第26話 【二学期の始まり・2】


 夏休み明け初日という事で、午後の授業が早く終わり俺達は職員室へとランクの報告に向かった。


「あの日、試験のバイトに行ってたから知ってたけど、無事にランクが上がってたみたいね」


「はい。無事に三人共、Dランクになりました」


 一応、ランクの変更報告は担任にする決まり。

 だから俺達は今井先生に報告をしたが、仕事で来ていた今井先生は俺達が昇格してた事は既に知っていた。


「アカデミーの、それも二学期の始まりでD級は優秀な生徒に入るわね。このままランクは上げ続けるのかしら?」


「今の所は特に上げるつもりは無いですね。上げた所で、忙しくなるだけですからね」


「確かにそうね。私みたいにA級になると、こうしてアカデミーの講師とかしてないと月に何度も協会から仕事の連絡が来るから気を付けるのよ」


 今井先生は若く、それでいて近接戦闘系のA級探索者はかなり需要が高い。

 魔法使いやサポーターの高ランクもそれなりに需要はあるが、近接戦闘系は基本的に護衛任務等で重宝される。


「それで言うと今井先生は意外ですよね。高ランクなのにこうしてアカデミーの講師をしてるなんて、普通は若い内は稼ぎの良い護衛任務とかで稼ぐ人のが多くないですか?」


「私、少し前に家を買ったのよ。だから護衛任務とかで遠くに行くと、折角買った家で過ごせないでしょ? それに私、福岡が好きだから県外にあまり行きたくないのよね」


 そんな感じで先生は、出来るだけ協会側から県外への仕事を言われないようにする為、アカデミーの講師として働いていると言った。

 その後、報告を終えた俺達はとある場所へと向かった。


「ここが今日から私達の拠点ね。いい場所に買えたわね」


「本当に凄く良い場所だね。アカデミーからも近いし、家から通っても丁度いい位置だね」


「ずっと調べてたからな、やっぱりパーティーとして探索者をするならこれくらいの拠点は必要だと思ってな」


 やって来たのは、ようやく完成した俺達のパーティーハウス。

 元々は神代家が所有してる土地の一つだったが、俺達に対する詫びの品として受け取った。

 まあ、その際に条件なんか提示して来たが、だったら要らないと言って突っぱねると条件は無視して土地だけ貰った。

 その後、その土地には一ノ瀬家関係の建築屋に希望する建物の形状を伝え、ずっと待っていた。


「最初は普通の一軒家タイプを考えてたけど、マンションタイプも良いわね」


「うんうん。でも、なんだかこれだけ大きいと一つのギルドが使ってる建物みたいにも見えるね」


「実際、中堅クラスのギルドに比べたらいい建物を使ってると思うぞ。こっちは新築だし、それに腕の立つ魔法使いに作ってもらってるから、万が一の災害時にも使えるようになってるからな」


 魔法使いが不足してる地域や国だと、新築の建物を作るのに時間が掛かるらしいが日本はこれでも探索者大国の一つ。

 ゲートへ探索に行く人は少ないが、建築関係や他のスキルを活かせる仕事では探索者が活躍している。

 そして俺達の建てたパーティーハウスは、そんな魔法使いの中でも腕の立つ人達に建てて貰っている。


「武蔵君の注文だったよね。要塞並みに防御力が強い建物って」


「いつ何が起こるか分からないからな、折角作るなら安全な場所として使えるようにしたくてな。まあ、そのせいで費用が掛かったからその分は俺から追加で出しておいたよ」


「まあ、それで言うと私達も自分の好きな物を用意してもらったし、皆が満足できる建物が出来て良かったと思うわ」


 智咲の希望は、やはり風呂関係で魔道具によっていつでも直ぐに入れる風呂場を作った。

 ちゃんと男女別で用意しており、別の階には大浴場も備えている。

 自動洗浄機能も付いていて、掃除が面倒だと思っていた智咲はそれはもう喜んでいた。

 式守は俺達みたいに大規模な注文は無く、遊べる場所とそれぞれ個室が用意して欲しいという程度の頼みだった。


「……私、お願いした時、こんな凄い場所が出来るなんて想像してなかった」


 式守に頼まれた遊べる場所として、階層で言うと二フロアを使ってゲームコーナーを作った。

 勿論、アーケードゲームからボードゲーム等を頼める空間、更にはボウリングやビリヤード、卓球等といった体を使う遊び場も用意した。


「今後、長期休みの度に家に帰るより、ここで暮らす事が多くなると思うから気分転換する為に必要だと思ってな」


「こんなに広いゲームコーナーに大浴場って、もうちょっとしたホテルだよ……」


 正直、学生の間にこんなのを建てる予定はなかった。

 だけど神代家襲撃の為、ゲートに潜り続けていた俺と智咲はかなりの大金を手にしていた。

 そのまま持ち続けていても、あまり使い道がない。

 装備も陽炎さんので十分だしと思っていた所に、神代家から土地を受け取った。

 その為、俺達は持っていたお金を使って自分達の好きを詰め込んだパーティーハウスを建てる事にした。


「まあ、これだけ大きな建物を作ってもまだ土地は余ってるんだよな……」


「そこは放置で良いんじゃない? まだ持ってないけど、車とか手に入れたら駐車場とか必要になって来るし」


「そうだな、余ってる土地に関してはその時その時で用途を考えていくか」


 その後、智咲は早速この建物に出来たお風呂を堪能してくると言って、式守を連れて一緒に入りに行った。


「これから一時間以上一人になるな……訓練室の強度でも試しに行くか」


 智咲達が去った後、暇な時間を潰す為に俺はこの建物に作った訓練室で時間を潰す事にした。

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