第17話 【落とし前・1】


 更に数時間後、俺達はホテルで十分な休息を取り、一ノ瀬家の車に乗ってある場所へと向かった。

 向かった場所は一ノ瀬家の権力を使ったとしても、中々来れるような所ではない。


「ここはいつ来ても暑いな……」


「特にこの季節はね……夕方にして正解だったわ。昼だと死んでいたわね」


 俺達がやって来たのは代々鍛冶の技を受け継ぎ、日本で三本の指に入る鍛冶屋。


「んっ? おお、武蔵に智咲ちゃんじゃないか! 久しぶりだな!」


「ちょっ、汗だくのまま抱き着こうすんなよ! 風呂に入って来たばっかなんだから!」


「なっ、人を汚いみたいな言い方は酷いぞ! これでも三日に一回は風呂に入ってるんだからな!」


 鍛冶屋に入ってきた俺達に気付いた一人の鍛冶師は、俺達に向かって抱き着こうとして来た。

 そんな鍛冶師を避け、そう言うと鍛冶師は自信満々にそう言い返してきた。


「こら、焔! 知人だとしても、そういう態度はいかんと教えておるだろ!」


 そんな鍛冶師に対し、一ノ瀬家の車に乗って一緒にやって来た男性はその鍛冶師の頭に拳骨を落としながらそう言った。


「と、父ちゃん!? な、何でいるんだよ! 知り合いの所に出掛けるって言ってたじゃんか!」


「武蔵君達を呼びに行ったんだよ。知り合いに間違いないだろうが!」


 俺達と一緒に来た人物の名は宇鉄 陽炎うてつ かげろう、そしてその人物に拳骨を落とされたのは宇鉄 焔うてつ ほむら

 この鍛冶屋〝宇鉄鍛冶公房〟の現親方が陽炎さんで、その長男で次親方候補なので焔。

 この親子と俺と智咲は、昔からの知り合い。

 一ノ瀬家、神代家は関係は無く焔と俺達が同級生で繋がりがあり、幼い頃からよくしてもらっていた。

 回帰前ではS級の探索者として活躍してた頃には、焔が親方となって俺達の武器から装備まで全て見ていてくれていた。


「しかし、まさか武蔵君達から装備の依頼をこんなに早くされるとはな……あの噂は本当だったのか」


「噂って、神代家が俺を探してるってやつですか?」


「それだよ。幸いこっちには来てないけど、どうしたのかって焔も心配してたから、大丈夫なら話を聞きたいんだけど」


 あの後、鍛冶場から移動して鍛冶屋の事務室に移動した俺達は陽炎さんからそう言われて、ここ数週間の出来事を簡単に説明した。


「……成程。それで武蔵君が一ノ瀬家と一緒だったのか」


 陽炎さんは俺達が一ノ瀬家の使いが運転する車に乗ってる事に疑問に思っていたのか、その話を聞いて納得してくれた。


「それにしても、武蔵君達相当頑張ったみたいだね。うちの装備、それも装備一式をオーダーメイドで注文って相当高いのに一括で払えるなんて」


「まあ、かなりゲートに潜っていましたからね」


 ここに来る前、レベル上げの最中に手に入れた素材を売却してきている。

 行く前に一ノ瀬家に異空間に繋がる収納袋を借りていたおかげで、それだけでもかなりの大金を得れた。

 更にはその前のゲートでもそこそこ稼いでいたので、俺達は装備の代金を用意する事が出来た。

 【大宰府迷宮】の武器に関しては、まだ使えるのでサブとして使う様で残し、武器も含めて一式作る事にした。


「焔。俺達の装備、どれくらいで出来そうだ?」


「う~ん……今回、特別に父ちゃんが作るから相当早いとは思うけど、二日は確実に掛かるとは思うな。他の仕事もあるけど、良い装備を作るには時間を掛けないといけないからな」


 あの後、オーダーメイドの為に身体測定に焔と別室に来た俺は、装備がどれ位で出来るのか聞いた。

 本来、宇鉄工房で装備の依頼をする際、工房主である陽炎さんが仕事する事は滅多にない。

 理由としては陽炎さんの鍛冶師としての能力が高く、指名には億が動くからだ。

 しかし、今回は特別に俺と智咲の装備を一式作ってもらう事になった。


「父ちゃん、昔から武蔵と智咲が探索者として活躍してる所が見たいって言ってたからな、もう少し後だったから俺が装備作ってやりたかったけど、あんなキラキラした目をしてる父ちゃんに変わってとは言えないからな……」


「なんでか俺と智咲は、前から陽炎さんから気に入られてるんだよな……」


「父ちゃんは俺以上の感覚派だから、武蔵達が凄い探索者になるって直感が働いてるんだと思う。そんで俺達鍛冶師は、そういう探索者に装備を作りたいって想いがあるからな」


「成程な……どうせすぐに俺達は今より強くなると思うから、その時までに焔も陽炎さんに並ぶ鍛冶の腕上げておけよ。負けてたら、億を払っても陽炎さん頼むからな」


 少し挑発気味に焔にそう言うと、焔は笑みを浮かべた。


「燃えるような言ってくれるな! 高校卒業までは父ちゃんからジックリ学ぼうと思ってたけど、武蔵からそんな熱い事を言われたら大人しく勉強してらんねぇな」


「じゃあ、賭けるか? 今年の冬までに俺達は今よりも強くなっておくから、その時までに焔も鍛冶師として一人前になっておくってのはどうだ? 勿論、今回陽炎さんが作る装備よりも良い物が作れるってのが最低条件だぞ?」


「いいぞ! じゃあ、その賭けに勝てたら俺を武蔵達の専属鍛冶師にしてくれよ」


 専属鍛冶師、その名の通り探索者専属の鍛冶師として防具や武器を用意する鍛冶師。

 鍛冶師側は他の探索者のパーティーやギルドへの装備の作成を断り、探索者側は専属鍛冶師の装備しか使えないという契約。


「それだと、俺達に不利益がないぞ?」


「良いんだよ。武蔵達が凄い探索者になるってのは、もう分かり切ってるからな! そんな奴等の装備を俺だけが作れるってのは、鍛冶師として最高の報酬になるんだよ」


「……一応、智咲に聞いておくよ。俺としてはその条件が良いけど、智咲も含まれる話だからな勝手に決めたら、後で怖い事になるからな」


 それから身体測定が終わった後、俺は智咲と合流して焔との話を伝えた。

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