第27話 隻眼のオーガ

 

 セレナは向かってくるオーガたちに狙いを定め、遠くから雷剣を放った。瞬間、オーガたちの皮膚が光り、空気の膜を作り出して雷魔法を弾き返す。魔法防御だ。


「やはりな」遠距離からの魔法攻撃はあまり効果がない。まだ、スキルレベルが低いこともある。治癒魔法を使えることは、ルナが負わせた傷が治る様子で確認済みだ。


「豚猪どもと同じか! ならば、切り刻むだけだ!」セレナはマントを翻し、近くの大棍棒を持つオーガに一気に距離を詰めた。


 逆上したオーガが咆哮を上げ、棍棒を正面から振り上げてくる。オークキングとの戦いを思い起こさせる場面だが、セレナの動きは別次元にある。


 オーガが棍棒を振り下ろす前には、セレナはすでに逆袈裟斬りでその体を切り裂き、背後に回り込んでいた。


「遅い!こっちだ!」セレナは煽るように叫ぶ。


 オーガは慌てて振り向き、棍棒を横薙ぎに振ってくるが、セレナは反対側に回り込み、今度は横一文字に斬りつけながら正面に戻る。


 その剣はオーガの硬い皮膚だけでなく、その肉体までも切り裂き、緑の血が噴き出した。


 セレナのレベルアップにより、力が大きく上昇しているようだ。オーガの体は光りながら、傷が少しずつ塞がっていくが、傷が深いため治癒は遅い。


「グオオオオッ!」オーガは低いうなり声を上げ、他のオーガを呼び寄せる。他の3匹のオーガが駆け寄ってくる。


「疾風剣!」セレナは剣の速さと力を増す新たなスキルを発動し、再び大棍棒のオーガに斬りかかる。


 今度は逆方向に、左切上げの風を纏った剣でさらに速く、強力な一撃を繰り出し、再び背後を取る。


 オーガは耐えきれず、棍棒を支えに両膝を地面に着けた。


「終わりだ! 疾風剣!」次の瞬間、オーガの首は天を舞った。あっと言うまの出来事であった。


 目を見開いた大首は地面に着地し、そのまま転がり体は前に倒れ伏した。


 3匹のオーガは驚いた表情を浮かべ、警戒しながらセレナを遠巻きに囲む。


「ルナ、スキルを使え!」


「ワオオオーン!」と狼が同意の遠吠えを上げ、その体が光り出す。傷が跡形もなく消えていった。


「こら、ルナ! セルフヒールじゃない!」珍しくセレナが怒る。


「ワオオオーン!」と再び吠えたルナの目が楽しげに光り、その爪が凶暴な形に変わっていた。


「牙狼の爪か! よし、ルナ、いくよ!」言うが早いか、セレナは両手棍棒のオーガに、ルナは盾を持つオーガに突進する。


 ルナは目の前の盾を牙狼の爪で粉砕し、続けて棍棒も破壊する。牙狼の爪は、アダマンタイトですらも傷つける硬さを持つ。


 無装備となって慌てふためくオーガに、ルナは容赦なく飛びかかり、その凶暴な爪で切り裂いていく。


 左、右、左、右と交互に振り下ろされる爪に、オーガはなす術もなく、その場に倒れた。


「負けてられない!」セレナはルナの戦いを横目に見ながら、オーガが振り下ろす両手棍棒を長剣と短剣で受け止める。


 オーガに力で負けることはない。


「破壊剣!」セレナが叫ぶと、牙狼の長短剣が異様な形に変化し、オーガの両手棍棒を粉々に砕く。そのまま無防備となったオーガに両手の剣でとどめを刺した。


「ルナ、私の剣を見た?」セレナは短剣を鞘に収め、長剣を両手で持ちながら、倒れたオーガを見下ろした。



 戦場となった森の入り口には、3匹の大鬼の無惨な死体が転がっている。隻眼のオーガは茫然自失だった。


 こんなに強い敵がいるとは聞いていない。思い返せば、襲撃の失敗や村人が忽然と消えたこと、昨日からおかしかったのだ。いや、違う。もっと前からだ。


 数あるオーガの部隊の中で、隻眼のオーガたちが人間の村を襲撃するというおいしい任務に指名されるはずがないのだ、序列的に。嵌めたのは古老のオーガ、兄者たちかもしれない。


