第13話 配信コラボⅡー③ 図書室ラブストーリー (みどり×ささやきささえ)


 シチュエーションボイスドラマ『図書室ラブストーリー』

 読書好きで図書室に通い詰めていた男主人公が図書委員の女主人公に声を掛けられる所から始まるピュアラブストーリー……とあらすじには書いてある。

 恋に奥手な二人が徐々に距離を近づけるドキドキストーリーが始まる。


「あ、あの! すみません。図書室はもう閉まる時間になってしまいましたので退室をお願いします」


 声を掛けてきたのは清楚な文学少女。

 あどけなさが残る少女の声色はささえの声質にフィットする。

 ささメン達もいつもと違うささえの演技に少しだけ驚きを示していた。


「あ、気が付かなかった。本を片づけたらすぐに出ていくよ」


 慌てる様に立ち上がった文学少年。

 落ち着いた声色でありがなら大人びた凛々しさも感じられる青少年の声色。

 端的に言えば『イケボ』過ぎる声色にコメント欄は更にざわついていた。



  『プロかな?』

  『プロだよ?』

  『ささえもみどりニキもちょっとレベチ過ぎる』

  『これ、そこらの新人声優とは比較にならないくらいレベル高いぞ』

  『もしかしてささえってエロお姉さんボイスよりも普通の女学生の方が適正あるんじゃないか?』

  『だがそれでもささえにはエロエロな役をやってもらいたい』



 元プロの翠斗はともかく、ささえまでレベルが上がっているのには理由がある。

 それは姿勢だ。

 声を出す理想の姿勢は空気の通り道が真っすぐになっていること。

 足を腰幅に開き、足指に力を入れる。そして背筋をピンと伸ばし、首が前に出ていることで良い声が出やすくなる。

その理想的な姿勢作りを翠斗があまりにも自然とやっているのでささえもそれを真似してみた。

 すると嘘みたいに澄んだ声が出てきたのだ。

 普段のささえは立ち上がることもせず、椅子の背もたれに思いっきり凭れながらASMRをやっていた。

 姿勢って大事なのだと改めて痛感する。


「良かったらその本、私が元の棚に戻して差し上げますよ」


「い、いや! そ、それは、ええっと、も、申し訳ないので大丈夫! 本当に大丈夫だから!」


「いいからいいから。これも図書委員の仕事ですので。では本はこちらで戻して……おき——」


「…………」


「…………」


「…………」


「『素人ヌード写真108選集。AカップからGカップまで全て揃えます』」


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「な、なんですか! これは! 何を平然と図書室で、え、えっちな本を、よ、読んでいるのですか!?」


「違う! たまたまなんだ! 図書室で時間を潰そうと思って適当に抜いた本がそれだったんだ」


「抜いた!?」


「抜いてないよ!? いや本を棚から抜いたけども!」


「あ、貴方は神聖な図書室でGカップ女子の裸を見て、ぬ、抜いていたのですか!?」


「だから抜いてないって! あと見ていたのはFカップ女子!」


「この変態さん! 巨乳好きのド変態さん!」


「ち、違う……! 俺は……Bカップも好きだ!」


「なんの言い訳ですか! Aカップの私は眼中に無いってことですか!? Aだってふくらみはあるんですよ!? それでもあなたはAカップを否定するのですか!?」


「ご、ごめん……!」


「否定された!? うわーん! 男なんてみんなおっぱい魔人です~!」


 涙を散らしながら走り去っていく麗。

 吹は『素人ヌード写真108選集。AカップからGカップまで全て揃えます』をそっと棚に戻し、果てしない倦怠感を抱きながら帰宅に着くのであった。

 

