第44話 【運び屋・4】


 最初、全員を紹介しても大丈夫かと不安に思っていたが、何とか無事に終えた。

 その後、今後については後で俺が伝えるからと言って、天野を連れて訓練室へと向かった。


「あの、神代さんお願いがあるんですけど良いですか?」


「どうしましたか?」


「その、僕に対しても他の方達と同じように敬語じゃなくて、普通に喋ってもらえないですか? 歳は上ですけど、これから色々と教えてもらう身ですし、その方が神代さんも楽ですよね」


「……バレてましたか?」


 一応、年齢は上だからと口調には気を付けていたが天野にはバレていたみたいだ。

 そして俺はそんな指摘をされたので、口調をいつもの様に戻して天野にも俺に対して砕けた口調で話してもらうように言った。


「その、僕の場合は人と話す事自体が久しぶりなので、そこが慣れたら徐々にやっていきますね」


「分かった。まあ、ゲートに入れば自ずと敬語は砕けると思うよ。切羽詰まってる状況で、一々相手に気を使っていれば死にますからね」


 ゲートの中でも上下関係を気にする探索者はいる。

 確かに度合いにもよるが、下の発言を無視して死ぬ探索者は多く俺は基本的に一緒に探索をするなら楽な接し方をしてほしいと思っている。

 その為、陸にも同じような事を言い続け、今は割と自分の考えなども自ら言ってくれるようになって成長を感じている。


「一先ず、今の運動能力を確かめるか」


「はい!」


 それから一通り、渚の運動能力の確認を行った。

 予想していた通り、かなり絶望的だったが本人のやる気は十分にあるので今後に期待という感じだ。

 そうして訓練室でそのまま少し体を動かし、一緒に大浴場へと向かった。


「武蔵君、分かってたけど凄い体だね……」


「前衛だからな、それに才能が偏ってくれてるおかげだな」


 俺の固有能力である【武道の天才】は、その名の通り武道に関しては絶大な能力を発揮する。

 しかし、逆に魔法関係についてほぼ効果を発揮しない。


「前衛でも多少は魔法が使える人が多いけど、俺は使えないからな。まあ、その分魔法の勉強する時間も全て体作りに費やせてるから良いけど」


「そうなんだ。でも、確かに前衛の人でも魔法のスキルを持ってるけど、武蔵君は一つも持ってないよね。使いたいとか思わないの?」


 訓練のおかげか、昨日よりも大分俺と話せている渚はそんな事を聞いて来た。

 昨日、俺にステータスを見せてくれた渚には、礼儀として俺自身のステータスも見せている。

 その為、俺が魔法系のスキルを一つも持ってない事は渚は知っている。


「昔はそんな事も考えてたけど、役割的に考えたら必要ないって割り切ってからか特に考えてないな。それに魔法の才能が凄い仲間が居て、自分が使えなくても大丈夫だからな」


「そこまで武蔵君が言うって、本当に凄いんだね。一ノ瀬さんって子は」


 智咲の話をしたからか、少しだけ渚は智咲の力に興味を示したようだ。


「気になるなら、明日は皆と一緒に訓練するか? ゲートに行くまでに慣れておかないといけないし」


「そ、そうだよね……でも、急に人が増え過ぎたら緊張して何も出来ないと思うから、一人ずつでも大丈夫かな?」


「大丈夫。じゃあ、取り合えず明日から皆に順番で訓練に来て貰うに伝えておくよ」


 その後、渚と一緒に大浴場で疲れを取った俺は部屋まで見送り、智咲達に連絡を入れてパーティーの部屋に集まってもらった。


「と言う訳で明日から、皆には順番で渚との訓練に来て貰いたいんだけど良いか?」


「勿論よ。一番最初は私って事は、魔法を見せたらいいのかしら?」


「ああ、渚も智咲の魔法を気にしてたからな」


「ふふっ、だったら明日は私も彼に空間魔法について聞こうかしら? 正直、時間を掛けたら使えるかと思うけど実際に使ってる人の意見を聞くのが一番いいものね」


 智咲は笑みを浮かべながらそう言い、早く明日にならないかなと楽しみにしていた。


「杏奈と陸も大丈夫か?」


「うん。大丈夫だよ」


「俺も大丈夫ですよ。でも、俺と一緒に訓練しても何か意味ありますかね?」


「一緒に訓練する理由は、渚と俺達とコミュニケーションをとるってのが一番の目的だから、仲良くなれたらいいって考えて欲しい」


 陸からしたら前衛の自分が? と考えたのだろう。

 そんな陸に対して、俺がそう言うと訓練する意味を理解してくれたようで「頑張ってみます」と返事をしてくれた。

 そうしてパーティーでの話し合いは終わり、時間も夕食時なので解散となった。

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