第31話 レベルリセット前 ※


「すみません、少し席を外します。意見をまとめてもらえますか?セレナ、行こう」


アキラはセレナを連れて監視小屋に移動し、ラピスを呼んで緊急会議を開いた。


「ラピさん、緊急クエストが出ました。どうすればいいですか?」


「救出クエストです。失敗しても問題ありませんので、気軽に取り組んでください。場所はマップに表示されています」


「アズーリア村の方角ですね。ついでに村の様子も確認しておきたいと思います。村の人たちにはその理由で説明しましょう。ただ、村に向かう途中で危険がないかが気になります」


アキラが少し眉をひそめながら尋ねると、ラピスは慎重に答えた。


「昨日、村を襲ったオーガ4匹はセレナたちが今朝倒しました。本来、アズーリア村に魔物が現れることはありませんが、現状は予測できません。どこにでも危険は潜んでいますから」


「確かに、そうですね」アキラも真剣に頷いた。


「アキラ、強敵との戦いが楽しみ」セレナは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「アキラたちでも、村に着くまでに1日以上かかります。準備をしておいてください。早く着きすぎても仕方がないので、明日の朝に出発するのが良いと思います」


「それでは、留守中の食料を準備しましょう」


「それが良いですね」ラピスも同意した。


「セレナのお昼寝が終わったら、森で食料を集めに行こう。村の人たちは森に入れないからね」


「仕方ない、明日にしよう」セレナは少し残念そうだったが、渋々頷いた。


 アキラは執務室に戻り、村人の代表たちに、明朝から他の村人の捜索を兼ねてアズーリア村の様子を見に行くことを告げた。


「ここは大丈夫でしょうか?」村人たちは、不安そうに声を上げた。


「はい。この周辺と島には結界が張られています。魔物が一匹もいないでしょう?ですから非常に安全です。ただし、この場所から離れたり、森に入ったりしないように

してくださいね。食料も準備しておきます」


「でも、何もせずに待つだけでは……」村人たちは、自分たちがアキラに偵察を任せる一方で、何もできないことに後ろめたさを感じていた。しかし、他に選択肢はなかった。


「それなら、お願いがあります。ギルドホールと私の家の上下水道の整備をお願いできませんか?少しずつでも構いませんので」


「分かりました。それくらいならお安い御用です」村人たちは進んで仕事を引き受けた。


アキラは、彼らに鍬や鋤、その他の農工具のある場所を教えた。



「アキラさん、お願いがあります。私も連れて行ってください」思いつめた表情でノクスが近づいてきた。その後ろにはセレナの姿も見える。


セレナ、ルナ、ノクス、ステラの4人はギルドルームの一部屋でお昼寝をしていたはずだが、セレナが明日出かける話をしたのだろう。


「でも、危険だよ」アキラは、やんわりと断った。

「うん、待ってて」セレナも同じ意見のようだ。

「お願いします。森の調査が私の使命なのです。」ノクスは真剣なまなざしで訴えた。


「調査なら代わりにするよ。何を調べればいいのか教えてくれる?」アキラは、なんとか思い留まらせようと代替案を示した。


「それでは意味がないのです。どうかお願いします」ノクスは深々と頭を下げた。


 アキラがセレナの方を見ると、彼女は「仕方ない」と言いたげに肩をすくめた。


「少し考えさせてくれ」


 アキラはラピスに相談するため、自分の部屋に戻った。


「アキラとパーティを組むと、今のところ敵から先制攻撃を受けません。だから、アキラたちだけで行くのは大きなメリットがあります」


「パーティに入れるのは良いね。それに、コンディション管理もしやすい」


「ただ、気をつけてください。これは重要な編成ルールです。ノクスをパーティに入れると、彼女のレベルが1に下がります」


「え?」


「ですから、本人がレベルを下げたくない場合は、行動を共にしてもパーティには組み込まないでください」


「じゃあ、僕とパーティを組むのは不利じゃない?」


「いえ、レベルが下がるのは最初の1回だけです。そして、セレナは特殊ですが、この世界の住人がレベルを上げるのには通常、数ヶ月、場合によっては数年かかります。アキラたちのように一日で複数のレベルが上がることは、まずありません。しかも、彼らが得る能力やスキルは、アキラたちとは比べ物にならないほど少ないです」


「それなら、僕とパーティを組むことで強くなれるんだね」


「そうです。ただ、アキラがパーティを組めるのは、ガチャから排出されたバトルカードだけですからね」


その時、扉をどんどん叩く音が聞こえた。


「アキラ、まだ? 早く森に行こうよ! 扉が開かないよ」セレナの声が響く。


「え? 鍵なんて掛けてないけど」アキラは答えた。


「この部屋には誰も入れません。静かに待ちなさい、馬鹿狼」ラピスの声がセレナの脳内に響いた。


「下で待ってるね」その声に従い、階段を慌てて降りる大きな音が聞こえた。


「じゃあ、行ってくるよ、ラピさん。また後でね」アキラは扉を開けて出かけた。


「いってらっしゃい、気をつけて」部屋の奥から、黒髪の少女が静かに声をかけた気がした。


※※※


 山吹は次の日、黒神の家を訪れた。彼は眠たそうな顔をして、寝癖もそのままで玄関を開ける。


「どうした? まあ、入れよ!」


「昨日の報告に来たのよ」山吹は、キッチンに向かい、お湯を沸かし始める。


「やっと寝れたところなんだが……暑いからアイスが欲しい……」黒神のリクエストを無視して、彼女はコーヒー豆を挽き始めた。


「兄さんじゃないんだから、砂糖はいらないわね」


「ああ……」と、黒神は諦めたように返事をした。


 リビングに座らされ、無理やり覚醒させられる。これは長い話になる予感がする。翠や碧もこんな感じだったから、なんとなく察した。


「きっと、サンプルCDを渡したのは翠さんね。つまり、時雨は『アルカディア・クロニクル』のテストプレイヤーだったのよ!」山吹は興奮気味に話を続ける。


「なるほど、そういうことか。じゃあ、都市伝説の話は、作り話だな」黒神は、ほっとしたように返事する。


「ええ。でも、なぜ急にテストプレイを終了したの?」


「さあな。それは赤目さんに聞かないと分からないな」


「じゃあ、ゲームは完成してるの?」


「さあな。君のミッションは終了だ。ありがとう」黒神は目を逸らした。彼の性格からして、嘘が得意ではないのは分かる。


 山吹はその態度から察した。


『ゲームは、アルカディア・クロニクルは、完成している』






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