第32話 レベルリセット後 


「今日は森での食料集めだけだよ。明日から本格的に出発する予定だ」アキラは、これからの予定を伝えた。


「はい。よろしくお願いします」ノクスは深々と頭を下げた。


「アキラ、私が守る」セレナが力強く言った。


「わかった。必ず指示に従ってね。それと、ノクスがパーティに加わるかどうかは、君自身の判断に任せるよ。それから、今から話す内容は誰にも言わないで」


「はい!」ノクスは頷いた。アキラは、彼女がパーティの実力を他人に知られたくないのかもしれないと感じた。


「それでは、まず僕から質問するね。ノクスさんがパーティに入る前に、どうしても確認したいことがあるんだ。レベルを教えてもらえるかな?」アキラは尋ねた。


「ノクスでいいです。私のレベルは15です」


ノクスはエルフの長い耳を赤らめ、恥ずかしそうに視線を落とした。


「でも、足手まといにはなりませんから、どうか連れて行ってください」彼女は決意のこもった瞳でアキラを見つめ、懇願した。


ノクスには、どうしても連れて行ってもらわないといけない理由があった。


「すごい! アキラと私はレベル8だよ!」セレナが思わず口を挟んだ。


 ノクスは驚いた表情を浮かべた。


「嘘です。そんなはずありません。だって、あの強いオーガを倒せるのに……」


「ノクス、パーティに入らなくても君を連れて行くから安心して。それと、セレナが言ったことは本当だよ、嘘じゃない。それと、追加で教えてほしいんだけど、君のHPと瞬発力はどれくらい?」


 ノクスは少し悲しげに答えた。「HPは26、瞬発力は10……」


 アキラは自分たちのステータス画面を確認し、ノクスの数値と比較する。


HP: アキラ80、セレナ100、ルナ94

AGI: アキラ20、セレナ37、ルナ33


 レベルはノクスの方が高いのに、明らかにアキラたちのステータスの方が優れている。ラピスの言っていたことが実感として響いた。


「それで、今の冒険者のジョブは?」


「……まだつけていません」小さな声で答えたノクスは、悔しさを隠すように両手で湧き出る涙を覆い、肩を震わせた。


 その様子を見ていたセレナ、ルナ、そしてラピスの視線が冷ややかにアキラに向けられたが、アキラは毅然とした態度で話を続けた。


「馬鹿にしてるわけじゃないし、見下してるわけでもないよ。事情はよくわからないけど、ノクスももっと強くなりたいんだろう? 僕が強くする、いや、僕とパーティを組めば君はもっと強くなれる」


「私でも強くなれるの?」ノクスは半信半疑で周囲を見回して問いかけた。


「うん、間違いない! ノクス、強くなれるよ!」セレナとルナが元気よく答えた。


「ただ、僕のパーティに入ると、一度レベルがリセットされるんだ。それでも構わない?」


「え……?」ノクスはアキラの意外な言葉に戸惑った。今までの努力を全て捨てる覚悟が求められているように感じた。


「大丈夫。私もすぐに強くなれたし、まだまだ強くなるつもりだよ。アキラは信頼できる」セレナの言葉に、ノクスは少し勇気を取り戻した。


「決めるのは君だよ。僕たちの仲間にならないか?」


 アキラはここまで言うつもりはなかったが、どうしてもノクスを助けたいと心から思っていた。


 ノクスは、なぜか救われるような気がして、力強く答えた。


「仲間にしてください」


 こうして、アキラのパーティに新しい仲間が加わった。


 アキラたちは、アキラハウスを北に進み、左手に川を見ながら、村民が現れる地点に到着した。そこは弱い魔物がわずかに生息する場所で、ギルドホールからは遠く、目視では確認できない位置にあった。


 アキラは村人たちに「今日は遅くなるので、夕飯を済ませておいてほしい。」と伝え、明朝、遠出の前に挨拶に行くことを説明し、その際に食料品を渡すなどの打ち合わせを済ませてきた。


 働き者で開拓者である村人は、既に精神的にも、前向きになりつつあり、依頼した作業を始めていた。


 セレナは夕飯の準備をステラに任せ、急いで駆けつけた。額には汗がにじみ、息を切らしながらも、その速さにアキラは感心した。


「それじゃあ、始めよう」アキラは少し緊張しつつ、パーティ編成画面を開いてノクスを追加した。


 ノクスは張り詰めた表情を浮かべている。セレナが優しく見守る中、アキラの手は微かに震えた。


「ノクスのレベルがリセットされました」


 光の帯がノクスを包み、彼女の姿は瞬く間に少女から幼女へと変わった。服はぶかぶかになり、彼女の小さな体を覆い隠してしまう。ノクスは驚きに目を見開き、自分の体を見下ろした。


 その様子を見たラピスが焦った声を上げた。


「いけない、忘れてた。アキラ、テントの準備をして。セレナ、前に着ていた服一式を貸してあげて」


 アキラはすぐに倉庫からテントと、セレナの使い古された服が入った麻袋を取り出し、セレナに手渡した。その手際の良さにラピスは感心した。


「わざわざテントを使うなんて……」アキラは小声で呟いた。


「黙れ、ロリコン!」ラピスが即座に怒鳴る。鋭い声に、アキラは肩をすくめた。普段冷静な彼女だが、意外と沸点が低いことがわかる。


 セレナは、動揺する幼いノクスを優しく導き、テントに連れて行き、そっと着替えを手伝い始めた。彼女の手つきは穏やかで、安心感を与える。


 ノクスが着ていたエルフの服はリサイズ機能がなく、セレナは自分が初対面時に着ていたボロボロの服に彼女を着替えさせ、その上に誇りである牙狼族のマントを大切に羽織らせた。


 ノクスの小さな肩にマントがふわりと落ちると、彼女はやっと少しだけ笑顔を見せた。


バトルモード

ステータス

アキラ 魔術師  レベル8

セレナ 魔法剣士 レベル8

ノクス      レベル1





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