第40話 イベント
アキラとノクスが洞窟に到着すると、そこには荷馬車と2頭の馬だけが取り残されていた。激しい雨が降り続け、洞窟の入り口には雨粒がしずくとなって滴り落ちている。
アキラは荷馬車の倉庫からタオルを取り出し、一枚をノクスに渡してから洞窟内を見渡した。二人は服の汚れを払いながら、調査を始めた。
ノクスは馬を宥め、荷馬車に積まれた小麦などの食料がきちんと整理されているのを確認する。その几帳面な様子が商人の性格を感じさせた。
「商人はどこだ?」アキラは心配そうに周囲を見回したが、応答はなかった。
「もしかして、襲撃に遭ったのか?」
セレナたちも洞窟に到着しているはずだが、襲撃者を追跡中のため、詳細は不明だった。
「足跡が奥に続いています」ノクスが目敏く地面を指差した。
「後を追おう」
アキラは手元に炎を灯し、ノクスと共に足跡を辿って洞窟の奥へと進んだ。足元に注意しながら進むと、すぐに転落現場にたどり着いた。
「ここから滑り落ちたみたいだな」
アキラは地面に残った跡を確認し、荷馬車から取り出した幌の固定用ロープを転落場所に向けて投げ入れた。しかし、ロープの長さでは底に届かず、空中で揺れるだけだった。
ノクスが小さな石をいくつか拾い、転落場所に投げ入れると、地面に届くまでに時間がかかり、やがて鈍い反響音が返ってきた。
「かなり深いな。ここから降りるのは危険だ」
「そうですね。他の降り口を探しましょう」ノクスも慎重に同意する。
ノクスの判断に、ラピスが特に異論を挟まないため、アキラもそれを了承した。
「ノクス、スキルを取って準備しておけ!」アキラは本格的な探索に備え、ノクスに声をかけた。
「え、どうしよう……」ノクスは焦りながらも、手元のSP(スキルポイント)を確認する。
「今持ってるSPは10だから、SP5のスキルを2つ取れるんだろう?」
「はい。SP5で取れるのは、炎、水、土、風の矢、ライト、エコーロケーションです。治癒スキルはSP10です」
ノクスが示した選択肢は以下の通りだった:
• ブレイズアロー(火)SP5 消費: MP2
• アクアアロー(水)SP5 消費: MP2
• アースアロー(地)SP5 消費: MP2
• ガストアロー(風)SP5 消費: MP2
• ライト(光)SP5 消費: MP2
• エコーロケーション(探索)SP5 消費: MP2
• ヒール(治癒)SP10 消費: MP5
「地下に潜るなら探索スキルが役に立つし、もう一つは攻撃魔法がいい。火属性なら応用が効くし、すぐレベルが上がれば土属性も取れる。あくまでアドバイスだけど、好きに選んでいいよ」アキラが具体的な指針を示した。
「じゃあ、炎の矢と探索スキルを取ります」ノクスは少し緊張しながらも嬉しそうに答えた。
「商人の居場所がわからないし、セレナたちも来るかわからない。地下への降り口を見つけよう。それが無理ならこの穴を使うしかない。ノクス、早速エコーロケーションを試してみてくれる?」
初めてのスキル発動に、ノクスはわずかに震える手を前に出し、呪文を唱えた。「いきます。エコーロケーション!」
発動後しばらく耳を澄ませていたノクスは、反応を確認すると自信なさげに言った。
「魔法は成功したみたいです。この階には魔物も人間もいませんが、少し気になる反応があります。向かってもいいですか?」
「うん、行こう!」アキラが短く答え、二人は洞窟の奥へ進んだ。
前屈みになったり、横向きになったりしながら進むと、突き当たりに広い円形の空間が広がっていた。
「ここです。他の壁と見た目は変わりませんが……」ノクスが壁を軽く叩くと、鈍い金属音が返ってきた。
「これは……」アキラも手のひらで叩くと、表面の砂がパラパラと落ち、扉らしきものが現れた。
「ウインド!」
アキラが風魔法を放つと、埃が舞い上がり、扉の全貌が姿を現した。それには二匹の大蛇が彫刻されており、途端に洞窟内に低く響く告知音が鳴り渡った。
イベント 地下洞窟「双頭の蛇窟」を完全踏破せよ!
イベント報酬
地下1階: 500ジェム
地下2階: 500ジェム
地下3階: 500ジェム
完全踏破: 1,500ジェム
「ラピさん、これは?」
「イベントが始まりました。クエストもそのまま進行中ですので、ご安心ください。期間限定イベントではありません」
「地下に行くしかないか……」
アキラは、ついに堂々とスキル「ライト」を取得する理由ができたことに、内心ほっとしていた。
セレナやルナは夜目が利くが、アキラにとってこのスキルは本当に必要だった。これまでセレナに「スキルポイントの無駄遣いだ」と言われるのを恐れて、ずっと取得を我慢していたのだ。
「ライト!」
アキラが唱えると、光の精霊がふわりと浮かび上がり、周囲を優しく照らした。暗闇の中で、これだけで視界が大きく開ける。そして、何より両手を自由に使えるようになったことが大きい。
彼らが扉を左右に開くと、まるで巨大な口が開いたように感じられた。冷たく湿った埃の匂いが身体を包み込む。広く緩やかな下り坂を進んでいくと、やがて十字路にたどり着いた。
「エコーロケーション!」
ノクスが地下1階を索敵する。その表情が一瞬、緊張に強張った。
「アキラさん、人の反応があります! でも、かなり弱っています。」
「方向は?」
「左手は行き止まりで、魔物が数匹います。正面には大きな扉があり、ボス部屋かもしれません。奥までは見えません。右手は洞窟の外周を回り、いくつかの道に分かれていますが、最終的には洞窟の入口の下に繋がっています。その最奥に、人の反応があります」
「よし、行こう。案内を頼む」
アキラは冷静さを保ちつつも、緊張を隠せなかった。左手には風、右手には炎の魔法を準備する。ノクスも落ち着いた動作で矢を弓につがえた。
「魔物が2匹、右手の曲がり角の先にいます」
「まずは鑑定だ」
ゾンビ
HP: 24 / MP: 10 / スキル: 毒の霧
ゾンビ
HP: 30 / MP: 10 / スキル: 毒の霧
ゾンビの鑑定結果は、特に問題のない弱い魔物だ。ただし、毒を持っている。
「奴らが近づいてきたら、しっかり狙って攻撃しよう。焦る必要はない」
現れたのは2匹のゾンビ。貧相な姿で動作も緩慢、あてもなく彷徨い歩いている。
「ファイヤーボール!」
アキラの攻撃が炸裂し、1匹のゾンビが吹き飛んだ。
「ブレイズアロー!」
ノクスの魔法の矢がゾンビに命中した瞬間、全身が炎に包まれる。さらにもう一射。ゾンビは苦しげな声を上げ、崩れ落ちた。
「やった、成功した!」ノクスは嬉しそうに声を上げる。
「その調子だ」さらに、2匹のゾンビを倒した。
アキラが軽く頷き、次の行動へ意識を向けた。
ゾンビを4匹倒しました。
経験値: 10P(ノクス: 10P)
ゴールド: 100G
ゾンビを倒したものの、アキラの表情は晴れない。
「油断せずに行こう。本当の戦いはこれからだ!」
アキラたちは、洞窟の奥へと進んでいく。商人が弱っている以上、時間的な余裕はない。この先に待つのは一体何なのか――二人の歩みが自然と速まる。
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