第23話 【日常へ・3】


 あれから数時間、ゲートから式守達が出て来た。

 結果はどうだったと聞くと、無事にクリアして報酬は二つ貰えたと報告された。


「……彼女、かなり強かったけど智咲が魔法を教えたのか?」


「多少は教えたけど、杏奈は努力家だから自分であそこまで強くなったのよ。私達が一ヵ月、忙しくしてたのは流石に知ってるでしょ?」


「あんな人材がまだ普通に暮らしてたとはな、家の人事も大した事ないな……」


 隼士はそう言うと、もう一つの用意された車に乗って去って行った。

 式守は流石に数時間、ゲート攻略をしていたからか疲れ切っており、家に送るまで車の中で仮眠をしていた。

 ちなみに隼士と式守は、武器は選ばず丸薬とスキルの二つを選んだみたいだ。


「これで一応、夏休みにしておきたかったことは終わったかな?」


「そうね。神代家との縁もあれで流石に切れてるだろうし、パーティーとしての連携力も上がったから夏休み明けから本格的に探索者として活動しても良さそうね」


「そうだな……あれ、そう言えば俺達ってランクあげしてなくないか?」


 話をしていてふと、そんな事を思った俺は智咲にそう言うと智咲も忘れていた様でハッとした顔をした。


「夏休み明け、色んなゲートに行くなら今の内に昇格試験受けておいた方がいいよな?」


「そうね。受けれるレベルなのに受けないのは意味がないし、受けた方が良いわね。まあ、タイミングとしては良いんじゃないかしら? 杏奈もレベル30になって、私達との差も大分埋まった訳だし」


「確かにそうだな、取り合えず式守と予定を合わせて早い内に昇格試験を受けに行くか」


 智咲とそんな話をしていると、いつの間にか式守の家に着き、寝ていた式守を起こして見送った。

 その後、俺達も自分達の家へと帰宅して風呂と飯を済ませて寝た。

 翌日、昨日の話を式守にすると困った表情をした。


「……私と武蔵君達、確かに少しは差が埋まってるけど、パーティーとして見たら私だけ劣ってるからもう少し差を埋めて受けたいってのが私の意見かな」


「まあ、そう思うのも当然だな……今のままだと効率が悪いんだよな」


 現状、俺達は最低ランクのゲートで探索をしている。

 俺達がレベル上げをしてる時は、一ノ瀬家の協力もあってレベル上げの効率も良かったが今はそれが出来ない。

 そもそもランクを無視して入る事自体が危険な行為で、あれも見つかっていれば協会から怒られる案件だ。


「どうせ昇格試験は段階を踏まないといけない訳だし、取り合えず一つだけランクを上げないか? そうすれば、行けるゲートが増えてレベル上げの効率も良くなるわけだし」


「えっ? 武蔵君達の事だから、飛び級で高ランクを目指してると思ってたけど違うの?」


「いや、別に俺達も高いランクになりたくない訳ではないけど、高いランクになるとそれに見合う仕事をしないといけないだろ? 俺達、まだ学生だしそうなるのは避けたいからな」


 6段階のランクで、Bランクになると仕事が増える。

 指名依頼もBランクになると受けられるようになり、高額な報酬を狙う為に探索者達は主にBランクを目指して頑張っている。

 逆に俺達は報酬よりも自分達の自由の為、学生の間はBランクにはならないようにしようと考えている。


「それだったら、昇格試験受けに行ってもいいかも……正直、レベル上げには今のゲートのレベルだと向かないもんね」


「特に俺達が居たら尚更な、取り合えず明後日に昇格試験を受けようと思ってるけど予定は大丈夫か?」


「うん。あっ、でも新しいスキルには慣れておきたいから、その間もゲートに付き合ってくれる?」


 式守のその頼みに俺達は頷き、今日と明日は式守の新しいスキルを試す為に時間を使う約束をした。

 そうしてあっという間に二日間が過ぎ、俺達は福岡支部の探索者協会へとやって来た。

 普段は市町村区レベルの協会で、素材の売却をしているが免許の更新や昇格試験は県レベルの協会に来ないといけない。


「ここも久しぶりね」


「まあ、滅多に来ないからな式守も免許発行以来か?」


「うん。そもそも武蔵君達にパーティーに誘われるまで、そんなに協会自体に行った事がないよ」


 そんな事を話しながら俺達は協会の建物に入り、受付で昇格試験を受けに来た事を伝えた。

 事前に予約をしていた俺達は、スムーズに受付を済ませて試験場へと案内された。

 案内された部屋には、今回俺達と同じ昇格試験を受けに来ている探索者が居た。

 試験開始までまだ時間があるので、俺達は邪魔にならないように席に座って試験が始まるまで待機した。


「あれ、神代と一ノ瀬、それに式守じゃないか? どういう組み合わせだ?」


「……あっ、先生。お久しぶりです」


「お前一瞬、私が誰か忘れてなかったか?」


 部屋で待っていると、170㎝程でスタイルの良い赤髪の女性が俺達に話し掛けて来た。

 一瞬、この人が誰か忘れていた俺は脳内で検索をし、俺と智咲の担任の人だという事を思い出した。

 彼女の名前は今井 茜いまい あかね、確か20代後半で主に近接を得意としているA級探索者兼アカデミーの講師。


「お前達も試験を受けに来たのか?」


「はい。夏休みの間、三人でパーティー活動をしていてレベルもそれなりに上がったので受けに来たんです。先生もですか?」


「いや、私は試験の手伝いだ。夏休みの間、アカデミーは無いだろ? 試験の手伝いって、かなり報酬が良いんだよ」


 試験では毎回と言っていい程、高確率で問題を起こす探索者が居る。

 その為、それらを制圧する為に試験では事前に高ランクの探索者が雇われており、その報酬はそこそこ美味しい。


「まあ、お前達は心配ないと思うが問題を起こしそうな探索者には絡まれないようにな」


「はい。忠告ありがとうございます」


 先生はそう言うと、部屋の前の方へと行った。

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