第21話 【日常へ・1】


 神代家襲撃から一週間が経った。

 俺達の予想通り、神代家は本家が関与してない所で探索者の失踪事件に関係していたと発表をした。

 そして、遅れて捜査に協力するといった姿勢を取り、主動となって行っていた一ノ頼家の下につく形で捜査を進めた。

 零士は神代家をこき使えると嬉しそうに報告をしてきて、また何か頼み事があれば聞くという言質を取った。


「たった一月で神代家を襲える程、成長するなんて武蔵君達は本当に凄いね」


 日常に戻ってきた俺達は、式守に連絡をして久しぶりにゲートへと探索に来ていた。


「まあ、他の事を捨てて死ぬ気で頑張ったからな、ゲートの中で生活するなんて当分はしたくない」


「そうね。魔道具が揃ってたら、そこまで苦痛は感じないけど今はそんなに揃っても無いのにゲートの中で生活してたから、本当に生活面で精神が病みそうだったわ」


 魔道具は私生活でもよく使われるが、主にゲート内で使う物が主流。

 その中でもゲートで数日間潜ったりする探索者の為に作られた魔道具などがあるのだが、俺達はそれらを持たずに暮らしていた。


「魔道具一つ一つが高いし、そんな簡単に買えないもんね」


「そうなんだよな、まあでも今なら一つ二つ買えそうだし、今度の休みに皆で見に行ってみるか?」


「良いわね。早い内に良い物を使ってた方が、道具に慣れたり探索が楽になるから良いと思うわよ」


「……その、それって私も一緒に行っていいのかな? 殆ど、武蔵君達が稼いだお金だよね?」


 パーティーとしての貯金はしているが、今回の事で一ヵ月間俺達と離れていた式守。

 その間もパーティーの貯金として稼いでいた俺達に対し、自分も一緒に選んでいいのか遠慮させてしまった。


「そこは気にしなくていい。というか、今回に関しては俺の家庭の事情だからな、式守の安全をとって離れて貰ってたし気にしなくていいぞ」


「私も武蔵と同意見よ。それに気になるんなら、魔道具を選んだ後に頑張ってくれたらいいもの」


「……うん。分かった。これから沢山頑張って、パーティーに貢献するね!」


 俺達の言葉に笑みを浮かべて式守はそう言って、一月振りのパーティーでの探索を一日楽しんだ俺達はそれぞれの家へと帰宅した。

 帰宅した俺は先に風呂を済ませ、夕食が準備されたリビングへと向かった。


「ねえ、武蔵。この一ヵ月で身長伸びた?」


「えっ、そうかな? 特に変わってないと思うけど」


「……いや、前より高くなってるぞ。このままいくと、190㎝に行くんじゃないか?」


 風呂から上がりリビングに行くと、両親からそんな事を言われた。

 回帰前だと、確か身長は最高で185㎝だった。


「これ以上高くなっても、180㎝あれば十分高いし……」


「まあ、確かにそれはそうだな。でもお父さんからしたら、その身長は羨ましいよ。ギリギリ180㎝でもう息子に追い抜かれたんだから」


 父さんも十分背の高い方だが、180㎝とキリのいい数字。

 既に俺はそんな父さんの身長を抜いていて、一緒に買い物に行く際はなるべく隣には並ばないでくれと切実な顔で頼まれた。


「成長期に十分な運動をしてるから、前より身体の成長が良いんじゃないかしら? 確かにずっと一緒に居て気付かなかったけど、武蔵の身長前よりも伸びてると思うわよ」


 あの後、俺はスマホで智咲に電話をかけて両親との話の事を伝えると、そんな事を言われた。


「そう言われてみれば、回帰前はこの歳の頃は特に頑張って運動してなくてあの体格だったな……智咲は身長が高い俺は好きか?」


「別にどんな武蔵でも私は好きよ。まあ、今の内から髪の毛は気にしておいた方が良いんじゃないかしら? ほら、40歳超えた頃から生え際心配してたでしょ?」


「ハッ! 確かにそうだった。若い自分に戻って、重要な事を忘れてたよ。あれ、でも待てよ俺がそんな髪の遺伝を持ってるって事は、両親のどちらかも今後その可能性があるんじゃないか……」


 回帰前で俺は、40歳を超えてから髪に悩まされていた。

 それまでふさふさだったのに、次第に毛が薄くなっていった。

 若い頃、髪を染めたりしていたからそれが原因の可能性も無いとは言い切れない。

 しかし、最もな線でいくと両親のどちらかの遺伝の可能性がある。


「……明日、父さん達の髪を確かめてみようかな」


「一応、言っておくけど気付かれないようにしなさいよ? 両親の生え際を心配する息子なんておかしいわよ」


「分かってるよ。ちゃんと気配を消して、本気で確認するさ」


 そう言って電話を終えた俺は、明日の重大な任務の為に直ぐに寝る事にした。

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