 みどりのナレーションで前半パートが終わる。



  『台本の雲行き怪しくなってまいりました』

  『ピュア? ラブストーリー?』

  『あ、そういえばこれささえ放送だったわ』

  『ここからどんなふうにラブストーリーに発展するんだ 好感度マイナスだろ』



 翌日。俺は懲りずに図書室に顔を出してみた。

 今日読んでいる本はまともな純文学小説である。


「おっぱい魔人さん。こんにちは」


「誤解されているようだけど、俺は尻も好きな——うお!? 委員長さんのおっぱいがでけぇ!?」


「触っても……いいですよ」


「触っても良いですよって言った!?」


 吹の手は自然と彼女の胸に伸び、そして——固い異物の感触が手のひらに広がった。


「秘奥義胸パッドの重ね掛けです」


「……」


「どうです? 不快感タップリでしょう? 世の中にはこのように『胸を盛る』という手段誤魔化す女性が少なからずいるのです。大きい胸に不信感を持ちました?」


「おかげさまでね!?」


「それは良かったです。巨乳なんていいものじゃありません。小さい胸にこそ真実に溢れているのです」


「は、はぁ。そ、それにしてもよくできている虚乳ですね」


「——あんっ! な、撫で回さないで、く、くださいぃ。偽乳とはいえ、そ、その、手を教えてる感触は、私の本物微乳にも伝わるんですからね!」


「本物と書いて微乳とルビを振る人初めてみたよ。で、でも、ごめんね。虚乳とはいえいつまでも胸を触るのは駄目だよね!」


 指摘され、慌てて手を引っ込める吹。

 だけどなぜか麗は寂しそうな表情を浮かべ……

 ボトボトと胸パッドを床に落とす。


「触っても……いいですよ?」


「えっ!?」


「真実のおっぱいを……触ってみたくありませんか?」


「……ごくっ」


「ほら。ここです」


「ちょ、ちょっと!? どうして服の中に俺の手を!?」


「私がまだパッドで持っている可能性があるじゃないですか。だから……直で触って確かめて?」


「ま、待って!? さ、さすがにそれはエッチすぎ——あっ……や、柔らかいっ!」


「ふふ……Aカップも……良いモノでしょう?」


「そ、そうだね。生まれて初めて触れた胸が……Aカップで良かった!」


「……ね。もっと色々な所、触ってよ」


「もっと色々なところ……て?」


「……こっち」


 麗は吹の右手を持って下の方へと誘導していく。

 スカートの中に手が潜る。

 小さな布の感触が当たる。

 麗はそのまま布の中へと吹の手を潜り込ませ——




「だぁぁぁぁぁぁっ! ストップ! ストーーっプ!!!!」


 突如、みどりが台本にない絶叫を轟かす。

 紅潮した表情で熱っぽい視線を翠斗に向けるささえ。


「前半パートから薄々感じていたけど、これエロ小説だよね!?」


「そうですか? 青年誌程度のレベルじゃありません? それほどハードではありませんし……」


「ハードじゃなければいいってもんじゃないの! ささえさんは慣れているかもしれないけど、じ、自分はこういう台本演じたことないんだ!」


「ほほぉ……みどりさん可愛い」



  『耐え切れなくなったみどりニキ可愛い』

  『みどりニキはエロ耐性なかったか』

  『この童貞っぽさ嫌いじゃないぜみどりニキ』



「とにかく! シチュエーションボイスドラマおしまい! これ以上は駄目! BANされるから!」


「しょうがないなぁ。はぁはぁ……みんな、顔真っ赤にして茹で上がりそうなみどりさんを虐めるのは可哀想だから、はぁ……途中だけど台本読みは終わりに……はぁはぁ……させてもらうね」


「茹で上がりそうな顔しているのはキミも一緒だからな!? 興奮して吐息漏れているのささメンにもバレているからね!?」


 吐息以上にトロンとした熱っぽい視線が翠斗の動悸を激しく揺らす。

 これ以上続けていたら雰囲気に流されてどうなってしまっていたのか……

 そう考えると途中で切り上げたことは正解だったなと思う翠斗であった。

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