第6話 【最初の仲間・2】


 探索者活動を始めて一週間が経った。

 その間、俺達は最初に行ったゲートに通い続けている。

 最初こそサポートに徹していた式守だったが、徐々に属性魔法と【結界】を上手く使って戦闘にも参加するようになった。


「毎回思うんだけど、こんなに貰って大丈夫なの?」


「式守のサポートスキルには助けられてるからな、この配分が一番良いんだよ」


 ゲートの中で採れる物は、魔物の死体すらも価値がある。

 その為、この一週間俺達はゲートに通い続けながら小遣い稼ぎも同時に行っていた。

 その際、得たお金は俺と智咲が三割で式守が四割といった配分にしてある。


「でもこの一週間で50万近く貰ってて、変な気分……」


「探索者は命を懸けてるから、それなりに稼げるからな。将来、探索者として活動するならお金に関しては慣れていた方が良いぞ」


 探索者は危険な職業の一つ、探索者協会などで職員として働く探索者や護衛として働く探索者も普通の職業よりもお金を貰える。

 更にそこから稼ぐ面で考えると、ゲートに行く探索者は最低ランクでも月に100万近く稼げる。

 S級だった頃の金額はそれはもう凄い額……そのせいで、今の数十万ちょっとじゃ驚く事も無い。


「へ~、まさかあの武蔵からこんな凄いプレゼントを貰えるなんて」


「少し前まで絶対に訓練なんかしないって言ってたのにな」


 毎日ゲートに通い続け、流石に休暇も必要だろうという事で二日間の休みを取る事にした。

 そんな休日を俺は、近くの温泉に両親を連れて行く事に使う事にした。


「探索者として稼ぎ始めたからね。親に恩返しするのは、当たり前でしょ?」


「……私の息子がいつの間にか成長してるわ」


「ああ、本当にな子供の成長は早いな……」


 そんな風に言った両親の顔は、凄く嬉しそうな表情をしていた。

 それから二日間、両親と久しぶりに家族団欒を楽しみ休日は終わった。


「武蔵君、両親と温泉に行って来たんだ」


「うん。ここ最近の稼ぎで連れて行けるなって思ってな、智咲も同じ理由で両親を連れて旅行に行って来たんだろ?」


「ええ、まさか私から誘われるとは思わなかったみたいで凄く驚かれたわ」


「俺も同じだったな、自分の息子の成長に驚いてたよ」


 一ノ瀬家もさぞ驚いただろうな、この頃の智咲が両親に何かしらするなんて無かったからな。


「温泉に旅行か、私も親孝行すればよかったかな?」


「お金の使い方は本人次第だからな、強いて言うなら親もずっといる訳じゃないから出来る時にしておけば心残りは少なくなるとは思うよ」


 回帰前、俺の両親と智咲の両親はあるゲートから魔物が出てきた際に逃げ遅れて亡くなった。

 両親は元々は探索者でそれなりの腕をしていたが、普通の生活が長いのと老いによって太刀打ちできなかった。

 その時の俺と智咲は海外に行っていて、戻って来た時にその話を聞いて凄く落ち込んだ。


「そうだね。次の休みの日、お父さん達を連れて一緒に旅行に行ってみるね」


 そうしてその日も夕方までゲートの探索をして、日が落ちる前に家に帰宅した。


「……随分と早かったな」


「武蔵君、久しぶりなのにそんな目で見られると傷つくな~」


 家に帰宅した俺は、リビングから異様な雰囲気を感じ取った。

 いつもなら帰宅すると、リビングから両親の話し声が聞こえてくるが今日はそれが無かった。

 その理由は、リビングに招かれざる客が居た。

 神代 信也かみしろ しんや、神代家の分家の人間で本家で剣術の訓練を担当している者。


「君が探索者として活動をしてると耳にしてね。態々こうして来たのにさ、家族揃って僕は嫌われてるみたいだね」


「……信也。お前が武蔵にした事は忘れた訳じゃないぞ? 何故、本家に従わず暮らしてるのかお前が一番分かってる筈だろ?」


「煩いな~、僕だって好きで来てる訳じゃないよ。上から指示があって来たんだから、そう殺気を送らないでよ……殺すよ?」


 父さんの殺気に当てられた信也は、持っていたナイフを父さんの首元に当て、小さな切り傷が出来た。

 俺は父さんの血を見た瞬間、その場から信也の元に一瞬で移動し、首を握り床にたたきつけた。


「グッ!」


「父さんを殺す? 俺の大事な家族に手を出すんなら、先に俺がお前を殺すぞ?」


 ゲートに行くようになって一週間、何も式守との連携だけに集中していた訳ではない。

 スキルの取得、それはやり方さえ理解していれば手に入れられる。

 俺は一度の人生で得ていたスキルの中で、攻撃に使えるスキル優先的に取得していた。


「お、俺に手を出せば、本家が動くぞ」


「ハッ、自分からは手を出す癖に自分に危害が加えられたら、本家に泣きつくのか? 神代家も落ちたもんだな、こんな馬鹿が訓練の担当者なんて、だから神代家は弱体化してるんじゃないか?」


 俺から押さえつけられてる信也の無駄口に対し、【威圧】で押さえつけながらそう言った。

 今にも失神しそうな信也だったが、寸前の所で俺は父さんに止められた。


「何で止めるんだよ」


「本家の者だからだよ。これ以上すれば、それこそ問題になる」


 父さんはそう言うと、母さんに頼んで信也に回復魔法を掛け、家から追い出した。

 信也は追い出される際、この事は本家に伝えてやる! と負け犬の遠吠えの様な事を言いながら去って行った。


「まさか、武蔵がここまで強くなってるとはね。父さん驚いたよ」


「そうね。もう全盛期のお父さんを超えたんじゃない?」


「ふっ、超えてるだろうな」


 あの後、母さんは夕食の準備をしてくれた。

 夕食の席では父さん達は、無理に笑顔を作ってそんな会話をしていた。


「父さん、母さん。一ヵ月、夏休みの間だけ何処かに避難できない? その間に俺が強くなって、本家から文句言わせないようにするからさ」


「……武蔵。無茶はするな、本家がどれ程大きなものか武蔵も分かってるだろ?」


「そうよ。神代家はただの武家じゃないのよ? 大きなギルドも持っていて、沢山の探索者を直ぐに動かせるのよ?」


 父さん達は俺の言葉に本家の怖さを知っているからか、そんな風に俺を止めようとしている。

 だが俺は、これ以上自分の生活を脅かされるのは無理だ。


「頼む。一ヵ月だけ、俺が安心して強くなれる為に父さん達に安全な場所で過ごして欲しいんだ」


 心配する父さん達に向かって、俺は頭を下げてそうお願いをした。

 俺のそんな態度に驚き、戸惑っていた父さん達だったが俺の気持ちが通じたのか、「分かったよ」と言って了承してくれた。

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