第26話 俺の分は貯めといてくれ
26
俺がグラウンドに出ると石化して倒れた騎士を乗り越えて表に出てきたハンドリーが、グラウンドの異変に気付いて集まって来た騎士たちに剣を突き付けられて牽制されていた。
建物を出てハンドリーに近づいていく俺の背後には騎士団長室の前からついてきた騎士たちがぞろぞろと付き従っている。
俺を見て俺にも剣を向けようとしたグラウンドにいた騎士たちに対して俺について来た騎士の一人が駆け寄った。
「通せ。団長命令だ」
お陰ですんなりハンドリーと合流出来た。
「禿げ頭は割れてないか?」
俺はハンドリーに問いかけた。
「禿げは余計だ。それよりこれはどういうことだ?」
ハンドリーは周囲に立ち並ぶ石化した騎士団員の林を指さした。
「話は後だ。とりあえず相手の気が変わる前に基地から離れよう」
俺はハンドリーに彼の荷物と武器を手渡した。実力試験の実施が決定するまでの間待たされていた控室に立ち寄り置いたままになっていた荷物を回収していたのだ。
俺は背嚢を背負い杖代わりの長い棍を手にしている。金の入った巾着袋は背嚢にしまった。今あるものがこの世界での俺の全財産だ。
俺たちに圧力をかけるつもりなのか俺たちが出て行く様子を見届けようというつもりなのかとにかくぞろぞろと後をついてくるお供の騎士団員たちを引き連れて俺とハンドリーは練兵場の正門から外に出た。
その先までは騎士団員たちもついてこなかったので俺とハンドリーの二人で探索者ギルドまで歩いて帰る。
「それでどういうことだ?」
待ちくたびれたといわんばかりに練兵場から外に出るやハンドリーが訊いて来た。
「あんたが頭を叩かれて気絶させられた瞬間、次は俺だと思ったからな。自分の身を守るために咄嗟に自分中心に『石化』の魔法をかけたんだ。気合が入りすぎたためか魔力が暴走したらしく結果は見たとおりだ。自分でびびったよ」
ハンドリーは唖然とした様子で沈黙した。
しばらくして口を開く。
「言っちゃあ何だが【支援魔法士】の魔法はそんなにかかりがいいものではないはずだろう。だからのハズレ職扱いだ」
「若い頃から即戦力になる
嘘ではない。これまで魔法など縁のない生活だった。
「俺の経験則だが魔法抵抗に関わらず支援魔法がかかる条件ってのが三つあってな。一つ目は相手が酒を飲んで酔っ払っている時、二つ目は相手が心の底から俺の魔法を受け入れようと思っている時、最後は俺が本気で『ここぞ』って思った時だ。今回は『ここぞ』だな」
「『ここぞ』だなんてその気になればいつでもかけられるんじゃないか?」
「いやいやいやいや。本気の『ここぞ』だからな。命に危険が迫っているとかそういう時だけだよ。その分、俺の潜在意識も絶対に失敗できないと思っているからか結果に対して手加減ができないんだ。見ただろ? お陰ですっかり魔力を持って行かれてヘロヘロだよ」
と、そういうストーリーだ。ハンドリーが信じようが信じまいがこれで押し切る。
「その後は? 騎士団長にも会っているようだが?」
「ああ。二階の偉そうな窓の部屋から俺たちの様子をずっと見ていた奴がいただろう。多分、騎士団長だろうとあたりをつけて会いに行った。向こうはいつでも俺が連中を石にできると思っているからな。話は穏便に済んで無事に帰らせてもらえることになった。実のところ途中で気が変わられても何も対応できないからな。さっさと騎士団を離れたかった」
俺は、ほっとしたぜとばかりに大きく息を吐いた。
「それより、ハンドリー。あんた、領主様から騎士団の指導役を命じられた時、他の役割は託されていなかったのか?」
俺は自分の首筋をトントンと手刀で叩きながらハンドリーに問いかけた。
俺を見るハンドリーの目が眇められた。
「手ぶらで帰ろうとする俺に同じ仕草で、俺はメルトに送り込まれたんじゃないのかと騎士団長が訊くんだよ。よくわからんから、俺はハンドリーに実力試験の手伝いに誘われただけだって言っておいた。騎士団の試験結果はゴブリンレベルだって伝えて今後の騎士団の育成計画についてはハンドリーと相談してくれと言ってあるから、あんたはあんたで辞めるも続けるもうまくやってくれ。俺に対して騎士団からちょっかいがかかるのは多分これきりになるはずだ」
「わかった。相談してみる」
ハンドリーは神妙な様子で頷いた。誰と相談するかは言わなかったが多分領主とだろう。
探索者ギルドに辿り着いた。
さすがにヘレンは外で待ってはいなかった。今日、俺が再びギルドに来るとは限らないし、いつ来るかも分からない。ヘレンもそんなには暇でないはずだ。いや、暇なのかな?
相変わらず誰も並んでいないヘレンのカウンターに行き、「ただいま」と声をかけた。
「ギンさん、お帰りなさいませ」
ハンドリーは先に二階に上って行った。
背嚢から騎士団で稼いだ金の入った巾着袋を出してヘレンに渡す。
「半分はハンドリーに。俺の分は貯めといてくれ」
探索者ギルドは銀行的な業務も行っているらしい。
利子はつかないがどこの探索者ギルドでも預けた金の出し入れができる。探索者であれば手数料無料だ。但し、死んで後見人がいない探索者の財産は探索者ギルドに没収される。
探索者の死亡率は高いので、いい商売と言えばいい商売だ。
「俺はギルドマスターのところに寄って帰る。ハンドリーもいるからハンドリーの分は後で持ってきてくれないか?」
「承りました」
俺は二階への階段を上った。
◆◆◆お願い◆◆◆
本作品は「カクヨムコンテスト10」に参加しています。
12月24日現在、総合週間ランキング157位。異世界冒険週間ランキング36位でした。
このような小説が好きだ。
おっさん頑張れ。
続きを早く書け。
そう思ってくださいましたら、★評価とフォローをお願いします。
★評価は、下記のリンク先を下方にスライドさせた場所から行えます。
https://kakuyomu.jp/works/16818093089457549757
なお「カクヨムコン10」につきましては
「クビになった万年Fランク探索者。愛剣が『-3』呪剣でした。折れた途端無双です。」
https://kakuyomu.jp/works/16817330657780970916
でも参加しております。
よろしかったらそちらも読んでいただけるとありがたいです。
よろしくお願いします。
仁渓拝
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます