第25話 アキラハウス


「やぁ!」鋭い剣の音と掛け声がテントの外から響き、アキラは目を覚ました。


「おはようございます、アキラさん」


「おはよう、ラピさん」ラピスの声は明るく、元気が伝わってくる。

 

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 アキラは小屋を出て、朝の冷たい空気を胸いっぱいに吸い込むと、セレナに挨拶した。


「おはよう、セレナ!」


「おはよう、アキラ!」「ワオーン!」


 セレナは汗で濡れた下着姿のまま、剣を振る手を止め、アキラに微笑みかけた。以前より引き締まった彼女の体つきに気づき、アキラの心が少し高鳴る。しかし、その感情を隠すように、急いで洗面所へと足を向けた。


 朝食には、優しい味わいの魚のスープと焼いたパンが並べられていた。食べ終えた頃、ルナが突然立ち上がり、大きな声で吠えた。


「アキラ、人が魔物に追われている!」


「ルナ、先に行け!装備を整えてすぐに向かう!」セレナは、森の異変を並外れた聴覚で察知し、即座に指示を出した。彼女は一瞬で部屋に戻り、素早く着替えを済ませる。


「リュックは持ったか?無理はするな。バトルは禁止だ、スキル取得も控えるように」アキラは、彼女が無理をしないよう真剣に声をかけた。


「わかった」セレナは短く頷くと、鋭い決意を浮かべて扉を開け、飛び出していった。


「じゃあ、俺も……」アキラは慌てて立ち上がろうとしたが、


「その必要はありません。アキラさんには他にやるべきことがあります」ラピスから、止めが入る。


「本当に大丈夫か?俺に何をしろと?」


「はい、本当に大丈夫です。マップ機能を確認してください」


 昨日の行動で、魔物の森の一部が地図に表示されている。赤くマッピングされた魔物が点在し、ルナとセレナは白い点として、森の中を目にも止まらぬ速さで移動しているのが見える。


 レベルアップしたマップ機能により、地図には魔物や仲間のレベルが視覚的に分かりやすく表示されている。


 森の中に強力な魔物は見当たらないようだ。もし危険な状況になれば、ラピスが即座に警告してくれるはずだ。



「それで、アキラさんがやるべきことは、村長の家の設置です。村長の家は移設が可能ですが、まずは設営が必要です」


「村長の家って、それほど重要なものなのか。どこに設営するんだ?」


「川向こうの平原が広いので、そちらにしましょう。場所は後からでも移動できますから、今はそちらへ向かいましょう」


 アキラは平原への橋を渡り、少し内陸に入ると周囲を見渡した。マップ機能を使って周囲の魔物の反応を確認するが、どこにも魔物はいなかった。水路の跡も見つける。


「魔物もいないし、川からも近い。この場所でどうかな?」


「いいですね」


「じゃあ、ここにしよう」アキラは倉庫から村長の家を取り出した。


 ごごごごご、と轟音を立てながら、建物のシルエットがぼんやりと地中から浮かび上がる。段々と実像を帯び、位置を確かめるように二、三度揺れた後、建物はしっかりと佇み、こちらを静かに見下ろした。


 その家は二階建てで、壮厳な木造の立派な建物だった。アキラはその光景に驚嘆した。


「この建物は?」


「はい、アキラさんの家です。それでは、アキラハウスをご案内しますね。」ラピスがそう言うと、正面の扉が自然と左右に開いた。


「どうぞ、我らの新しい棲家へ。」その不気味さと暗さにアキラは少し躊躇した。


「暗いですね。窓を開けますか、それとも灯りを点けますか?」


「窓を全部開けてください。」アキラが言うや否や、全ての窓から防護窓と網戸が滑り落ち、窓が開かれた。一瞬で部屋の空気が変わり、優しい日の光が差し込み、風が心地よく踊る。埃が舞い上がった。


