第36話 【二人目の仲間・4】


 それから数日後、テストが終わった俺は陸の学校で活躍している槍術士と会う事になった。


「武蔵、私思い出したわ。その槍術士って、もしかして〝魔槍〟だと思うわよ。昔、彼の知り合いに会った時に昔の名前を聞いた事があったのよ」


 陸から会って欲しいと言われた日、ずっと考え込んでいた智咲からそんな事を言われた。

 〝魔槍〟とは、俺達の時代で有名な探索者の二つ名。

 槍に魔法を付与して戦うスタイルで、その突破力は凄まじい威力だった。

 俺もそいつの事を知っていたが、何故たどり着けなかったのか、その理由は彼の名前が記憶してる名前と違うからだ。

 下の名前は同じだったが苗字が違う為、俺の中で結びつかないと否定していた。


「同じ県出身とは聞いてたけど、住んでる場所も近かったのか……どんな奴なのか楽しみだな」


 正直、本人を見るまでは確信できないがほぼ〝魔槍〟だと思っている俺は、待ち合わせしている場所へと向かった。

 待ち合わせ場所はゆっくりと話せる場所が良いと思い、雄二さんのカフェに指定した。

 そしてカフェに到着した俺は店内に入ると、奥の方に陸ともう一人の男の子が座ってるのを確認した。


「はじめまして、秋山 真です。本日は時間を作ってくださり、ありがとうございます」


「陸からの頼みだからな、知ってると思うが神代 武蔵だ。よろしく」


 そう俺は真と握手を交わして席に座り、真が話し出すのを待った。


「実は、最近伸び悩んでいて同年代で活躍してる探索者の武蔵さんにどうやって訓練してるのか、聞いてみたいなと思ったんです」


「伸び悩んでる? それは学校の先生とか、それこそ真は槍の師匠とかは居ないのか?」


「学校の先生達は俺がトップだから、そんな事はないみたいな言ってます。それに俺は槍は独学でやっていて、師匠と呼べる人は居ません」


「そうなのか?」


 あの〝魔槍〟に師匠が居ないという事に驚いた俺は、あまり驚き過ぎない様に何とか抑えてそう聞き返した。


「元々、槍を使いだしたのも中学に上がってやってみようと思い手を出してみたんです。そしたら、感覚が合っていてそのまま特に挫折する事無くトップに立ったんですけど、そこから自分の中で伸びてないなと悩み続けてるんです」


「ふむ……ゲートには行ってるのか?」


「はい。固定のパーティーは組んで無くて、臨時で色んなパーティーで前衛をして経験は積んでるんですけど……」


「特に成果はないって感じか」


 正直、こんな話をされるとは思ってなかった俺は、どうしようか凄く悩んでいた。

 隣に座ってる陸も、真がこんな悩みを抱えてるとは思ってなかったのか、少し困惑した表情をしている。


「正直、ここで話をしててもアドバイスをするにも出来ないから、一先ず今の槍の腕を見る為に場所を移動しよう」


 俺はそう言った後、注文した品を食べ終えて陸達を連れてカフェを出た。

 パーティーハウスに連れて行くか少し迷ったが、誰かに言いふらしたりするような奴では無いなと感じて連れて行く事にした。

 その際、真との話の内容はグループチャットで智咲達にも共有をして、パーティーハウスに連れて行く許可を出してもらった。


「取り合えず、軽く動いてみてくれ」


「はい!」


 訓練室まで直行した俺は、訓練用の槍を真に渡して適当に動いてもらう事にした。

 真は誰かに師事された訳では無いが、基本的な動きは良かった。

 勢いも良く、確かに学生としてのレベルをみたら高い方だなと感じた。


「真はさっき聞いたけど、魔法も使えるんだよな?」


「はい。ただ魔法に関しては、苦手であまり使っては無いんですよね……」


 回帰前の事を考えると、何かしら何処かのタイミングで魔法に手を出す事になるんだろうけど、今それを教えてもいいのだろうか。

 そんな事を考えていると、訓練室に智咲と杏奈がやって来た。


「魔法が苦手って聞こえたけど、どの程度出来るのか見せてくれないかしら?」


 智咲は俺達の所に着くとそう真に言った。

 真は智咲の言葉に困惑していたが、俺が「俺も見てみたい」というと真は魔法の実力を見せてくれた。


「……どうでしたか? 正直、見せれるレベルじゃない事は自分で分かってます」


「放出系の魔法が苦手ね。逆に近くの相手に対しては、上手く魔法が使えてるでしょ」


「えっ、どうしてそんな事が分かったんですか?」


「これでも魔法に関しては、この場にいる誰よりも詳しいからよ。真って言ったかしら? その槍に魔法を留めるイメージをして、魔法を出す事は出来るかしら?」


 智咲がそう真に言うと、真は持っていた槍に魔法を留めようとしたが、直ぐに魔法が解けてしまった。


「イメージが足りないわ。こんな風にするのよ」


 失敗した真に対して、智咲は同じように槍に魔法を留めてその光景を真に見せた。

 真はその槍の状態を近くで確認すると、もう一度同じようにやってみるとちょっとだけ魔法が維持された。


「今の感じよ。魔法は継続が大事だから、今のをずっとやっていけば魔法も貴方の力の一つになるわ。今の自分に伸び悩んでるなら、放置してた魔法の力を訓練するいい機会だと私は思うわ」


「……今まで魔法が使えるけど苦手で遠ざけてましたが、今の自分に伸びに悩んでるならそっちに手を出すべきですね。貴重なアドバイスを頂き、ありがとうございます!」


「いいのよ。武蔵から貴方の事を聞いて見に来ただけだから、もし魔法の事で分からない事があれば私に聞きに来てもいいわよ。多分、学校の先生よりかは詳しいと思うし」


「良いんですか!? ありがとうございます!」


 真は智咲にそうお礼を言うと、動きを見ただけの俺に対してもお礼を言ってくれた。

 その後、真と俺達は連絡を交換し、智咲は真に対して魔法の訓練方法等を教え、真は嬉しそうな表情を浮かべながら帰って行った。


「智咲、珍しいな自分から教えに行くなんて」


 あの後、陸達は両親に呼ばれたみたいで一旦別れ、先にパーティーの部屋に移動してきた俺は智咲にそう言った。


「そんなに珍しいかしら? 強いて言うなら、〝魔槍〟を少しでも早く強くしておきたいと思ったからかしらね。彼の能力はドラゴンロードとの戦いの時に役立つと思うから、今の内に接点を作っておきたかったのよ」


「成程な、じゃあ真もパーティーに入れるか? 三人目の前衛になるけど、魔法も使えるからいい位置で使えると思うぞ」


「今は陸が入った新しいパーティーの動きに慣れる大事な時期だし、その事はまたその時になって考えましょ」


 智咲の言葉通り、今は自分達のパーティーとして大事な時期。

 その為、真をパーティーに入れるか入れないかという話は考えない様にした。

 そうして真についての話は一旦終え、今後のゲート探索について智咲と後から合流した杏奈達と一緒に夜遅くまで話し合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る