アルカディア・クロニクル

第21話 オーク王 後編

「ウインドブラスト！」アキラは両手を構え、風の魔法を放った。倒木は風の勢いで押し戻され、枝葉がオークたちに直撃して視界を奪った。

　アキラはさらに、炎魔法を二匹のオークに向けて放つ。オークたちは魔法防御を発動し、炎を防ぎながらも、アキラを睨みつけてその実力を測っていた。

　その間に、セレナは自由になり、ルナも復活して体力が回復した。アキラは倉庫からPSR初期衣装の中から剣を取り出し、セレナに渡す。

「遅くなってすまない。お前の武器だ！これなら、雷剣にも耐えられるはずだ」そう言いながら、アキラは自分が渡した武器の立派さに思わず感心した。

「これは…」セレナは受け取ると、まじまじと剣を眺めた。鞘と柄は彼女の髪と同じ灰色で、金色の牙狼族の紋章が刻まれている。

　刀を抜くと刀身は漆黒だが、両手で持つと月の光を浴びたように輝き始めた。

「ワオォーン！ワオォーン！」ルナは歓喜の声をあげ、牙狼の体も刀身と同じように輝き出した。餓狼の剣がルナに力を与えているように見える。

「それでは終わらせよう」アキラは言い、両手で炎と風の複合魔法を展開して放った。オークたちは再び魔法防御を発動し、狙いが魔術師だと判断して棍棒を振り回しながら突っ込んできた。

　アキラは素早く戦場から離脱し、距離を取った。一方で、セレナとルナは迎撃態勢を整えた。

　オークキング:HP↑180/320 MP 35/80 （魔法防壁、事前治癒、狂気の力）

　オークナイト:HP↑ 72/192 MP 18/48 （魔法防壁、自然治癒）

アキラは二度目の鑑定を行った。結果、推測が正しいことが確認できた。

　オークたちの魔法防御は、魔法を無効化するのではなく、半減させる効果であり、しかも自動発動でMPを消費してしまう。

　女王蜂との戦いで無駄弾を撃たされ、MP切れを起こしそうになった彼は、今度は自分の番だと微笑んだ。

　こちらは、山ほどポーションがあるのだから。

「喰らえ！」セレナはオークキングの攻撃を華麗にすり抜け、刀を振るう。彼女の刀がオークの体を高速で切り刻む。

　さっきまでの短剣よりも重いはずの剣だが、その速度は明らかに速く、深い傷を巨体に次々と負わせていく。

　ルナもオーク相手に、さらに速く動き、深い傷を与えていた。堪らず、オークたちはセルフヒールを発動させる。

　その場には静かな緊張が走った。しかし、セレナはさっきの動揺した彼女とは別人のように、力強く声を発した。

「ならば、さらに切るだけ！」その言葉と決意を伴い、彼女の刃は再び敵を襲う。彼女たちの攻撃は容赦なく、オークたちの体に新たな傷が次々と刻まれていく。

　しかし、その傷は瞬く間に癒えていく。それでも彼女たちは攻撃を止めず、攻撃を続ける。セルフヒールの連続発動にもかかわらず、それ以上の速度でオークたちの体力が減っていく……

170、160、150、140、130、120、110、100、90、、、、、

　次第に恐怖に駆られたオークたちは、退却を始めた。一目散に逃げるオークたちの背中を見つつ、セレナとルナはオークキングに狙いを定め、執拗に追いかけていく。

　アキラは、まるで戦況を予測しているかのように、オークの力によって荒れ果てた小高い場所で準備を整えていた。

「もう体力も魔力も残っていないだろう…」自信を持って呟くと、彼は両手を高く掲げて魔力を集中させた。

　掌から漏れ始めた赤い光は、次第に強力な火球へと形を変えていく。

「ファイヤーボール！」声と共に、巨大な火の玉が二発発射された。

　火球は一直線にオークナイトへと向かった。オークは反射的に魔法防御を展開したが、アキラの狙いは正確だった。

　1発目は魔法防御を防いだものの、MPが尽き、2発目はオークの体力を大きく削った。

　3発目の火球が直撃した瞬間、オークナイトは黒い燃え滓となって地面に崩れ落ちた。アキラは深呼吸をし、セレナの戦闘を見守った。

　オークキングは巨大な体を揺らしながらも、必死に逃げようとしていた。

　しかし、セレナとルナの速度はそれを上回り、次第に距離を詰めていく。大王の背中に迫る影は、まるで悪夢のようだった。

「忌々しい。人についた奴らに負けるわけにはいかぬ」南西の森の王として狼を北の奥地に駆逐した自分の情けない姿が許せなかった。

「やはり許せん」森の奥に逃げ込む前に、狼娘だけでも屠ることに決めたオークキングは振り返り、仁王立ちになった。

　最後のMPを使い「狂気の力」を発動させる。HPが減少するほど、狂気の力は強くなるスキルだ。

　オークの思考は、妄想とも現実ともつかぬ残忍な狂気に変わり、体力と力、魔法防御に自然治癒、逆転可能な脅威の力を手に入れた今、負けるわけがないと確信していた。

「これまでの戦いなど無かったことにしてやる」そして、狼娘の悲惨な最後を魔術師に見せつけることを決意した。

　オークキングの狂気の力の暴風は、アキラの両手から放たれたレベルの上がった風魔法によって相殺された。オークキングを纏っていた暴風はあえなく消えた。

　しかし、棍棒を旋回させると、少しずつ風が再び巻き起こった。敵の魔力は尽きているが、炎魔法が有効でも、風で吹き消されるだろうとアキラは判断した。

「ルナは後ろに回れ」とアキラは目で合図を送った。小狼は風に飛ばされないよう必死に踏ん張り、オークキングを挟み込む位置に移動した。

「私が決める」とセレナは剣を高く掲げ、雷剣を発動させたまま剣を持ち続けた。彼女は、オークキングの起こした暴風を牙狼の剣で切り進む。そのたびに風が左右に流れ、森の木々が大きく揺れる。

　オークキングは、セレナが直接の攻撃範囲に入ったのを見て、棍棒を大きく振りかぶり、彼女を叩きつけようとした。

「稲妻斬り」セレナは牙狼の剣に新たなスキルを発動させ、雷を纏わせたままの剣で上段から真向斬りを繰り出した。

「これでも喰らえ！」

　棍棒もオークキングも真っ二つに切り裂かれ、雷撃の爆発が起こった。

　本来は、突き抜けるはずの雷の力が、オークキングの起こした暴風でその場に止まってしまって、セレナとルナはその爆風に巻き込まれ、再び気を失った。