第11話 配信コラボⅡー① てぇてぇ (みどり×ささやきささえ)

「「貴方に癒しを届けたい。今日もささえの配信に癒されてね♪」」


 週末の昼下がりの生配信。

 普段とは違うささえの放送が始まった。


「声重ねるな!」


「えっ!? 駄目だったの!?」


「ささえが紹介するまで出てくるな! 冒頭から声かぶせてくるとはささえも予想外だったよ!?」


「わ、わかった。じゃあやり直ししよう」


「もう生配信始まっているから! 色々手遅れだからね!?」



  『みどりニキww』

  『草』

  『出たがりのみどりニキ可愛い』

  『いきなり漫才始まったんだが』

  『みど×ささ てぇてぇ』



 開始早々いつもとは遥かに多くのコメントが二人を出迎えてくれる。

 やはりみどりは数字を持っている。

 ささえは内心確信した。


「さて、みどりさん! 今日は一緒に何をやると思う!?」


「お便りのコーナーの後にリスナーさんが送ってくれたシチュエーションボイスドラマを二人で読み合わせて、最後に二人への質問コーナーをやるんだよね」


「正解だよ!? え? なんでそこまで具体的に知ってるの!? ささえ事前に言ってないよね!?」


「あー、皆さんには見えないと思うけど、アジェンダを記したメモが右上の方に映っているんだ」


「カンニング禁止!!」



  『ささえのやらかしじゃねーかw』

  『いつものポンコツ具合で安心した』

  『いかにもささえがやりそうなポンコツだ』

  『グッダグダなのに妙に息が合ってるなお前ら』

  『付き合ってんの?』



「「付き合ってないから!」」



  『息ピッタリじゃねーかww』

  『てぇてぇ』

  『てぇてぇ』

  『てぇてぇ』



「ねえささえさん。自分、ネットスラングに詳しくないんだけど、『てぇてぇ』ってどういう意味なの?」


「うぐっ……!!」


 純粋な翠斗からの質問に言葉を詰まらせるささえ。

 『てぇてぇ』という言葉は近年生まれた造語の一種。

 推し同士の掛け合いが素晴らしすぎて感動した時に用いるのが『てぇてぇ』という言葉だ。

 つまりは『尊い』という単語を砕けた言い方にしたということだ。

 ささえとみどりは多くのリスナーから推しカップルとされていた。

 だけど照れくさくてその事実を翠斗に伝えるのは躊躇われる。


「な、なんだろうねー? てへ、てへ、って可愛らしく笑いかけているんじゃないかな!?」



  『意味を知っていてごまかし始めるささえ尊すぎん?』

  『ちゃんと乙女だったんだなささえ』

  『無自覚にささえを照れっ照れにさせるみどりニキGJ』

  『えっ 無理 てぇてぇが過ぎるんですけど』

  『てへてへどころの話じゃないレベルで顔がにやけてる俺きめぇ』



「……? 照れているの? ささえさん」


「い、いいから! みどりさんは気にしなくていいの! 気にすんな!」


「は、はぁ……」



  『てぇてぇ』

  『てぇてぇ』

  『てぇてぇ』

  『てぇてぇ』



「んもう……! みんなが変な風にからかうからささえ火照っちゃったよ。みどりさん。エアコン付けて」


「ういうい」


 ささえに命令されて、素直にその通りに行動する翠斗。


「ささえさん。アイスコーヒーいる?」


「あっ、うん。いるいる!」


 とは言ったものささえの部屋の冷蔵庫にはアイスコーヒーが無かったので翠斗は大穴から自分の部屋に戻り、コーヒーを入れてくる。


「ほいよ。ガムシロ4個ね」


「ありがとう~!」



  『夫婦かな?』

  『気の利く夫かな?』

  『みどりニキ なんか尻に敷かれてない?』

  『なんでコーヒーの味の好みまで知っているんだよw』

  『ガムシロ4個は入れすぎwww』



「夫婦とかじゃないってば!」


「この子、ホットコーヒーの場合は角砂糖6個入れるよ」


「変なことバラすな!!」



  『あっまww』

  『みどりニキ 他にもささえのマル秘情報他にない?』



「うーん。マル秘情報かぁ。何かあったかな」


「考えんでいいわ! もうオープニングトークおしまい! 次のコーナーにいくよ! んと……次なにやるんだっけ!?」


「次はリスナーさんからのお便りを読むコーナーです。自分への質問、ささえさんへの質問、2人両方への質問、個人情報やセンシティブワードに関わる質問でなければ何でも答えますよ」


