第18話 もっともっと攻めるささえ
夜も更けてきたので翠斗はベッドへ潜り込む。
穴の向こうからはささえがいつものように配信を行っている声が聞こえてきた。
「(今日の放送はお悩み相談コーナーか)」
今まではちゃんとPCを起動してヘッドホン付けながらささえの放送を聞いていたのだが、すぐ近くから生声が聞こえてくるなら別にPCを立ち上げる必要ないのでは? と気づき、最近は子守歌代わりに壁穴の向こうから聞こえてくるささえの声を聞いていた。
ASMR配信の内容がセンシティブ過ぎて逆に眠れなくなった日もあったけども。
「(ささえさんはやっぱり進行が上手だな)」
配信慣れしているというのも大きいだろうが、生まれながらのリーダー素質的なものもあるのだろう。
そういう自分に無い物を持っているささえが素直に羨ましく、そして尊敬している。
「(……もうすぐ……配信も……終わりそうだな……)」
心地良いささえの囁きに幸福感を得ながら翠斗の意識はゆっくりと微睡へと落ちていく。
「…………」
「……(ごそごそ)」
完全に睡眠の世界に落ちかけた刹那、ふと暖かな感触が腕に触れた。
なぜか隣から人の気配がする。
ぼんやりとした頭で寝返りを打つと、ふわっと良い香りが鼻孔を擽った。
例の高級シャンプーの香り。
自分の髪の匂いかな? と納得しかけるが、自分の手を包む暖かな感覚がそれを否定する。
ゆっくりと目を開けてみる。
目の前で寝っ転がっている女の子と視線が合わさった。
「うわぁぁぁ!? ささえさん!?」
「寝てなよ翠斗さん。ささえも寝るから」
「どうして同じベッドで!?」
「いいからいいから」
「よくないよねぇ!?」
慌てて飛び起きようとする翠斗だったが、腕がガッチリと捕捉され上体を起こすことができない。
ささえが翠斗を引き寄せて立ち上がることを阻止していた。
更に、翠斗は壁側で寝ていた為、ささえと壁に挟まれて逃走が不可状態になっている。
「おやすみ。翠斗さん」
「寝るなぁ!? 寝るなら自分の部屋で寝ろ!?」
「……私にここから出て行って欲しい?」
「……あ、このパターン知ってる」
「んふ。もし翠斗さんがVクリエイトのオーディションに出てくれるって言うのであればささえは大人しくあの穴の向こうの巣に帰ります。断るならささえを抱き枕にして一緒に寝ることになりますねぇ~。さあ選んでください。素直にオーディションを受けるか、それとも一夜を同じベッドで過ごすか」
「やっぱりそれが狙いかー!」
どうしてそこまでして翠斗に同じオーディションを受けさせたいのか聊か疑問が浮かぶが、そんなことを冷静に考えていられるほど余裕はない。
鼻が触れ合いそうなくらい近い距離、自分と同じ高級シャンプーの香り、やや薄着の寝巻、ガッチリと捕捉されてしまっている翠斗の右腕、赤みのかかった頬。
今さら言うまでもないが、ささやきささえの中の人はトリプルS級の美少女である。
19歳とは思えないほど大人の色気もある。
そんな少女とこの距離である。
翠斗はすでに茹でダコ寸前だった。
「さ、ささえさん。もっと自分を大事にしないと駄目だ。お、おお、お、俺は超紳士だから? キミを襲うようなことはしないけど? で、でも万が一間違いがあったら危ないというか……キミだって俺と一緒のベッドで寝るなんて気持ち悪くて嫌だろ?」
「んじゃ、おやすみなさーい。翠斗さん。私、抱き枕ないと寝られないから一晩腕貸してね」
「聞け!? 俺結構大切なこと言っているから聞け!?」
「んふふ。起きたら私はどんな淫らな姿にされているのかな。楽しみだー」
「なんで楽しみにするんだ!? 襲われたいの!?」
「襲ったら許さないけど、翠斗さんがVクリエイトのオーディションを受けてくれるなら許される可能性が——」
「またそれかぁぁ!」
結局この後も二人の漫才のような掛け合いがしばらく続き、翠斗達が寝静まったのは1時間以上後のことだった。
ちなみに翠斗はささえに手を出すようなことはせず、起床後なぜかささえがちょっと残念そうにしていたのは別の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます