第12話 配信コラボⅡー② リスナーネーム (みどり×ささやきささえ)

「みどりさんへの質問コーナーは放送時間が余ったら即興で募集するからみんな考えておいてねー」


「なんで自分にばかりなんだ! みんな! ささえさんに関する質問も募集していますからね!」



  『みどりニキへの質問かー。聞きたいこといっぱいあるわ』

  『みどりニキ謎が多い人物だからな あれやこれや聞いてみたい』

  『みどりニキへの質問は微エロOKですか?』



「ささえリスナーの一体感なんなの!? 自分の味方が一人もいない!?」


 すでに赤裸々に話している故に、これ以上突っ込んだ質問が飛んで来たら本気で個人情報が危うい気がした。

 対してささえはもっと男性事情を聞いてみたい欲が抑えきれなくなっていた。

 本当にささえのエロエロ妄想をしていたのか、その辺りが気になって仕方がない。

 ささえはテレパシーでリスナーに対して翠斗の性事情を突く質問をしてくれと念じるが、その思いが届いたかは放送の最後に判明するだろう。


「ちなみにささえリスナーの呼び方は『ささメン』ね」


「あっ、そうだったんだ」



  『初めて聞いたが』

  『俺らってささメンだったのか』



「肝心なささメンの皆様も初耳みたいな反応しているけど!?」


「今思いついた呼称だからね」


「自由だなキミ!?」


 VTuberにはファンを特別な呼び方をする文化がある。何とか軍とか何とか部みたいなファン団体の呼称だ。

 これからも長くVTuber活動をするのであれば、ファン名はかなり重要なポイントのはずなのだが、ささえはその場の思い付きでアッサリと決めていた。

 リスナーの皆様からも特に反対意見は上がっていないので今この瞬間ささえのファンは『ささメン』と呼ばれることが決定した。


「無事にリスナーネームが決まった所で、次のコーナー行こうか! みどりさんタイトルコールよろしく!」


 翠斗は小さくうなずくとささえが持つマウスに手を添えて『とある機能』をオンにする。


「【わくわく! ささえとみどりのシチュエーションボイスドラマ読み合わせの巻~!】」



『エコー掛かっとるw』

『ノリノリじゃねーかみどりニキ』



「相変わらず妙に慣れているねみどりさん。今迷うことなくエコー機能オンにしてきてビックリしたよ」


「ああ。実は機械には強いんだ。エコーの掛け方くらいは知っているよ」


 機械が強いとはいえ、他人の配信ソフトのエコー機能をこうも迷いなくオンにできるものだろうか。

 また一つ、翠斗のミステリアスっぷりが加速した。


「あと、急にささえがマウスを持っている所に手をかぶせてきたから……んと……ビックリしたんだけど……」


「そ、それはごめん! 気が利かなかった」


「べ、別に全然いいんだけどさ。すこーしドキドキしたぞ? どうしてくれる?」


「大丈夫。自分も今さらドキドキし始めたからお互い様だよ」


「ほ、ほほーぅ。みどりさんもドキドキしたか。うん。うん。ささえだけじゃなくて、よ、良かったよ」



  『俺らの見えない所でイチャイチャ手つなぎハプニング止めてもらえないっすか?』

  『てぇてぇするなら俺達の見える所でやれ』

  『でもGJ。供給さんくす』

  『中学生みたいな反応で可愛いなこいつら』



 6歳年が離れているとはいえ、二人は大人の男女。

 互いの体温が感じられる距離で座っているだけでも実は結構落ち着かない。

 一つのPCで男女がコラボ配信するという状況は否が応でも鼓動が高鳴ってしまう。

 その対応策は一つしかない。

 無理やりにでもテンションを上げて意識を反らすことである。


「さ、さて! いつもはささえの一人語りのASMRしかできなかったけど、今日はみどりさんも居ますので男女の掛け合いボイスドラマを募集させて頂いておりました!」


 ささえの放送はリスナーからテーマを募集することが多い。

 ささえに読んでもらいたい文章を送り、放送で自分の作ったショートストーリーを呼んでもらえる

 応募作の半数がエロ系なのはご愛敬だが。


「とは言っても急なコラボ決定だったこともあって応募してもらえた作品は1件だけでした。今日はその作品をみどりさんと読んでいくね」


 ささえは画面外の所で台本用紙を翠斗に手渡した。

 どうやら男役と女役のセリフで繰り出す青春ショートストーリー。

 読み合わせ無しのぶっつけ本番で臨むらしい。


「匿名希望様より頂いたショートストーリーです。題名は『図書室ラブストーリー』。高校生男女を主人公にした青春ドラマみたいだよ」



  『ええやん』

  『久々にエロ系以外のストーリー来たな』

  『みどりニキの前だとささえは清純ぶる所があるからな』



 翠斗もささえの放送のファンであり、ASMRのコーナーは興味深く拝見している。

 そして翠斗は知っている。

 ささえは結構際どいセリフでも全力で遂行することを。

 なぜか濡れ場シーンが一番上手いのがささえの特徴でもある。

 しかも壁が筒抜けだから生声が耳に入ってくる。

 台本とはいえ、知り合いの喘ぎ声を聞かされて下腹部を悶々とさせられたことも少なくなかった。

 でも今回はまともな青春ストーリーっぽい題名で内心かなりほっとする翠斗だった。



  『声優のタマゴと元声優の共演がついにみられる』

  『普通に楽しみ』



「男主人公と女主人公が居るんだけど、みどりさんどっちやりたい?」


「女の子の方で」


「……ギャグで聞いたつもりだったのに速攻で女を選択するとは」


「実は女キャラの方が得意だったりする」



  『こいつマジか』

  『逆にすげぇ』

  『でもみどりニキの幼女クオリティ高かったからな。女学生声も聴いてみたい気持ちもある』



「あー、みんな、期待させて悪いけど、ささえが男声にあまり自信ないから、普通にささえに女学生やらせて欲しいんだけど……」


「そうなのか。声優目指すなら異性の声も練習しなきゃダメだよ?」


「うぅ……すみません……」


 というわけで、みどりが男子生徒主人公を、ささえが女子生徒主人公を演じることになった。

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