「普通に司会を乗っ取らないで!? ゲスト! みどりさんはゲストだよ!? 主役はささえだからね!?」


 リスナーの見えない所で翠斗の身体をグラングランと揺らすささえ。

 配信テンションなのか、いつもの数倍リアクション過多な様子だった。







「えー、では1つ目。ラジオネーム『むん』さんからのお手紙です。『みどりさんへ質問です。ささえちゃんとほぼ同棲のような生活をしていてムラムラしてますか?』」


「センシティブ! 初っ端からなんつー質問を選定してくるんですか! 椅子からずっこけるかと思ったわ!」


「あっ、それ、ささえも普通に気になるなぁ」


「気にならないで!?」



  『まぁ、年頃の女の子としては異性事情は気になるわな』

  『同棲……まあ同棲と言えるか。壁筒抜けだし』

  『みどりニキがどう答えるのか期待』



 ささえ含めてリスナーほぼ全員がみどりに好奇の視線を投げている。

 隣で身を縮めて恥ずかしそうにモジモジする翠斗の姿にささえは密かに萌えていた。


「んと……まぁ……緊張はするわな」


「ムラムラするか聞いているんだけど」


「なんでキミが追い撃ちかけてくるんだよ!? 助けろよ!?」


 もはや翠斗に味方は居ない。

 大きなため息を一つ吐き、ヤケクソのように皆の前で叫んだ。


「するよ! ムラムラするに決まっているだろう!? 美少女が隣に住んでいるだけでもやばいのに、壁穴からプライベート丸見えとか! 何も感じず生活できたらそれはもう仙人かなんかだよ!」



  『せやなww』

  『仕方ないさ お前は悪くない』

  『潔くて良し! みどりニキのことまた好きになったぜ』

  『みどりニキもちゃんと人間だったか』

  『ていうかささえの中の人もやはり美少女だったか』



「にゅっふふ。みどりさんがささえでエロエロ妄想していることが分かったところで次の質問にいきましょうか」


「ちょ……!?」


「2つ目の質問はラジオネーム『むん』さんから。『みどりさんへ質問です。ささえちゃんとほぼ同棲のような生活をしていますが、ラブコメのようなラッキースケベ展開はありましたか?』だそうです!」


「同じ人! さっきと同じ人からの質問だったよね!? 途中まで文章全く一緒だったよね!? どうしてそんなにこの人を贔屓すんの!?」


「ラッキースケベかぁ。んー、みどりさんの方は何かあった?」


「何事もなかったように進めないで!?」



  『むんさんGJ』

  『ささえとみどりニキの会話テンポすごい好き』

  『やっぱみどりニキとのコラボ回は別格に楽しいな』

  『さあどうなんだい! ラッキーなスケベはあったのかい! なかったのかい!?』



「いや、本当にラッキースケベなんてないから! ささえさんのプライベートを覗かないように大穴の方を見ないように心がけているから!」



  『は?』

  『は?』

  『失望した』

  『みどりニキ嫌いになったわ』



「一瞬で冷めるね!? キミら!」


 リスナー達はみどりの境遇が面白すぎて彼に感情移入しまくっていた。

 みどりがささえと絡んでいれば自分自身がささえといちゃついているようなシンクロ感覚に包まれる。

 言わば、みどりはラブコメの主人公。

 積極的にヒロイン攻略に動こうとしない主人公に失望するのもまた当然の感情だった。


「本当はささえの着替えとか覗いていたんだろ~? うりうり~。素直に白状したらどうだ~?」


「ほ、本当にそんなことしてないから! そんなことしたら人として終わってしまうから!」


「なーんだ。着替えを覗いていたのはささえの方だけだったか。ちっ」


「人として終わってやがる!?」



  『速報:みどりニキ覗かれる』

  『超ぶっちゃけるな ささえたんw』

  『この子基本エロエロだからそんな気はしていたけどな』

  『みどりニキの全裸は拝めたかい?』



「むっふっふ。眼福でございました」


「うわああああああああああああああん!」


 股間を隠し、身の危険を感じた翠斗はサっとささえから距離を取る。


「大丈夫だよみどりさん。ちゃんと大丈夫だったから」


「何が!? ナニが!?」


「……んふ」


 意味深に妖艶に微笑むささえ。

 本当に覗き行為が行われてしまっていたのか……

 その答えは彼女の胸の内にしかなさそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る