第18話 牙狼の森 ※


 魔物を倒しながら進むが、平原と比べてその数は圧倒的に多い。平原では魔物を見つけるのに苦労したが、この森では避けるのも難しい。魔物兎や魔物蛇を見つけては倒し、さらに魔物の鼠も多く見かけた。


 鼠は兎とは異なり、跳ねることはなく、地面を這いながら常に動き続ける。逃げる際にはジグザグに動くため、倒すのに手間がかかるが、経験値はわずか1ポイントで、食べる気にもならない。


 セレナとルナは最初は楽しんで倒していたが、すぐに飽きてしまった。ルナが試しに一口食べてみたが、すぐに顔をしかめて捨ててしまった。それを見たアキラは安心して胸を撫で下ろした。


 木々を見上げると、陽の光に照らされた蜘蛛の巣がいくつも浮かび、その影に怪しげな蜘蛛の姿がちらついている。「あそこにいるのは魔物か?」アキラが尋ねると、「そうだよ。でも届かない」とセレナが悔しそうに見上げる。


「じゃあ、これだ!」とアキラは火風の複合魔法を空に向けて撃ち上げた。一筋の火柱が立ち上がり、蜘蛛の巣と魔蜘蛛は業火に焼かれて吹き飛んだ。落ちた蜘蛛は、地面で待っていたセレナとルナにすぐに襲われた。


 ウッドスパイダーを10匹倒しました。

経験値 46p(セレナ 10p)を獲得しました。金 250ゴールドを獲得しました。


 経験値はかなり美味しいが、炎が地上に広がり山火事を引き起こす。アキラは水魔法で放水し、火を消し止めた。


「何をやっているんですか?そんな人見たことない!」とラピスが驚いた。


「ほっといたら山火事がひどくなるから」アキラは冷静に答えると、ラピスは深く溜息をついた。


「アキラ、見てて。私もやる!」とセレナは別の場所で蜘蛛の巣に雷撃を放った。剣を振るうと雷が走り、蜘蛛の巣と木々に命中する。蜘蛛の巣は雷撃で震え、木々は裂け、幹からは黒い煙が立ち上った。周囲は静まり返り、生命の気配が消えた。


「凄まじい破壊力だ。これでスキルレベル2なのか……」アキラは感心し、セレナの成長に期待を寄せた。しかし、セレナはこの技の倒し方がつまらなかったらしく、二度と使わなかった。


「全く、もう」ラピスはため息をつく。


 アキラたちは川沿いの森を歩き、小高い丘に辿り着いた。ルナが先導し、目的地と感じさせるように丘を登る。丘の頂上からは広がる森林が見渡せ、大河となった川と遠くに物見塔が見える。


「ワオーン、ワオーン、ワオーン」とルナが遠吠えを上げたが、周囲からの反応はなかった。彼女は周りを見回してがっかりし、項垂れた。セレナは優しくルナの頭を撫でた。


 敷布を敷いて、パンと干し肉の簡単な昼食をとる。ルナは干し肉を食べ終えると、考え事をしているかのように昼寝を始め、セレナもつられてルナにもたれて眠った。


 夜更かしや夜の仕事のせいだろう。もしかすると、これが彼女たちの本当の一日のスケジュールなのかもしれない。



 アキラはセレナたちをそのままにして丘の周りで一人魔物狩りを続け、ラピスに話しかけた。


「ラピさん、ルナは誰を呼んでいたんですか?」


「お話ししても問題ないでしょう。ここはもともと狼族が住んでいた森の一つでした。しかし、今はもういません」


「それはセレナやルナの一族ですか?」


「いいえ、彼女たちの故郷はここではありません。遥か北の森です。そして……この話は、セレナが成長したとき、彼女たちの口から聞いてください」


「そうですか。教えてくれてありがとう」


 アキラは大切な質問を一つ忘れていたが、ラピスもそれを伝え忘れていた。


 丘の頂上に戻ると、セレナとルナはすっきりした表情で目を覚ました。アキラたちは島に戻ることにした。


「島に帰ろう」


 セレナは既にレベルを一つ上げており、アキラもかなりの経験値を稼いでいた。そして、帰り際には蜘蛛の巣のある場所で火柱を上げたことで、彼もレベルアップした。


 最後に少しだけ食材探しの時間を設け、無事に島に帰り着いた。川は穏やかさを取り戻していた。


「計画よりもかなり早いペースだ」とラピスはこの状況に微笑んだ。


ステータス アキラ レベル7/魔術師、セレナ レベル6/魔法剣士  


ゴールド: 1,860、保護時間: 8日


※※※


 山吹はようやく、時雨の家にたどり着いた。古い街並みを進んでいくと、純日本風の歴史を感じさせる建物が現れた。バイクを停める場所を探しながら、少し周囲を散策してみる。


 近くには大きな川が流れていて、暗がりの中、犬を散歩させている人が何人か見える。


 門には表札だけがあり、呼び鈴はない。山吹は数回戸を叩いたが、応答はなかった。

 仕方なく、戸を開けてみると、和風の庭が広がっている。その庭を眺めながら、少し高そうな敷居を越えて玄関を開けた。


「こんばんは」普段は控えめな山吹が、少し大きめの声を出すと、


「お、やっと来たね」


 奥の階段から、時雨と予備校時代の腐れ縁である桜が、足音を響かせながら降りてきた。


「誰もいないから、気を遣わなくていいよ。食事はもう準備してあるから」


「つまらないものですが」山吹は、少し奮発して買った洋菓子を時雨に差し出す。


「えっ!私、手ぶらで来ちゃったんだけど」


「これは二人からということで」


「うん、そうしよう」桜は調子が良い。彼女らしい、気取らない態度だ。


「お腹減ったでしょ?こちらへどうぞ。お菓子は後でみんなでいただきましょう」


 時雨に案内されてダイニングへ入ると、そこは最新式の洋風の空間だった。広いガラスの向こうには和風の庭が広がり、全体が計算されたような美しい設計が感じられる。


「すごい!」桜が感嘆の声を上げる。


「お祖父様が建築家なの。今日は簡単な料理でごめんね。桜が『お肉がいい』って言うから。」


「もう、桜ったら」


「だって『何でもいい』って言うからさ。私たち、不健康な苦学生は、ちゃんと栄養摂らないとね」


「敵ですよ、カロリーは」時雨が言うと、桜がすぐさま返す。「敵なのか味方なのか、それは考え方次第でしょ」


 そんな軽口を叩き合いながら、美味しい食事を楽しんだ後、庭を見せてもらった。小さな池に映る月の光が、静かに揺れていた。


 さてどう切り出そうか。







 






















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