第18話 【落とし前・2】
あの後、智咲と焔の件について話をした。
次期宇鉄工房主とほぼ確定で決まっている焔。
そんな焔を自分達の専属鍛冶師にすれば、工房として仕事を沢山奪ってしまいそうだと考えた。
その結果、賭けの報酬を専属鍛冶師では無く専属契約という事にしようとなった。
専属鍛冶師と専属契約、名前は似ているが前者は互いに縛り合うが、後者は俺達だけが縛られる内容だ。
料金が安くなったり、予約を飛ばせる代わりに他の鍛冶師の装備は使わないという内容となっている。
鍛冶師側は契約した探索者を優遇すれば、他の探索者の装備も作れるといった契約内容。
「こっちの方が宇鉄工房としても良いと思うんですけど、陽炎さんどうですか?」
「うん。それでお願いできるかな? 流石に唯一の後継者が専属鍛冶師になんてなったら、また一から後継者を育てないといけなくなるからね」
疲れた様子の陽炎さんは、装備制作の途中で呼び出され俺達の話を聞いてそう言った。
そしてそんな陽炎さんの横には、後先考えずに突っ走り陽炎さんに叱られた焔が正座させられていた。
「全く焔は誰に似たのか……」
「多分、父ちゃんだと思うぜ? 父ちゃんだって、もう少し若かったら武蔵達の強さをみたら俺みたいに突っ走ってただろ?」
「……そんな事はない」
焔の言葉に目を逸らしながらそう言う陽炎さんは、話を終わらせて自分の作業室へと戻っていった。
「それじゃ、俺達もそろそろ帰るよ。次は装備が出来たら来るから」
「おう! またな!」
そうして俺達は宇鉄工房を出て、待っていた車へと戻り昨日止まったホテルに戻って来た。
それから二日間、俺達はホテルの中に引きこもり久しぶりの休暇で体を休めた。
そんな俺達の所に宇鉄工房から連絡が入り、装備が完成したらしいので取りに行く事にした。
「「おお!」」
俺と智咲は宇鉄工房へとやって来て、自分達の装備と対面した。
「かなりの自信作だよ。ベースはどちらも〝レッドワイバーン〟の素材になってるよ」
「ワイバーン種の素材……それだけで凄い装備だと分かります」
ワイバーン種の素材は、素材自体高価だが加工もかなり難しい。
並大抵の鍛冶師だと素材を駄目にしてしまうのだが、陽炎さんはそんな素材をよく扱っているので俺達にピッタリの装備を作り上げている。
見た目は普通の服っぽい見た目をしているが、性能はかなり高く耐熱耐寒耐性、更には魔法防御、物理防御もかなりのものとなっている。
「性能もそうですけど、見た目もかなり気に入りました。これだったら、ゲートの外で着ていても変に視線を集めないですね」
「ふふっ、武蔵君達の話を聞いてたからゲートの外でも装備が必要だと思ってね。その辺も気にして、目立ちにくい感じに仕上げておいたよ」
「本当にありがとうございます」
それから俺達は早速、新しい装備に着替える事にした。
身体測定をしていたおかげで、新しい装備は俺達にピッタリの作りになっていて、この時点で今までの装備よりもいい。
「ちなみにワイバーン種の素材を使ってるから、伸縮性能も少しあるから武蔵君達が体が成長しても多少は問題ない作りだよ。焔が超えられなかった時は、この装備を長く使って欲しいからね。それで、防具はここまでで次は武器の方だよ」
陽炎さんがそう言うと、奥から宇鉄工房に所属してる鍛冶師が箱を持ってきた。
その箱をテーブルに置くと、陽炎さんから中を見て欲しいと言われて箱の中身を確認した。
「おお、この武器は素材は魔鉄使ってますか?」
「おっ、武蔵君良い眼を持ってるね。その通り、魔鉄を使ってる武器だよ」
箱の中にあった武器は、どちらも特徴的な黒い色に少し紫が入ったような見た目をしていた。
この特徴的な色は、魔鉄と言われてる鉱石が使われているという事で、魔力の通りがかなり良い武器となっている。
「武蔵君は魔力で武器を強化したりするって言ってたし、智咲ちゃんは魔法使いでしょ? だったら、魔鉄で作ろうと思ってね。どうかな?」
「……凄く気に入りました」
「私もです。これは良い武器です。ありがとうございます」
陽炎さんの作った武器を手に取り、俺達はそう感想を伝えた。
その後、装備の受け取りを終えた俺達は陽炎さん達にもう一度、お礼を伝えて宇鉄工房を出た。
「本当にこのまま神代家に向かっても大丈夫ですか?」
「ええ、準備は出来ましたので乗り込みます。もしも、戦闘になった時は気にしないでください。巻き込まれて一ノ瀬家に迷惑を掛けたくないので」
運転手の言葉に俺はそう伝え、俺達は神代家の本家がある場所へと向かった。
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