第9話 セレナ ※
アキラは今日の目標を設定することにした。川下をさらに進み、レベル5に上がることが目標だ。できれば、セレナもレベル2に引き上げたい。
アキラは倉庫から中型リュック、短剣、下着、そして一部の食料を取り出し、セレナに小さなリュックを手渡した。
「少し汚れてるけど、これなら持ちやすいよ。中身はこれ」
リュックの中身は、パン×1、干し肉×1、薬草×1、毒消し草×1、水筒×1、タオル×1、煤けたナイフ×1、下着×4だった。
セレナは「荷物持ちかよ!」と文句を言いながらも、嬉しそうにリュックを背負い、煤けたナイフを腰に差し込んだ。
ベースキャンプを片付け、二人は川下へ移動を開始した。
「途中でスライムやホーンドラビーを見つけたら、倒して進もう」
「わかった!」とセレナは答え、ルナと共に駆け出していった。
「はぐれてしまうよ!」と心配するアキラに、セレナは笑顔で答えた。
「大丈夫、匂いでわかるから!」と言いながら、セレナとルナは楽しそうに走っていった。
その後、ラピスからガチャの詳細を教えてもらっていると、アナウンスが流れた。
セレナはボーンドバニーを2匹倒しました。
経験値2Pを獲得しました。
金10ゴールドを獲得しました。
セレナがどのように敵を倒しているのか気になり、アキラは彼女のいる野原にたどり着いた。セレナはナイフを手に敵の背後に位置し、少し離れた前方では子犬が待ち構えて挟み撃ちの態勢をとっている。
彼女は兎に向かってナイフを振るった。ヒットしたかと思ったが、兎は飛び跳ねて僅かにかわした。兎はそのまま猛スピードで一直線に逃げ出したが、待ち構えていた子犬によって狩られた。
セレナはボーンドバニーを1匹倒しました。
経験値1Pを獲得しました。
金5ゴールドを獲得しました。
「なんでセレナが倒したことになるんだ?」とアキラはラピスに尋ねた。
「ルナはセレナの眷属ですので、ルナが倒してもセレナに経験値が入ります」
「そうなのか。でも、気づいたことがある。兎は一直線にしか逃げないみたいだ」
「その通りです。アキラさんも魔物を倒さないと! このレベルの魔物には自由自在に逃げる設定はありません」
「じゃあ、今度はセレナの番だね!」セレナは次の兎をすぐに見つけ、今度は正面から構えた。
それはまるで遊びの延長のようだった。最初の一撃で倒すこともあれば、待ち伏せが成功することも、失敗することもあった。セレナとルナは失敗を気にすることなく、その遊びに没頭していた。
「眺めてばかりもいられないな。さてと」アキラは短剣を取り出して振ってみた。少し重く感じたが、振ることはできそうだった。
アキラはマップで魔物の位置を確認すると、走り出して戦闘を開始した。アキラの競争心に火がついたようだ。
短剣は正確に振るのは難しかったが、攻撃力が高く、かすっただけでも魔物を倒せるほどだった。
「ファイヤーボール!」逃げる兎や集団でいるスライムに向けて魔法を放つ。いつの間にか、アキラも戦いに集中していた。
セレナがレベル2に上がりました。
※
広大な野原を縦横無尽に駆け回っていると、まったく先に進まなかった。セレナのレベルアップのアナウンスで我に返ったアキラは、慌てて声をかけた。アキラはスライムと兎を合わせて10匹、セレナも同数の兎を倒していた。
「セレナ、移動するよ」
「わかった。でも、これどうする?」セレナは足元に転がる6匹の、比較的原型を保った兎肉を指差した。
残りの兎は、ルナが夢中で食べている。
「どうするって、魔物だろ?」
「食べられるよ。この兎小さいけど美味しい。セレナが料理するから、川に行こう」
「わかった。とりあえず、倉庫に入れておくね。夕方になったら川に行こう。今は先を急ごう」
アキラは、魔物を食べるのも経験だと覚悟を決めた。ラピスが言ったように、倉庫が中の物をそのままの状態で保管できることを思い出した。まさに超優秀な冷蔵庫だ。
「アキラ、すごいね! 空間魔法なんて! これからもっと狩りを頑張ろう!」
「ワオーン!」
セレナが「お腹空いた」と言い始めたので、簡単に昼食をとる事にした。
「パンってすごい!」とセレナは、絶賛するがアキラにしてみればただの硬いパンだ。ルナは、兎で充分らしく見向きもしない。
セレナとルナはパンと兎でお腹が満たされたのか昼寝を始めたので、少し休む事にした。
それからは川沿いをひたすら下流に向かって歩き、進行方向に現れる魔物を次々と倒していった。
魔物の種類はスライムと兎だけだった。少しずつ、魔物の数が減ってきているのは明らかだった。
夕方になり、これ以上進むのは諦め、広い河川敷でキャンプをすることにした。
セレナは倉庫から取り出した兎を手際よく処理し、血抜き、皮剥ぎ、内臓の処理まで素早く終わらせた。アキラは手伝うことなく、倉庫にしまった。
アキラは手早くテントを設営し、焚き火の準備を済ませた。
※※※
「じゃあ、山吹、キャンプに来てくれるの?」
黒神の依頼をどうこなすか、山吹は悩んでいた。まさか、直接聞くわけにはいかない。下手をすれば、逆に追及されかねない。
「もちろん、行くよ。ところで、場所は?」
「えっと、確か、ニホンオオカミが最後に見つかった場所、東吉野村の近くのキャンプ場だって」
彼女の名前は、時雨だったはず。彼女について何も知らない自分に、山吹はふと驚く。 こんなに親しげに話してくるのに、彼女のことを全く知らなかったとは。
サークルの先輩らしい真面目そうな男の子たちと一緒に泊まるらしい。
男の子とキャンプなんて、兄とその友達と行った以来だ。
兄の部屋でキャンプ道具を探しながら、焚き火が好きだった兄の後ろ姿がふと蘇った。
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アルカディア・クロニクル 織部 @oribe
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