第28話 村人
「アキラ、アキラ、居るのわかる!」
下から聞こえた声の主は、さっき人を救出に向かったはずのセレナだった。
「今、そっちに行くよ」アキラはセレナの声のする一階に向かおうとしたが、階段を上る途中で彼女が目の前に現れた。
セレナはアキラを見ると、嬉しそうに尻尾を振りながら抱きついてきた。
「大鬼をいっぱい倒したんだ。すごいでしょ? 褒めて!」
「うん、知ってるよ。情報が共有されているからね。でも、セレナ、戦うのはダメだって言ったよね?」
「ごめんなさい」セレナは言い訳せず、興味津々で話題を変えた。
「ところで、この建物、何?」
「僕たちの家だよ。セレナとルナの部屋はここだ。」アキラは2階の入り口を指さした。
「自分の部屋があるのは嬉しい! ところで、アキラの部屋はどこ?」
「一番奥だよ」
「じゃあ、セレナとルナはそこで一緒に過ごしてもいいよ」
「ダメに決まっています!」ラピスの声が突然響いた。
何度もセレナがアキラのテントや部屋に入り込もうとするのを影で阻止してきたラピスは、真剣な表情で言った。
「アキラ、時間がありません。次に、ギルドホールを設置しましょう」
「わかった。場所は、まあ、家の向かい側がいいかな」アキラはおおよその場所を決め、設営を念じた。
家の時と同様に、轟音と共に建物が姿を現した。それは二階建てで、中庭のあるロの字型の白い木造建築だった。非常に大きな建物である。
「各ギルドの出先を想定した作りになっています。入ってください!」とラピスが建物の紹介を始めた。
「まずは1階です。村人のための食堂兼酒場、キッチン、ギルド受付カウンター、クエストボードがあります。奥にもいくつか部屋があります。地下には倉庫、武器庫、訓練所があります。2階は宿屋兼宿泊所です」
建物の付属品は、造り付けの机やタンス、ベッド、ランプ、椅子くらいしかない。 ラピスはアキラの家の時と違い、非常にあっさりとした説明で終わった。その間、セレナは興味津々に建物を見回していた。
※
監視小屋を片付けながら橋を渡り、アキラハウスに運び込む作業をしていると、セレナが平原の遥か先を見つめて言った。
「アキラ!人がいっぱいこちらに向かってくるよ、ちょっと見てくる!」そう言うと、セレナはあっという間に駆け出して行った。
アキラはマップ機能で確認したが、北側の平原は未踏破エリアなので映らない。思いついたように監視小屋に戻り、リュックを持って監視塔を登った。
「アキラさん、どうしたんですか?」ラピスは訝しげに尋ねた。
「これで見れるはずだ!」アキラはどこから手に入れたのか、双眼鏡を取り出し、北の平原を覗き込んだ。
「いたよ!村人とセレナがいる。セレナがスライムとかウサギを倒して進んでる!」
どうやら、周囲の魔物を退治しながら安全に進んでいるようだ。
しばらく時間がかかりそうなので、アキラはアキラハウスに戻り、荷物の整理を続けることにした。
「村人が到着したようです。迎えに行きましょう」とラピスが告げたので、アキラは仕事を切り上げ、家の外で迎え入れることにした。
遠くから歩いてくる集団が見える。セレナが先導し、大人、老人、子供の男女8人が疲れ果てた顔でこちらに向かっていた。
やがて家の前に到着し、一団の代表がアキラに声をかけた。
「すみません。遠くからお屋敷が見えたので、歩いてきました。私たちはアズーリア村の住人です。昨日の夜、オーガの群れに襲われ、夢中で逃げていたらいつの間にかこの平原に辿り着いていました」
彼は必死に説明しようとするが、自分でも状況がよくわかっていないようだ。
「そうですか。それは大変でしたね。僕はアキラと言います」
「アキラはこのお屋敷の主人で、すっごく優しいんだよ!食べ物くれるからね!」セレナが適当な紹介をする。
「みんな、逃げるのに必死で、何も持ってきていないんです。食料や休む場所をお借りできませんか?村に戻れたらお返しできると思いますが…それに、ここはどこなんでしょうか?」
代表が困ったように尋ねた。
アキラも自分たちの場所を完全には把握していないため、戸惑った。
「セレナに彼らを監視島の北の船着場に案内させましょう。あそこなら安全です。その間に、地理を説明します」とラピスがアキラに助言した。
「皆さん、話は我が家でしましょう。その前に、近くに綺麗で安全な水場があるので、セレナに案内させます」
「ありがとうございます。セレナさんがいれば安心です」
いつの間にか、セレナは村人たちの信頼をすっかり得ている。アキラはセレナに指示を出し、彼女は村人たちを水場へと誘導していった。
アキラはラピスのレクチャーを受けながらマップ機能を表示させた。未踏破エリアなので、イメージ表示にはなってしまうが。
「つまり、アズーリア村はここから西北の方角にあり、深い魔物の森を超えた先の街道沿いにある小さな村。果樹栽培で生計を立てていて、人口は20人ほど。ウエストグレン町と街道で繋がっている、というわけですね」
「その通りです。そして、この家の周りに広がる森はすべて魔物の森になります。ここは川を渡った南西平原の内陸です」
「村に帰すのは無理そうですか?」
「不可能ではありませんが、命の保証はできません。距離がある上、魔物の森を横断しなければなりませんから。彼らは戦えませんし」
「じゃあ、僕たちが護衛するのは?」
「今のレベルで彼らを守りながら進むのは非常に難しいです」
「アズーリア村が襲われた理由はなんだろう?ガチャとかが関係してるの?」アキラは疑問を口にした。
「それは全く関係ありません。むしろ逆です。詳しくは言えませんが、ガチャは命を救っているんですよ」
「そうか、安心した」アキラは本心から安堵し、微笑んだ。その笑顔を見たラピスは、心の中でため息をついた。このお人好しには本当に困ったものだ、と。
「それと、アズーリア村が襲われた理由は不明ですが、明らかに魔物の生息エリアが変わってきています。これが原因で、今まで安全だった場所にも魔物が出現するようになったのでしょう。アキラさんたちは、もっと早く強くならないといけませんね。」
ラピスの言葉が終わると同時に、新たな訪問者が現れた。
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