第34話 【二人目の仲間・2】


 陸を臨時の仲間に入れ、一ヵ月が経過した。

 夏休み中は数日間ゲートに入り続けていたが、アカデミーや学校がある為、一日の探索時間は決まっていた。

 そんな限られた中で、俺達は自分達の成長よりも陸の育成に時間をかけた。

 体格も良く、元々タンクとしての素質があったのか、凄い速度で成長をしていく陸に俺達は育成ゲームをしてる感覚で付き合った。

 その結果、陸はレベルが30まで上がりD級探索者へと成長した。


「しかし、まさか【大宰府迷宮】を俺達の次に3つの報酬を手にしたのが陸とはな、そこまでとは思わなかった」


「本当にね。一ヵ月で凄く変わったわね」


「陸があんなタンクとしての才能があるなんて、本当に驚いたわ」


 レベル29になった時、【大宰府迷宮】へと送った。

 その際、一ノ瀬家に同じレベルで挑戦する魔法使いが居たので二人で行かせると、何と4時間55分で攻略を終えた。

 ギリギリ5時間以内で、報酬が3つ選択出来た陸は俺と智咲と同じように3つの報酬を受け取って帰って来た。


「陸の事だが、正式な仲間として今後は扱おうと思うんだが、智咲と杏奈も良いよな?」


「【大宰府迷宮】を攻略出来たらって話だったし、今更断る理由もないわ」


「私も同じだよ。それにあんなに嬉しそうに一緒に探索してるのに、これでパーティーに入れませんって言った時、陸と顔を合わせ辛いしね」


「まあ、それは俺達も同じだよ。今は同じ建物で皆住んでるからな」


 あれから一月が経っており、俺達の生活も少し変化した。

 住居に関して、以前までは実家だったがパーティーハウスに三家族全員が住むようになった。

 そのおかげでパーティーハウスから実家に戻るという移動は無くなり、夜遅くまで訓練室を使ったりしている。

 ちなみに以前までは、訓練室を使っていたのは俺と陸位だったが、各家庭の父親達も夜遅くの訓練時は一緒に訓練してる。


「ってか、親達の距離の縮まり方異常だよな……」


「お父さん達、本当に毎日楽しそうだもんね。あの歳になって、友達が増えるなんて思わなかったって言ってた」


 仲良くなってくれたらいいなとは子供ながら思っていたが、そんな俺達の不安を他所に親達の距離はかなり近づいていた。

 ずっと前からの友達だったと言われてもおかしくない位に、いつも一緒にご飯を食べたり風呂に入っている。

 父親達なんて最近は、鍛えた体を見せ合いっこして筋トレに励んだりしている。


「意外とゲームコーナーが活躍したみたいよ。お母さんが言ってたんだけど、訓練は自分達に合わないけどボウリングとかで少し運動をしながら話せるから交流に凄く役だったって」


「パーティーの時は誰も行かなかったけど、役に立ってるなら良かった」


「うん。案出した私としても、役に立ってるなら良かった」


 そう俺達は話をしていると、注文した商品を持った雄二さんが寄って来た。


「お前達、テスト勉強するって言ってたのにずっと話してないか?」


「いや~、集中出来なくて……家だと、もっと集中出来ないと思って場所を変えたんですけど、意味なかったです」


 夏休みから暫く経ち、二度目のテスト。

 前回、筆記がボロボロだった俺は流石にこれはと、両親から指摘されてしまった。

 いくら探索者だからといっても、もう少し点数を上げて欲しいと言われ、今回は少し頑張ってみる事にした。

 その為に俺は智咲達の頼み、勉強を見て貰う事にしたのだがあまり進んでいない。


「言いたい事は分かるよ。僕も学生時代はテスト勉強嫌だったから、実技の方で何とかカバーしてたから」


「やっぱりそれが一番楽ですもんね」


「うん。でもそれはずっと探索者を続ける場合はそれでいいんだけど、僕みたいに働くようになると勉強してた方が良かったって後悔する事もあるんだよ。だから、武蔵君には後悔しない為にも頑張ってほしいな」


 雄二さんはそう言うと、サービスでケーキを出してくれた。

 それから俺は、折角智咲達にも手伝って貰ってるんだからと気合を入れ直し、それから数時間勉強を頑張った。


「武蔵さん、今日は探索は休みの日ですよね? なんだか疲れてませんか?」


 雄二さんの店で勉強会をしていた俺だったが、あまりにも長時間勉強した為、日が暮れる前に帰宅した。

 そして訓練室で先に訓練をしていると、後から来た陸にそんな事を言われた。


「勉強疲れだよ。陸はテスト勉強はしてるのか?」


「してますよ。これでも学年でトップ5には入る位には、勉強は得意なんですよ」


「……俺だけ勉強出来ないのかよ」


 智咲も杏奈も、そして陸までも勉強が出来るという事実を知って少しだけショックを受けた。

 まだ英語は、今後役立つから勉強しても良いけど、それ以外は回帰前に役に立ったという記憶はない。


「武蔵さんにも苦手な事があったんですね」


「俺も人間だからな、苦手な事位はある……」


 そう俺は言って陸と少しだけ訓練をして、風呂に入って汗を流した。

 そして風呂から出た俺は、陸を連れてパーティーで使ってる部屋に一緒に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る