第20話 【落とし前・4】


 俺と一心の戦いは、立場が変わる事は無く一心は反撃が出来ていない。

 それもその筈、この時点での一心のレベルは大体60前後。

 そのレベルは十分、強者の部類に入るレベルをしている。

 しかし、俺の能力値の伸びは【武道の天才】によって上げられており、一心とほぼ互角以上の力を手にしている。


「ハァッ!」


「うっ!」


 反撃の隙を与えず、戦いが10分程続いた。

 その時、一瞬の気のゆるみが一心に現れ、俺はその隙を見逃さず強烈な一撃を与えた。

 その攻撃はかなり効き、一心は壁にぶつかり血反吐を吐いた。


「ふぅ~……スッキリした。爺さん相手に本気出せるか不安だったけど、回帰前も合わせて色々とやられてたおかげでそんな事は無かったな」


 神代家の当主として君臨している一心は、60を超えた爺さん。

 武道家の為、老いこそ進行速度は遅いがそれでも何十歳も年上の相手をボコボコにするのに気が控えてた。

 しかし、いざやってみれば特にそんな思いも無く、気持ち良かったとすら感じていた。


「ど、どうやってそんな力を……」


「まあ、一言で言ってしまえば才能の差、後は努力したかしてないかの差だ」


 気絶する寸前の一心の言葉にそう返すと、一心はそのまま気絶した。

 その後、智咲によって縛られた栄一と気絶していた一心を一先ず、まだ壊れてない本家の建物へと移動させた。


「……それで、儂等はどうなるんだ?」


「別に、今回の事で重く受け止めたんなら自主でもすればいいんじゃないか? 俺は別に、お前等に更生して欲しくてこんな事をした訳じゃない」


 回帰した俺達の知識の中には、他にも悪事を働いている奴等を沢山知っている。

 だが別に俺達は、そいつらを捕まえる為に動いたりはしてない。

 あえてした事と言えば、神代家と一緒に悪事をしていた者達を一ノ瀬家に少しバラした程度だ。


「だ、だったら何故今回はこんな事をしでかしたんだ?」


「前にも言っただろ、俺に手を出すなって? それなのに態々、そっちから俺に接触をしてきたんだ。だったら、これ以上接触されないようにぶっ倒すのが早いだろ?」


 俺達が行動した理由は、ただ俺達に接触をしてきたからだ。

 あの時、本家に連れてこられていたら失踪した探索者と同じような目に合っていただろう。

 だから俺は一ノ瀬家に協力してもらい、神代家からの姿を隠して超スピードで成長した。


「……何故、そこまで本家に従うのを嫌う。お主には才能もあって、それなりの地位も用意すると以前から伝えて負っただろ!」


「悪事に手を染めてる馬鹿な家に従う程、俺自身が馬鹿じゃないからだ。それにそもそも俺はこの家が嫌いだ。神代を名乗るのすら嫌なのに、本家に仕える? ハッ、嫌に決まってんだろ」


 栄一の言葉に対し、俺は心の底から思っている事を口にした。


「最初にも言ったが、どうせ今回の事は本家にはそんなダメージを受けずに済ますだろう。別にそこは気にしないし、大事な〝神代家〟をこれからも続ければ良い。ただし、俺と智咲、そして家族や友人の前に二度と現れるな。それだけがこれから先、神代家が生き残る条件だ。分かったか?」


 【威圧】のスキルを使って、俺は一心達に向かってそう言った。

 そんな俺の言葉に対し、栄一は再び気絶をして一心は俺の眼を見て返答をした。


「分かった。もう二度と、お主達の邪魔はせん」


「その言葉を言ったからには、ちゃんと守れよ? 次、俺達の邪魔でもしたらその時は手加減しないからな?」


 俺はそう言いながら、一心との戦闘中にも出してなかった本気の一撃を一心の顔スレスレに放った。

 俺のその風圧で後ろの壁は壊れ、数m先まで建物が壊れた。

 それを見た一心は、引き攣った顔をしていたから脅しも成功したとそう感じた。

 その後、俺と智咲は神代家の建物を出て離れた所で待っていた一ノ瀬家の車に乗り、両親の待つ一ノ瀬家本家へと向かった。


「本家を襲撃!? そんな危ない事をしたのか!」


「危なくなんて無いよ。それに襲撃って言っても、ただ話し合いに行こうとしたのに、相手が襲って来たから気絶させて当主と話しただけだから」


 一ノ瀬家の本家に着いた俺達は、両親を呼んでもらい今日の出来事について伝えた。


「話をしただけか、あんな挑発気味な事を言っておったのによくいうわい」


「……見てたんですか?」


「勿論、万が一お主達が危なくなったら出るつもりで待機しておったんだよ」


「そうだよ。勿論、別の事件現場にも一ノ瀬家の腕の立つ者達が行って成功させたから、安心していいよ」


 両親を呼んだ部屋には、何故か一ノ瀬家の当主である零士と信士、そして智咲の両親も居た。


「武蔵君達、本当に凄い速さで成長したね。正直、最初僕に一ノ瀬家の本家に連絡をして欲しいって頼まれた時、こんな事になるなんて予想もしてなかったよ」


「裕太と里美ちゃん、二人の頼みだからあの時は動いたけど、そうじゃなかったら難しかっただろうしな」


「里美ちゃんって、もうちゃん付けで呼ばれる歳じゃないわよ。しん兄さん」


 そう言えば、前から気になっていた事だが智咲の両親は、どちらも一ノ瀬家繋がりの人間。

 裕太さんが信士の弟なのは知っていたけど、里美さんはどういう関係性なんだろ?


「あら、武蔵君どうしたの?」


「あっ、いえ、里美さんって裕太さんと結婚する前から一ノ瀬ですよね? その裕太さんは信士さんの弟なのは知ってたんですけど、どういう繋がりなのかなとふと思ったんです」


「そんな事か、里美はずっと昔に分かれた一ノ瀬家の分家だ。苗字が一緒で気になったのか?」


「はい。正直ずっと気になっていて、それを聞いてスッキリしました」


 特に特別な家とかではなく、ただの分家の一つだったのか。

 回帰前は特に気にしてなかったけど、一ノ瀬家の本家とこんな近しい関係になってなかったから気にはならなかったんだろう。

 それから未だ信じられないといって両親達だったが、一ノ瀬家としては長年の宿敵が弱体化して祝勝ムード。

 お祝いの為に沢山の豪華な食事が用意され、俺達は久しぶりの美味しい食事を存分に堪能した。

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