「掃除しないといけないみたいだな。」


「ははは、そうですね。」ラピスは笑ってごまかした。


「それにしても、ここに人の足跡のようなものが?」アキラが言った瞬間、一際強い風が窓から吹き込み、足跡は見えなくなった。


「座敷童やブラウニーみたいなものかもしれません。気にしないでください。さて、この建物は地上2階、地下1階の構造です。まずは1階を案内しますね。リビング、ダイニングキッチン、会議室付き執務室、トイレ、シャワーなど水回りの設備がありますが、水回りの工事はこれからです。」


ラピスはまるで自分の家のように、次々と説明を続けた。


「何か質問はありますか?」


「いや、すごいね。ただの村長の家なのに。」


「ただの村長の家なんて、とんでもない。レベルが上がると拡張可能なんですよ。それでは次に、地下を案内します。地下と2階は、執務室脇の廊下階段から行けます。地下には普通の倉庫と特別な倉庫があります」


「特別な倉庫って、真ん中の鋼鉄の特殊な紋様の扉の先にあるやつ?」左側の壁には扉のデザインがあるだけで、扉そのものはなかった。


「そうです。ここはアキラさん専用の倉庫です。アキラさんの個人ストレージと繋がっており、これからは出し入れが可能です。でも、アキラさんしか使えません」


「そして、どんな魔物が来ても、この扉を開けることはできません。ここは宝物庫にもなりますので安心です。後でゆっくり見てください」ラピスは得意げに飛び跳ねながら、今度は階段を上がっていくようにマーカーが移動した。


「では、最後に2階ですが、ここはアキラさんのパーティメンバーか、許可された者しか入れません。安心設計ですよ。最奥の部屋がアキラさんの部屋です」


 廊下の両側に部屋が並び、突き当たりには重厚な扉があった。そこがアキラの部屋だろう。


「この入口近くの部屋、ルームナンバーのネームプレートに『セレナ』と『ルナ』って書かれているんだけど?」


「ええ、狼娘たちの部屋です。門番には最適でしょう。部屋割りはすでに決まっていますので、煩わせることはありませんよ。ふふふ。」


 ラピスの含み笑いが少し不気味だ。彼女に手を引かれるようにして、アキラは扉の前に立った。


 ぎぎぎぎと、重厚な扉が開かれる。部屋の中央には幾何学模様のパステルカラーのラグが掛けられたキングサイズのベッドが置かれており、それが目に飛び込んできた。部屋には机やチェアが配置されていたが、壁には数枚の小さな絵が掛けられているのが印象的だった。


 アキラは、同じように、部屋に壁の絵を見つめる少女の幻影を見つけた。長髪の黒髪で白い肌をした少女が描かれており、涼しげな花柄のロングスカートに麦わら帽子を被っていた。まるで夏の海にバカンスにでも行くような感じだった。


「ラピさん?」


 絵を眺めていた少女の幻影が振り返ろうとした瞬間、階下から音がした。


「ちっ、想定より早い…」ラピスの声が微かに聞こえた。


 その瞬間、シルエットは部屋の奥にある屋根裏に続くとても幅の狭い階段を駆け上がり、途中で姿を消してしまった。


※ 


 セレナは素早く戦闘服に着替えると、片手剣と短剣を腰に差し、靴を履きながら走り出した。足輪が光り、マントを靡かせながら、飛ぶような速度で野原を駆け抜ける。


「凄いな」と、纏っている服が軽やかで、身体に力を与えていることを実感した。


 ドカンと大きな音が響き、なだらかな山の裾野に広がる森の木々が、雪崩のように勢いよく倒れていく。倒木の原因は、棍棒を手にした巨体の魔物たちだ。


 その前方、倒れてくる木々を巧みに避けながら、魔物たちから逃げる二つの影が見える。そして、その進路を塞ぐようにして立つ、セレナよりやや小柄な影が一つ。ルナが一足早く戦場に到着している。


「私が倒す。」と、セレナは決意を胸に、さらに速度を上げた。


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