第17話 もっと攻めるささえ

「翠斗さん。高級シャンプー買ってみたんだ! 試してみてよ!」


「えっ!? そんな、悪いよ!」


「いいからいいから。いつも夕食作ってくれるお礼だよ」


 『自分、高級っす!』と豪語するかのような綺麗な瓶に入っている。

 翠斗は瓶に詰まっているシャンプーなど初めて見た。


「えっ? これめちゃめちゃ高いんじゃない? いくらしたの?」


「10800円」


「た……たたた高い!? 駄目だよこんな高級なやつ俺なんかには勿体ないよ!」


「私がいいって言っているんだからいいの! 苦学生が奮発してプレゼントしているんだよ! ありがたく受け取れ!」


「そ、そこまでいうなら……堪能させてもらうよ」


 翠斗は恐る恐るシャンプーを受け取り、バスルームへと消えていく。

 その様子を見て、ささえはにやりと笑みを浮かべた。







 翠斗が入浴を初めてから15分後。

 ささえはバスルームの前から翠斗に声を掛ける。


「翠斗さ~ん! シャンプーの使い心地はどうですか?」


「う、うん。風呂中が高級な香りで充満しているよ」


「それは良かった~。翠斗さんには日頃からお世話になっているから気持ち良くなって欲しかったんだ」


「そんな大げさな。でもありがとう。貴重な体験をさせてもらってるよ」


 ささえはこっそり風呂場のドアを開け、脱衣所に侵入する。

 脱衣カゴに翠斗の着替えとタオルが置かれている。


「……(にやり)」


 不敵な笑みと共にささえの次なる作戦が遂行される。







「ささえさん!!!」


「どっうしたの~?」


 風呂場の扉の奥から慌てふためく翠斗の声が聞こえてくる。

 対象的にささえの声は弾んでいた。


「俺の着替えとタオルがないんだけど!」


「ああ。日頃お世話になっているお礼にささえがお洗濯してあげているんだよ。感謝なされ」


「洗濯済みの綺麗な服とタオルだったんだけど!?」


「それは気づかなかったなぁ」


「絶対嘘でしょ!? どうしてそんな余計なことをするんだよ!?」


「おやおや~? そんなこと言っていいのかな~?」


「ど、どういうこと!?」


「翠斗さんは今素っ裸です。全裸です。局部晒し放題中です」


「キミのせいでね!?」


「この引き戸を開ければ翠斗さんの恥ずかしい姿をささえに見られちゃいますねぇ~」


「……な、何が望みだ?」


「んふ。もし翠斗さんがVクリエイトのオーディションに出てくれるって言うのであればささえが代わりの着替えとタオルを持ってきてあげます。さあ選んでください。素直にオーディションを受けるか、それとも露出姿を私に見られるか!」


「やっぱりそれが目的かー!」


 ささえの大作戦第2弾。着替え神隠し大作戦。

 先ほどの食事と同じく、羞恥かオーディションかを選択させるものだ。

 ささえ的には何としても翠斗にもオーディションを受けてもらいたい。だからこそ心を鬼にして翠斗に意地悪なことを行っていた。

 まぁ、失敗しても翠斗の恥ずかしい姿を目に焼き付けることができるので、ささえ的には得しかない。

 それは先ほどの『あーん大作戦』でも言えることだった。


「さあどうするの!? このまま大人しくささえに全てをさらけ出すのか、それとも羞恥から解放されるためにVTuberオーディションに出るのか! さあどっち!?」


「さっきも聞いたなそのセリフ! 俺の答えは……こうだぁ!」


 ガラっと大きく音を立てて扉は開かれた。


「きゃぁぁあ」


 慌てて目元を手で覆い隠すささえ。

 広げている指の隙間から思いっきり見ているのはお約束だった。

 だが——


「あ、泡……だって!? 泡で股間を隠している!?」


「ふっ、高級シャンプーのプレゼントが仇となったな! 素晴らしい泡立ちのお陰で完璧に股間を隠すことができたよ」


「…………」


「……ん?」


「……泡の隙間から……普通に……ちらちら見えます……」


「~~~~っ!! うわああああああああああ!!」


「翠斗さん。もうどうせなら中途半端に隠さず全部見せてもいいんじゃないですか?」


「やだよ! 見せないよ!!」


「……ふ~~~!」


「息を吹きかけて泡を飛ばそうとするな!!」


 慌てて手で股間を隠す。

 最初からこうしておけば良かったと後悔が奔る翠斗であった。

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