第17話 魔物の森 ※


  アキラは、7日目の朝を迎えた。建物の中で眠ったことで、いつもより熟睡できたように感じる。彼は雨戸を開け、差し込む太陽の光を取り込んだ。空は雲一つない快晴だった。


「今日で1週間か」アキラは小さく呟いた。日記をつけようかと考え、後で書斎で筆記用具を探すことにした。


目の前の画面には「ログインしました」と表示されているが、今日はログインボーナスだけで、特別なギフトはなかった。少し落胆しつつも、「ラピさん、おはよう。」と声をかける。


すぐに眠たそうな声で「おはようございます、アキラさん。早いですね」と返事が返ってくる。アキラはラピスの存在をほぼ確信していた。


「今日は森に行こうと思うんだけど、大丈夫かな?」アキラは昨日から考えていたことを相談する。


「はい、でも入り口付近だけにしてください。奥に行くのはまだ危険です」


 ラピスは了解と同時に警告を出した。


「ありがとう」アキラはそう言い、朝のルーチンに取り掛かった。


上下水道に詰まった塵を取り除き、流れを良くした後、冷水シャワーを浴びて一息つく。


ついでに洗濯も始める。屋敷には山ほど衣服が残されていて、傷んでいるものも多いが、使えそうなものを選びつつ洗濯を進めた。


寝具も使えそうなものを洗い、今夜からは快適に眠れそうだ。


乾燥室から取り出した上着と靴を身に着け、裏庭の物干しに衣類をかけていく。作業を終えた頃、セレナの声が聞こえた。


「アキラ、朝ごはんできたよ!」


朝食は、きのこのスープ、パン、干し肉、フルーツだ。兎の肉は昨日で無くなったが、これも十分だ。アキラとセレナは朝食を兼ねて作戦会議を食堂で始めた。


ステータスを確認すると、アキラはあと5ポイント、セレナは9ポイントでレベルアップできることが分かった。昨日、森を越えてから魔物に遭遇せず、経験値が稼げなかったのが響いていた。


次にミッションを確認する。日々のミッションは順調だが、パンがもうすぐ無くなるため、報酬のことはセレナに黙っておくことにした。


特別ミッションではポーションを大量に手に入れた。これからの冒険に備え、大切に使うことにした。


ウィークリーミッション


 1.デイリーミッション達成 6/7 150ジェム 

 2.未踏エリア7箇所開放 6/7 1,000G

 3.魔物30匹倒す 30/30 パン/干し肉×10 ◯  4.全て達成する 300ジェム


「今日は川を渡って森に行こうと思う」


 アキラは意を決して話した。


「そう言うと思った。アキラが言うなら怒られないし、楽しみ!」


 セレナとルナは家を飛び出して行った。


アキラは地下室に行き、ノコギリやナタを探したが見つからなかった。


「昨日、確かにあったはずなのに」


 アキラは諦め、森への橋の入り口に向かう。マップ機能で確認すると、セレナたちが待っていたからだ。


「あれ?」森への橋は途中で無くなっているはずなのに、その先に大木が横たわっている。


 セレナがこの状況に反応しないのはおかしい。アキラは彼女の顔を覗き込んだ。


「アキラが渡れるように橋を作った!」


 セレナは胸を張った。


セレナの話では、昨夜、部屋に戻った後に地下室から道具を持ち出し、大木を切って橋をかけたらしい。


 しかし、その後、森に入ろうとしたところラピスに叱られたとのことだ。


「狼族は夜でもよく見えるから。それに力持ち、大木も運べる。褒めて!」


 セレナは誇らしげに言った。


「わかったよ。ありがとう」


 アキラは微笑んだ。独断行動だが、感謝は忘れない。


「アキラ、セレナに甘いわね」ラピスに指摘された。


「ラピさんもありがとう」ラピスもセレナを見張っていてくれたのだろう。微風がそっと吹き、彼女が微笑んだ気がした。



 川を渡ると、少しの平原があり、すぐに森が広がっている。魔物の森は入り口こそ光が通り明るいが、少し中に入ると薄暗さを感じる。足元には苔や木の根が浮き出ており、歩きにくい。


ルナが誘導してくれるおかげで、比較的歩きやすい場所を進んでいける。ルナには目的地があるようだ。森の奥に行くのではなく、合流した川の方向に進んでいる。


兎の魔物ばかりに出会うが、まさかルナの目的は……。各々が3匹ずつ倒した。アキラは火魔法を使うので、食用にはできないが。


「アキラ、その木に蛇!」セレナが指差した場所に、アキラは瞬時に火魔法を放つ。


 落ちてくる蛇が何もできないうちに、ルナが飛びかかり、四足で地面に押さえつけると、セレナがトドメを刺した。一瞬で迷彩も見破られ、動けず毒も封じられた。


ウッドサーペントを1匹倒した。

経験値 2p(セレナ5p)を獲得しました。

25ゴールドを獲得しました。 アキラのレベルが、6になりました。 セレナのレベルが、5になりました。


ステータスにルナが見える


ルナ

HP: 28/28

MP: 10/10

跳躍 1/10


ゴールド: 935

保護時間: 8日


「ラピさん、ルナのステータスが見えます」


「セレナの親愛度がMAXになったので、見えるようになりました。彼女は狼娘の眷属ですからね。ルナのレベルはセレナの経験値に連動しています。仕様的にはイマイチですね」


「仕様的?」


ラピスは意気揚々に促した。


「いえ、こちらの話です。それよりも、レベルを上げましょう!魔物はたくさんいますよ」


※※※


 山吹はバイクに跨り、時雨の家へ向かっていた。女子会のための集まりだ。もう一人の友人とは現地で合流することにしている。


「え?一緒に行こうよ。後ろに乗せてってもいいじゃん」


「ごめん、寄って行くところがある。それに、免許取ったばかりなんだ」


「そっか、じゃあまた後で」


 友人はあっさり電話を切った。外見は人懐っこいが、実際は淡々としている。


この友人とは田舎の予備校で知り合い、同じ大学に進学した腐れ縁だ。ロジカルな思考を持つ彼女が「違和感」に気づくかもしれないと期待していた。


「用事」というのは、ある女の子が失踪した病院に向かうことだ。駅から離れた不便な場所なので、山吹はバイクを選んだ。失踪した子の親友として心配しているフリをしている。


 病院に到着し、ナースセンターに向かう。顔なじみの看護師に声をかけた。


「パソコンと手紙はどうなりましたか?」


「お母さんが来て、持ち帰りました。退院手続きも済んでいます」


「でも、あの子は重病だったんですよね?」


「そうなんです。不思議ですが……」


「警察には失踪届は?」


「多分、出してないと思います」


 なぜ失踪届を出さないのか。疑問が心に渦巻く。


「そのお母さんの連絡先を教えてもらえませんか?」


「個人情報なので……」看護師は申し訳なさそうに断った。


 彼女が忙しそうに去るのを見送り、山吹は小さくため息をつく。病院を後にし、バイクに戻ってヘルメットをかぶる。


 エンジンをかけると、静寂を破る音が響いた。

 

 退院したという女の子の姿が現実に感じられない。考えるほど疑念が募り、ハンドルを握りしめた。


 再びバイクを発進させ、郊外の道を走り出す。木々の間を風が切る音だけが響いた。


 



















 






















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る