 冷静に状況を考える。速さでは圧倒的に劣っている。背を向けて逃げることは死を意味する。隻眼のオーガは、立ち向かう覚悟を決めた。



「まずい……」セレナは戦場の光景を見て焦っていた。アキラの指示は、救出のみだった。それに、スキルを2つも取ってしまった。


「スキルを取るときは相談してくれ」と彼に言われていたことを思い出す。

 

雷魔法を放つ雷剣、さらに剣に雷を纏わせる雷撃剣、風魔法で剣の速度と力を増す疾風剣、そして剣の強度と形を変える破壊剣。


 全て剣術系のスキルだ。戦いの途中、またあの女があれこれ説明してきたので、ついスキルを取得してしまったのだ。


「ラビスめ……」誰にも聞こえないほど小さな声でつぶやくセレナ。


「ガオーン!」ルナの鳴き声が響いた。開戦の合図だ。



 隻眼のオーガとセレナは正面で対峙していた。


「ルナ、下がっていろ!」セレナはルナに距離を取るよう指示を出す。


1対1であれば勝機はある。大鬼は迷うことなく剣に炎を纏わせ、今まで見せたことのない速さでセレナに襲いかかり、剣を振り下ろす。セレナも上段で迎え撃つ。


「疾風剣、破壊剣、雷剣、雷撃剣!」4種のスキルを連続で発動する。


 疾風の力で敵の剣の炎を吹き消し、変形した牙狼の剣でオーガの剣を折り、その剣に纏わせた雷で隻眼のオーガを真っ二つに切り裂く。


オーガを貫いた剣は森に魔法の痕跡を残すが、反射や暴発は起きなかった。


「成功した!」セレナは笑みを浮かべた。最初からこの一撃で決めるつもりだったのだ。


 ルナを下がらせたのは巻き添えを避けるため、そして自分が気絶した場合に救出してもらうためだった。


「ただのバトルジャンキーですね」ラビスの声が突然聞こえてきた。


「違う、村を襲う奴らは許さない!」


「怪我がなくて何よりです。アキラに怒られますからね。エルフたちに休養を取らせ、ゆっくりゆっくり戻ってきてください。それでは」


 ラビスの声はそう告げると、気配が消えた。


「そうだ、ノクスたちがいる。行こう、ルナ!」セレナは森の入り口へと向かった。


 

 セレナは、オーガを3匹倒しました。

 セレナは、オーガウオーリアーを1匹倒しました。

 経験値 100P獲得しました。600ゴールドを獲得しました。

ゴールド: 4,810 保護時間: 6日


 森を抜けると、遠くに地べたにしゃがみ込んでいるノクスたちの姿が見えた。


 「おーい!」「ワオーン!」セレナとルナは元気よく手を振り、大声で呼びかけた。

 

 ノクスたちはその声に反応して立ち上がり、ノクスが手を振り返しながら尋ねる。


「お怪我はありませんか? オーガはどこに?」


「始末したよ。もう大丈夫だよ」セレナが答えると、ノクスは安堵したように再び座り込んだ。


「ところで、この子は目が覚めたんだね。足の具合はどう?」セレナは駆け寄り、小さな女の子に優しく話しかけた。


「うん、もう痛くない」女の子は答えたが、その声には怯えが混じっている。


 彼女の服がオーガの返り血で汚れているせいだろう。しかし、セレナはその様子を気にせずに、さらに質問を続ける。


「名前は?」


「ステラ……」小さな声で答える幼女。セレナはさらに何かを尋ねようとしたが、その瞬間、川向こうの平原の空気が異様に変わっていることに気づいた。


「なんだ、あれは?」セレナは目を細めながら呟く。


「ルナ、彼女たちを守って。後からおいで!」そう言うと、セレナは監視塔の川向こうに異様な建物を見つけ、駆け出した。





















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