第23話 湖と祠 ※
「アキラ、綺麗な湖があったよ」それは、ラピスが決めた行動範囲の境界線の向こう側にあった。セレナは、その湖の近くまで行って戻ってきた。
「見てみたいな。良いですか、ラピさん?」と、アキラはラピスに一応許可を求める。
「そうですね。問題ないですよ」ラピスが答えた。
空を眺めることに飽きたアキラと、目的を失ったセレナとルナは、気分転換に湖まで散策することに決めた。
ルナが先導し、森の中を進んでいく。いつものように、入り口ではセレナが野菜やハーブを採取し、根からしっかりと取った野菜はアキラの倉庫に保管するため、アキラに渡される。
森の奥に進むと、セレナはきのこやフルーツなどの食材を見つけ、リュックに詰めていく。彼女のおかげで、今日の夕飯も期待できそうだ。
森の奥では、木々の冠に遮られた光がほとんど届かず、道は次第に暗くなり、起伏が激しくなる。
急斜面や岩場が現れ、風通しが悪く、じめじめとした環境の中、アキラは汗をかきながら、ルナに導かれて問題なく進んでいく。
突然、光が差し込み、澄んだ湖が目の前に広がった。
「ここには魔物除けと浄化の石碑が鎮められています。弱いですが癒し水にもなります。これは秘密ですよ」と、ラピスがアキラにだけ話した。
湖は、時が止まったような静寂に包まれている。
次の瞬間、「ざぶん、ざぶん」と大きな音が二つ響いた。セレナとルナが転落したのだろうか?彼女たちの姿が見えない。
「セレナ、ルナ、大丈夫か?」アキラが水面全体を見渡すと、湖の中心で水しぶきが上がり、二つの影が噴き出した。彼女たちは潜って遊んでいたのだ。
「大丈夫、泳ぎ得意」と、浮き上がってきたセレナは全裸だった。アキラは思わず、視線を逸らすことなく見てしまった。
「こら、アキラ!目を閉じて!」「セレナ、服を着なさい!」耳を劈くようなラピスの怒った声が、森の静寂を切り裂いた。
※
その後、アキラも泳ぎ、自然を満喫した。その間、セレナとルナは昼寝をしていた。
「さて、帰ろうか」全員、気持ちが戦闘モードにならなかったため、島に戻ることにした。
特にセレナは、ある程度強い相手でないと楽しめないようで、経験値稼ぎをする気がないらしい。
「帰ったら、菜園づくりと料理の下ごしらえをするわ。ルナ、土を耕して!」
「ワオーン……」ルナは嫌そうに返事をする。
アキラは彼女たちと別れ、一人で島の探索をすることにした。この島には、きっと何か秘密があるはずだ。
南側には監視塔やキャンプ跡地、船着場があるが、今回は北側を探索することに決めた。
北側は南側よりも草木が深く茂っているが、かつて歩道だった場所は草が短い。
最初は物置小屋から持ち出した鎌で手作業で草を刈りながら進んでいたが、途中で面倒になり、火魔法で草を焼き払い、水魔法で消火しながら進んだ。
北の端にたどり着くと、崖があり、そこに河原へ続く階段を見つけた。河原には、見覚えのある顔があった。
北の河原にも船着場と納屋があり、こちらは軍事用ではなく、漁師用らしい。
「なんでここにいるの?」アキラは川で投網をしているセレナとルナに声をかけた。
「あー、アキラに見つかっちゃった。今日の夕飯の魚を捕まえてたの。小さい魚だけど……」セレナは少し残念そうに、びくの中を見せてくれた。
投網もびくも、納屋に仕舞われていたもののようだ。どうやらアキラを驚かせたかったらしい。
結局、彼も投網を楽しみ、夕暮れのひとときを過ごした。
「捕りすぎるのは良くない。」ということで、今日食べる分以外の魚は逃がした。
セレナたちは、既に島の隅々まで駆け回っていたらしい。
セレナたちと一緒に監視小屋へ帰る途中、祠を見つけた。祠の中には道祖神のように二つの神像が寄り添っており、女性の神が祀られている。花束が捧げられていた。
「セレナ、この花束を捧げたの?二柱の神様でいいのかな?」
「うん、お礼だよ。いろいろ貰ったからね。何言ってるの?エリス神とアイリス神を知らないなんて……。まあ、つまり神様だよ」
セレナは何かを説明しようとしたが、途中でやめた。
その後、アキラが質問しても、セレナはうまくはぐらかして答えなかった。
何故か、森の中の湖と同じ雰囲気が、その祠を中心に醸し出されていた。
※※
ラピスはオークキングとの戦いを観戦し、違和感に気付いた。オークたちが明らかに強すぎるのだ。
ランダムに割り振られているはずの数値が設定値を超えており、獲得可能なスキルやその数も異常だった。
そういえば、キラービークイーンの時も同じだった。誰かの意図的な介入があるのだろうか?あの男の仕業か。だとしたら狙いは?
彼女はアキラを守らなければいけない。
ゲームを進めるための堅実なプランを捨て、積極的なプランに変更する決断をした。リスクを取らないことが最大のリスクとなることを避けなければならない。
ラピスが使えるリソースは限られている。彼女は、次のカードを切った。
※※※
山吹は、結局どう切り出して良いかわからなかった。
「お風呂は順番に入りましょう。お風呂は沸かしてあるわ」時雨に案内された風呂は大きかった。
「凄い!旅館みたいね。一緒に入ろうよ。」桜が誘うが、勿論お断りだ。
「一番風呂は桜さんがどうぞ!タオルや化粧水はこちらを。お風呂上がりのアイスもあるのよ」
「是非、結婚してほしい。山吹、ごめん」
「はいはい」桜を脱衣室に押し込むと、時雨と二人になり、部屋は急に静寂に包まれた。
互いに言葉を発することなく、微妙な緊張が漂い、静かに張り詰めた空気が二人の間に広がっていった。
「私の部屋でも見てみない?」その空気に負けたかのように、時雨は言葉を発したが、それは最初から考えていたのだろう。
「是非、見たい」山吹は、普通の女子大生の部屋に興味があった。
「ふふふ、こっちよ」彼女は、2階の突き当たりにある自分の部屋に招き入れた。
「へ?」山吹は思わず変な声をあげてしまった。その部屋は、おしゃれな空間とは程遠く、まるで映画に出てくるハッカーの部屋のようだった。
どちらかといえば、むさ苦しい黒神の部屋の方が、意識高い系の女の子の部屋だ。
「赤目さんの部屋の写真を見たことがあるの。こんな感じでしょ?」
「まあ、あの人は本物だからね」
「そうそう、これ」この部屋唯一の装飾、ピクチャーフレームの中に入ったゲームCDのジャケットを指差した。
世界に100枚しか存在しない。もう捨てられて、数枚しか残っていないだろう。
『アルカディア・クロニクル』のサンプルCDのジャケットだった。
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