンが閉めっぱなしで人の出入りもないとなると、さほどほこりも溜まらないみたいである。


 窓を開けて空気の入れ替えをし、拭き掃除を開始。


 あまりほこりが溜まっていないように見えた床は、雑巾がけをすると、結構布が汚れた。終わった後は、洋室の床はピカピカ、和室は畳べりもはっきり見えるほどスッキリした。


 これでよし。


「お嬢さん、お手伝いありがとうね」


 住人のおばあさんから、お礼にとお饅頭一つをいただく。仕事を感謝され、ご褒美をもらえるのは、ボランティアをしていて一番嬉しい瞬間。


 ボランティア活動は、月・火・木・金・土の週五日、社会学習という名目のもと、中学生以上のHPCに用意されている。他の生徒たちがクラブ活動や塾に通っている時間帯、多くのHPCはボランティア活動にいそしんでいる。


 ただし強制ではない。たとえば友人との交流を優先したい時には、事前に連絡すれば、いつでも休ませてもらえる。クラブ活動がしたければ、そちらに集中してもよい。


 基本的に、選ぶのは自分自身だ。


 ボランティアの活動時間は、一日最短一時間、最長三時間までと決まっている。


 時々一般の友人から「大変だね」なんて言われることもあるけど、個人的にボランティア活動は好きだ。いろいろな人たちに出会えるし、スキルが身につく。何よりも、人の役に立てるのは嬉しい。


 一件目を終え、事業所の車で二件目に移動。

 現場での活動時間は、一回三、四十分程度。移動時間を入れ、一件につき大体一時間で予定が組まれている。


 次の訪問先も、高齢女性が一人で生活する、一軒家のお宅だった。


「何かご要望はありますか」

「そうねえ。それじゃあ、庭の倉庫の、片付けをしてもらえるかしら」

「わかりました」


 倉庫内は、少し前にあったちょっと大きな地震のおかげで、ごった返した状態になっているそう。

 倉庫の扉を開けると、たしかに中は想像以上にモノが散乱している。


「ここは私の職務外だから、アンタに任せるわね。重たいモノには触らなくていいから、ケガにだけ注意して」

「はい」


 行政が派遣するヘルパーは、要支援者の生活活動範囲のみのお手伝いしか認められていない。日常的に使用する部屋やキッチン、風呂・トイレなどの掃除がメインとなる。日常的に使用されていないスペースは支援の対象外となるため、そういった場所の掃除や片付けなどを担当するのが、ボランティアの役目だ。


 倉庫の片付けは、頼まれることの多い仕事の一つ。他には窓ふきや庭の草むしり、日常生活に無関係な物品の買い物などを頼まれることがある。


 裏庭に設置された畳み三畳ほどのスチール製倉庫内に入り、落ちたり傾いたりしたモノを、元の位置と思われる場所に戻す。


 このお宅のおばあさんやそのご家族は、モノが捨てられない性分のようである。壊れた家電や電化小物、子供用のおもちゃなど、不要と思われるモノがたくさん保管されてある。

 衣装ケースには、フタがちゃんと閉まらないほどの衣類。古いスマホは、十台近く積まれてある。一番古いのは、ラベルに書かれた製造年月が数十年前のモノ。どれも年季が入っていて、どこか懐かしさを覚える味わいがある。


 まるで、博物館の中にいるみたいだ。


 これらの品々が、ここのご家族の歴史。家族に歴史がない者としてはちょっと複雑だけど、一般家庭の歴史を垣間見るのは興味深く、おもしろい。一般の人たちがどういったモノを使用しているのかが知れて、勉強にもなる。


 今はおばあさんお一人だけど、きっと長い間、ご家族で幸せな時間を過ごされたのだろうな。


「キレイに片づけてくれて、ありがとうね。助かったわ」


二件目のおばあさんもとても感じがよく、頭を撫でて褒めてくれた。

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